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0600122

初めて三上先輩の誕生日を祝った日のこと俺は多分忘れない。噂で聞いた誕生日だったから日付に自信がなくて、実際それは1日早かった。だからこそ本当に驚かせたらしく、おめでとうございますと告げたあと先輩は漫画みたいに顔を真っ赤にした。そのときようやく、彼が一生懸命先輩であろうとしていたことに気づいた。
何にも知らないのにセックスをした。あれがセックスと言えたのかどうかわかんないけど。今だって大して変わらない。肉体的にも精神的にも疲れきった頃、小さな声が俺の誕生日を聞いた。

あの日から俺の誕生日よりも、あの人の生まれた日の方が俺の中では重要な1日になってる。だから別に、いいんだけど。
────また今年も忘れてるな。ご丁寧に祝日なんてわかりやすい日に生んでもらったんだから、いい加減覚えてくれればいいのに。別に祝ってもらいたいわけじゃない。あとで気づいた先輩が自己嫌悪に陥ってるのを見るとなんだか悪い気がしてくるから。
……次はお前の誕生日に、って言ったの自分じゃん。「いつもの場所」でわかるようになってしまった待ち合わせの場所でひとり。最近バイトを始めた先輩は何かおごってくれるつもりらしいけど、それも本人=財布がいなきゃどうしようもないって話で。
そう思っているところに携帯が振動する。電話だ。と言うことは。

「……もしも〜し」
『笠井!?悪い!日付間違えてバイト入れた!』
「うん……少しも無理?」
『俺まだ学校なんだよ』

バイト以前の問題じゃないか。思わず時計を見て溜息を吐く。三上先輩が謝り続けた。

「いいですよ、今度で。ランクはあげといて下さいね」
『予算は変えねえ』
「ケチ!」

合間に謝罪を聞きながら少し話をする。忙しい人だ。さっさと大学も決めてしまって、暇を持て余す俺とは大違い。やっぱり慌ただしく電話は切られ、残った俺は歩き出す。俺もバイト探そうかな、学校にばれないところで。

自分の誕生日が来ると、来年のことが気になってくる。もういい加減ネタもつきた。そろそろほんとにウニを買ってきてラッピングするしかない。でも前に中西先輩がやってたしな。あの人は嫌がらせには手を抜かない。 ……何がほしいか聞けば、答えてくれるだろうか。中西先輩は核ボタン、なんて答えてくれたけど……中西先輩、暇かな。誘えば遊んでくれそうだ。
思い立ったら即、メールを送ってみる。暇だったのかすぐに電話が返ってきた。

『三上は?』
「俺よりお金がかわいいみたいで」
『酷いね。今どこ?』
「駅です」
『迎えに行くから待ってて、20分ぐらいで着くから』
「はーい」

車だ。春の間に免許を取ってしまった中西先輩は夏の間に車を入手して乗り回してるらしい。乗せてもらうのは初めてだ。20分経たずに中西先輩はやってきた。車は詳しくないけど、いい車だと言うことはわかる。

「どうぞお姫様」

わざわざ降りてきて中西先輩は助手席のドアを開けた。お邪魔します、と中に。助手席なんてほとんど乗ったことがないので緊張する。

「さあどこ行きましょうか。ご飯食べた?」
「まだです」
「じゃあ先輩が奢っちゃうよ〜、何がいい?和風イタ飯中華…」
「運転手さんのおまかせで」
「じゃあピザだ。俺無性に食いたくてさ」

出発!あとで、後悔した。先輩の性格忘れてた。

 

 

「お前は後輩殺す気か」
「ついうっかり」

代わりの運転手として呼ばれた辰巳先輩はもう慣れっこらしい。そりゃそうか、一番の被害者なんだし。大丈夫か、辰巳先輩の心配そうな顔が見える。

「…乗用車で酔ったのは初めてです」
「中西車は乗用車に適応されないから安心しろ」
「なるほど…」
「失礼ね、ちょっとスピード出ただけじゃない」
「お前なんかさっさと免停になればいいのに…」

最近強気の辰巳先輩は顔をしかめて憎々しげにそう言った。拗ねた中西先輩はぷんと顔をそらす。

「俺が悪かったデスよ!ちゃんと埋め合わせはするよ!」
「いやいいですよ」
「ケーキ食べに行こう、食べ放題」
「男ばかりでか?」
「辰巳への嫌がらせに決まってんじゃん」

