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ほんとは広い風呂がよかった。ゆっくり風呂に浸かって1日の疲れを癒やす。そういう予定だった。
しかし家出同然に家を飛び出した笠井に贅沢ができるはずもなく、理想とは違うユニットバス。わがままは言わない。わかっていたことだ。

「まぁ藤代んちにでも入りに行きゃいいだろ」
「あ、そっか…あいつんちの家賃知ってる?10万だよ10万!」
「刺せ」

段ボールの机で食事を終えた。真っ先に新居の台所を使ったのは三上だ。笠井は何もしていない。ラブホって手もあるけど、にやりと笑う三上に箸を投げつける。
片づけとくから風呂行ってこいよ、と言われて始まった会話だった。拗ねたふりをして立ち上がり、件のユニットバスへ向かう。シャンプーやボディーソープは友人による支援物資で、それらがなければ聞いたことのないメーカーの物を手にするところだった。中はシャワーカーテンすらかかっていないので、ドアを開けたまま服を脱ぎ捨てて外へ投げる。その光景を三上が複雑な気持ちで見ているとは気づかない。

できるだけ熱い湯を出して頭から被る。肺の深いところから息を吐きながら胸を押さえた────ドキドキする。目眩がしそうな緊張。どう考えても、……三上が悪い。入居してすぐに三上は来て、まともに布団もないこの部屋で笠井を抱いた。何日かひとりで過ごしたせいか、三上が来るとそのことを思い出してしまう。最低、顔を覆って嘆く。
ドアが揺れた気がして顔を上げると、正に三上が開けたところだった。一瞬硬直したのち、まっすぐ睨みつける。

「なんで入ってくんですか!」
「便所ぐらい行かせろ」
「サイテー!」

我慢しろよ!顔を背けて耳をふさぎ、人の気も知らないで、と恨む。その間にも心臓は走る。体中の血管に血が巡る様子がわかる気がする。早く出ていってくれないだろうか、考えているとシャワーが止まった。止めたのは勿論三上で、おまけにすっかり服を脱いでいる。

「…用足すのに大層ですね」
「ンなわけあるか」

バカにした表情で浴槽に入ってきた三上に思わず平手を向ける。それを防がれたばかりか、そのまま腕を引いて抱きしめられた。

「変態!」
「お前だって期待してんじゃん」
「してないッ」

引き剥がそうとするのに三上は笑うだけだ。まあまあと意味のなさないなだめをして、笠井を壁に押しつけるようにして腰を抱く。うなじに噛みつかれて体が緊張した。

「……どこまでマジなの」
「最初から最後まで真剣」
「ほんとにサイテーだなあんた!」

近い。ダイレクトに触れ合う肌に、感情が揺れないと言えば嘘だ。ここまでされればもうどうにでもなれと考えてしまう自分もいる。だからってそんなわけにもいかない。

「…ダメです、音、響くから……」
「お前が声あげなきゃいいんだよ」

一旦止めたシャワーを三上は再びひねった。浴槽を叩く音が大きくなるように、水量を強くする。なぁ、耳元で囁かれて身を震わし、三上をにらんだ。跳ねる水が三上をも濡らしていく。

「やだッ…」
「ここ以外でやるにしても床じゃねーか。台所とどっちがいい?」
「最低な2択……」

温まった笠井の体を冷たい手が抱く。拒ませる気はない。あんた既に盛り上がってるじゃねぇか。臀部に当たる熱にいっそ泣きたくなりながら、笠井は諦めて唇を噛む。心臓が破れそうだ。

 

*

 

ドキドキする。セックスをしたせいだけじゃない。濡れた髪を拭く余裕もシャワーで流してしまって、タオルを頭に巻いたまま布団、もといたった1枚の毛布の上で丸くなった。まだ痛いほど心臓が脈打っている。
スリルとでも言うようなセックスと、これから一人暮らしを続けると言う現実、三上────もう一体何年一緒にいると思っているのだろう。それでもまだこんなに感情を奪われる。振り回される。

「笠井さーん、タオルくんない?」

ついでにゆっくり入浴していた三上から呑気な声が飛んでくる。よくあのまま平然と風呂へ入れるものだ。今からこのようでは先が不安になってくる。あと何度、あそこで熱を交わすことになるのか。

(しんどいなあそこ…床のがまし…)
「笠井ー」
「……あのですねー、着替えすらまともになち状態で余分なタオルがあると思います?」
「なんでもいいから貸せ」

もう怒る気にもならない。多少濡れているが笠井の知ったことではないので、タオルを外して持っていく。

「…ほしいですか?」
「そりゃな」
「風呂掃除」
「……」
「風呂とトイレ、掃除してくれるなら渡します」
「お前…」
「ん?」
「……たくましい奴」

必死の虚勢を見破られないうちに約束させた。心臓はまだ収まらない。

「あと布団買って」
「買わねえ」  

 

