「ネコー」

ネコとは名前であるらしい。


そ こ 退 け   そ こ 退 け   お ネ コ が 通 る


「お、発見」

にゃあ

前足の下に手を差し込んで、ご主人がネコを抱き上げる。帰ってきたばかりらしく、制服姿だ。
ドラム缶の形のバッグを床に置いている。少し開いていて、無性にその隙間から入りたい衝動に駆られた。
慣れた仕草で抱き締められて、その腕の中に収まる。

「ってお前足濡れてんじゃん。溝歩くなよなー」

そうは言いつつネコを降ろさないご主人。
相当ネコに狂っているようだ。まぁそれも悪くない。

ネコはご主人が好きだ。
ご主人もネコが好きだ。

だけどご主人には他にも好きなモノが居る。


「うわっミカミ先輩シャツに足跡付いてるじゃないですか!」


・・・カサイだ。
カサイというこの男、実は同種ではないかと踏んでいる。
ネコマタと言う奴に違いない。双眸が我々とよく似ている。

「おーカサイ丁度イイ、鞄運べ」
「何でですか。大体ミカミ先輩の鞄無駄に重いんですよ」
「今日は軽いぜ?持ってった本全部返したから」
「・・・・・・・・・」

カサイはご主人の腕からネコを抱き上げる。顔は不機嫌だ。
ご主人の足下にしゃがみ込んだかと思うと、鞄の口を大きく開けてネコを放り込んだ。
ネコが体勢を持ち直すのを待たずにカサイは僅かな隙間だけ残して鞄を閉める。

「あっ!」
「コレでネコも持てるでしょ」

ツンと冷たく言い残しカサイが歩いていく(気配がした)。
ネコとご主人があまりにも仲がイイので妬いているらしい。

「ったく・・・何拗ねてんだか」

ご主人は深く溜息を吐いて鞄を持った(多分)。
ネコは出してもらえないのか・・・。
・・・む、何だこの紐は。





「・・・ミカミ、又シャツに足跡付いてるぞ」
「さっきネコ捕まえたら足濡れてたんだよ」

どうやら部屋についたらしい。
同室のシブサワとか言う男の声がする。キャプテンと呼ばれていることもある奴だ。
名前が沢山ある点ではネコと同じかも知れない。
こいつはデカイので嫌いだ。高いところから見下ろされるのは好ましくない。
やっと鞄が床に着き、ご主人が鞄を開ける。

「あっ!お前それMD・・・」

・・・ん?この紐のコトか?
遊んでいるウチに何やら前足に絡まってしまった。
ご主人がそっとそれを外してくれる。

「あーあ・・・なぁシブサワ、導線見えてる奴使ったらやっぱあぶねぇよな」
「まぁやめておいた方がいいだろうな」
「あーあ・・・」

な・・・何かしただろうか。
確かに少し歯は立てたかも知れない。

「・・・まぁいっか」

・・・ご主人はネコに弱い。

「と言うかミカミ、それ以前に学校にMD持って行くのは」
「あーもー細かいこと気にすっと禿げるぞ」
「ハゲ・・・・・・。・・・いつ使うんだそんなもの」
「あぁ?授業中」
「・・・・・・・・」
「あーそうだ渋沢ぁ、バァさんが何か呼んでたぞ」
「ミカミ・・・寮母さんをバァさん呼ばわりはないだろう」
「いーからさっさと行って来いよ」
「まったく・・・」

ご主人がバァさんと呼ぶのはハツエさんというヒトだ。
ネコのことをミイなんて呼んだりするが、ハツエさんのくれる物は美味しいので許すことにした。

・・・そう言えば小腹が空いた。
ご主人の机の横に置かれた、ネコの皿の前に行ってご主人を呼ぶ。
赤い皿にはキャットフードは残っているけど、どうも魅力を感じない。
ご主人が気がついてネクタイを外しながら皿の傍に置かれた袋を手に取った。キャットフードが入っている袋だ。
中にある器を使ってご主人は皿をキャットフードでいっぱいにする。
鼻腔をくすぐる臭いがして、ネコはキャットフードの山に向かった。