一番ケーキの似合わない男は更に顔をしかめる。いっそ凶悪だ。

「是非行きたいとこなんですが、時間…」
「ああ…自分が寮出たら忘れてた。俺がちゃちゃっと飛ばせば」
「やめて下さい!」

中西先輩を悲しませる結果になってもこればかりは甘受できない。辰巳先輩が送るから、と肩を叩いてくれる。

「……三上のバイトって何時まで?」
「さあ…でも塾講師って行ってたから遅いのかな?塾行かないからわかんないけど」
「ふうん…」

あ、悪い顔。

 

*

 

「それで、辰巳先輩に送ってもらったんだ。いいなー、俺も中西車乗りたい」
「……うん、誠二なら耐えられるんじゃない?」 

ギャロップだった。思わず遠い目をしてしまう。更にロデオにも出来るらしいから恐ろしい。
話中に誠二に着信があり、携帯を掴んで部屋を出て行ったのを見ると彼女かもしれない。…彼女と断言しないけど、多分いるんだと思う。変なとこばっかり照れ屋だ。
俺の誕生祝いと称してスナック菓子とジュースで宴会していたところで、さっきまで何人かいたけどうるさい寮長に怒られたので帰っていった。真面目すぎるよなあいつ、損してる。思いながらパーティー開けをしてしまったお菓子を食べる。手持ち無沙汰に時間を見るともうすぐ日付の変わる頃。
廊下が賑やかになってきて、こんな夜中に騒いだらまた寮長が起き出してきてうるさいぞ、とドアを開けて覗いてみたら、何故か中西先輩がいた。予想外、みたいな顔で見てこられて、どうしたんですかと聞く間もなく部屋に突き飛ばされる。

「ちょっ」
「やめろってマジでざけんなよお前らッ!」

……なに、この展開。
一緒に押し込まれたのは三上先輩で、閉じられたドアは向こう側で押さえられてるらしくびくともしない。ってのんびり構えてる場合じゃない、慌てて三上先輩に手を伸ばす。

「中西先輩が絡んでるならもう事情は聞きませんから、とりあえず夜中なんで騒がないで下さい」
「あ……」

我に返った様子の三上先輩はようやくドアを叩くのをやめて振り返る。……なんでスーツ?なんで眼鏡?なんでここに?聞きたいことは色々あるけど、何より目の前にこの人がいる現実。
先輩が静かになったのを確認してか中西先輩が一瞬顔を覗かせ、今日のお詫びとお祝い、なんて言い残して逃げていく。ご丁寧に外から鍵を閉めていったから、誠二もグルだ。……さっきの電話か。

「…先輩、言うことは?」
「ごめん、すまん悪かった!」

合わせる手を払って抱きついた。三上先輩は困惑してるけど、俺は見せられる顔をしていない。絶対緩んでる。諦めてたのに。

「あの…笠井さん?」
「1月覚悟しといて下さいよ」
「何で!?」

ああ、でも俺は会っただけでこんだけ嬉しいのに、俺は先輩に何をしてあげられるんだろう。勝負は1月22日、俺はそれまで囚われてしまう。暇でよかったなあなんてしみじみ感じながらずっと抱きついてると、三上先輩の手が腰に回ってくる。

「…笠井」
「はい」
「お前、手 綺麗?」
「……ノーコメント」
「お前……」

肩にがっくりと頭が落ちてきた。今更ながら、スーツを掴んだ手を離してみる。

「…なんでスーツ?」
「バイト終わりにそのまま拉致られたんだよ」
「ふーん…」

塾ってスーツなんだ。知らないけど。
車の音がして、先輩が慌てて窓を開けると例の中西車が走り去っていくところだった。すでに追いつけるものじゃない。

「どうすんだよ……」
「…泊まるしかないんじゃないですか?」

我ながらつまんねーセリフだなと思った。いつかもうちょっと待っててよ、あんたを悶絶させるぐらい大人になってやるから。畜生とか何とか毒づきながら眼鏡をポケットにしまい、先輩は改めて手を伸ばしてきた。

 

061103

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