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調教した、と言われれば否定はできないかも知れない。足の間で丸くなって、舌を這わす笠井を見てそんなことを思う。
高校の時は学校の雰囲気によったのか、思っていたほどその手の話題はなかったが、大学へ入ると増えたように思う。つき合う友人にも理由はあるだろう。いわゆる名門と呼ばれる武蔵森は共学とは名ばかりで、おまけに全寮制であったために彼女持ちなど数えるほどだった。
今日、聞かれたときに彼女がいると答えた。よかったのか悪かったのか、答えは出ない。他のことを考えているのがわかったのか、顔を上げたかと思えば笠井は口元を拭って背中を向けてしまう。慌ててその腰を抱き、丸い肩に唇を落とした。

「笠井」
「噛まなかっただけましだと思って下さい。……せっかく来たのに」
「ごめんって」
「誠実さ……とかないんですか」

双丘に手を這わせながら首筋に吸い付き、腰を浮かせる。一旦指を添えかけ、一度笠井を手放して探し物を始めた。不満気な声が鞄の中、と冷たく告げる。

「……笠井……お前したくないならしたくないって言えよ」
「俺がしたくなくてもするじゃん」
「するけど」

コンドームとローションと。ずっと以前にはこんなもの使わなかった。金も余裕もなかったガキだったから、傷つけてばかりだったのに懲りずに繰り返した。

 

濡らした指を埋め込んで、笠井が眉をひそめる。するのは勿論、会うのも久しぶりだった。四つん這いにさせておいて、侵入させた指を動かした。ゆっくりと何かを探すように。

「ッ……先輩、」
「痛い?」
「じゃなくて、」

指を増やすと体を震わせる。もう知り尽くした体を確実に狙って攻めれば、細い悲鳴を殺して、腰を揺らした。調教したんだろうと責められれば認める。でもそれはこっちも同じだ。薄着の女に目は行っても、抱きたいのは。
やや乱暴に指を動かせば、そのうち声も我慢できなくなってくる。男とも女とも取れないこの声が好きだ。変態と言われそうだけど。大して解してもいないのに一気に指を引き抜く。

「あっ」
「ワリ、我慢できねぇ…」

入れる。しなる体を抱きしめて、ぐっと奥まで押し込んでしまうと小さくバカと呟かれた。そんな余裕があるうちは手加減しない。笠井自身に手を伸ばし、少しだけ先端を擦ってやるともうトロトロに濡れている。そこはそれ以上触らずに、うなじに噛みつきながら胸や腹を撫でる。腰は動かさないままで、気づいた笠井は首を振った。背中に歯を立てるたびに、指先で乳首を転がすたびに笠井に締めつけられる。

「やっ、せんぱい…」
「何?久しぶりだしゆっくりやってやるよ」

意地悪、どんな顔をしてるのか見てやりたかった。でも多分想像通りだ。自分で腰を動かすのだけはしない理性が残っているらしい笠井は、いつまで焦らされるのか考えているのだろう。

「あ────も…」
「ん?」
「動いて……」
「ッ…」

予想以上だ。破壊力の強い一言を受けて、喜んで腰を押し進めた。耐えた分声を気にする余裕もなくなったのか、動くたびに甘く溶けきった声が耳に届く。ふっと思いついてしまって、笠井のものを緩く握る。一際高い悲鳴が上がったのも無視して動きを止めない。

「まっ、て!やだっ、あっ…」

イった。吐き出してはいないが錯覚じゃない。先走りばかり零す先を、指先だけで触ってやると震えた声で制止した。素直に止めてまた奥目指して突き動かして、だけど押さえた手は離さない。

「や、だ…って、三上先輩!」
「何?」
「またッ…ン!」

力の入らない体を布団に預け、それでもなお立ち上がったままの熱。さいてい、そんな声が聞けるならこの際内容は不問だ。手を伸ばしてやめさせようとしてくる。その手を一緒に握って笠井を擦って、最奥に熱を押し込んだ。息が止まる一瞬。

 

寄生されてる気分だった。よりにもよってそんな気持ち悪い表現をしなくても良さそうなものだが、布団に沈んだ笠井が照れ混じりの目で睨んでくるから許してやる気になる。

「三上先輩大学入ってから変態度が増した」
「…変態の友達が増えたからな」
「サイテー」
「変態に向かってでかい態度とるとどうなるか知ってるか?」

黙って視線を逸らされる。隣に潜り込んでまだ裸の体を抱きしめて、いい子いい子と撫でてやるとどういう態度に出るが迷っていた。
でも確かに、調教したというよりは寄生している。俺は与えられてばかりだ。

「俺、お前がいないと生きていけないのかな」
「……死んだ俺から抜け出して、また誰か見つけるんじゃないですか?」
「…だから悪かったって…」  

 

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