「何だもう殆ど入ってねぇじゃん。金ねぇのになー」

・・・・・・・・・
ご主人が何か言いたげにネコを見ている。

「・・・お前絶食し・・・イヤイヤ」

・・・ご主人・・・・・・・・・。
これではカサイに嫌がらせされてもしょうがない。



・・・ご主人はさり気なく面倒臭がりだ。
面倒臭がり故合理的に行動をする。
制服を脱ぐのと同時にパソコンの電源を入れ、その足で着替えを出して窓を開ける。手がふさがってるときは足で窓を開けたりする。
そのうち足でドアノブが開けられるようになるんじゃないかと思っていたのだが流石に無理のようだ。
ズボンを脱ぐ前にパソコンを操作した。

「・・・あー・・・何だコレ・・・変なメールきてっし」

ご主人、幾らネコが居るからと言って一人言はどうかと思う。
腹もふくれたことだし、さて寝ようか散歩に行こうか・・・

「ミカミ先輩ちょっといいですかー」

む、カサイ!

「・・・お前ノックぐらいしろよ・・・」
「て言うかココ開いてましたよ。俺はミカミ先輩じゃないんで男の上半身見ても欲情しないんで安心して下さい」
「・・・お前は俺が体だけが目当てだとでも思ってるのか?」
「えっ?違うんですか!?」
「・・・・・・」
「・・・まぁいいか、先輩オカモトさんって知ってます?」
「(よくねぇ・・・)誰それ、男?女?」

ご主人がTシャツをかぶる。
・・・どうもこの二人の関係は掴みにくい。
恋人同士なのであろうが時々物凄く仲が悪そうな会話をする。これも人間の愛情表現なのか。
カサイと目が合って鳴くと、カサイは入ってきて抱き上げてくれる。
ご主人は気分によって荒っぽいのでネコはカサイに抱かれる方が好きだ。

「イヤ多分女の人だと思うんですけどね。どうだろ、男かなぁ」
「はぁ?何それ」
「何でも良いけど着替えないんですか?」
「・・・・・・」
「・・・イヤ・・・俺相手に照れられても困りますけどね」

照れると言うよりはマヌケなのだ。
おそらくご主人はそれで着替えないのであろう。
ズボンを脱いで下半身パンツ一丁になるのだ。それから又ズボンを履くなど、なんとまぬけな格好だろう。ウム、猫で良かった。
ご主人は誤魔化そうとしてるのか、そのまま机の椅子に座ってパソコンに向いた。

「・・・で、何でオカモトって奴の名前が出てくるわけ?」
「今日昼休みにクラスのヤツが怪我したんで保健室行ったんですよ」
「ふーん」
「保健室って記録みたいなの書くじゃないですか、そこにあったんですよ」
「オカモトが?」
「ハイ」

カサイがネコの背を緩く撫でる。
少し落ちかけて、抱き直してくれたので肩に少しだけ爪を立てた。

「何で俺が出てくんの」
「オカモトvミカミって相合い傘書いてあったんですよね」
「っっ!!?」
「結構古い日付何ですけどぉ、ちょーっとミカミ先輩の筆跡に見えた気もしたんでぇ。
 でもウチの学校に「ミカミ」って多分他にもいますよねぇー?」

わざとらしい口調でカサイはご主人の背中を攻めた。
ご主人、背中が頼りない。

「・・・さぁー・・・誰かしらねぇけど俺じゃねぇなぁー」
「ベッド使用って書いてあったんですけど」
「イヤ、それは冗談で書いただけで実際使ってません」
「・・・つまりオカモトは実在、と」
「・・・去年同じクラスでした」
「そうですか」
「・・・・・・・・・ホント何にもないです」
「そうですか」

ご主人・・・。
ネコはカサイが飴と鞭の鞭しか使っているところを見たことない。
イイヤ、実際の飴は食べていたけどそれも嫌がらせのようだった。ご主人はどうも甘い物が嫌いらしい。
ネコはそれでも全然構わないのだが。ご主人が気紛れに買ってくるさきイカは旨いと思う。

「・・・まぁいいか」

しばらくご主人を睨んでいたカサイだったがやっと息を吐いた。
ご主人がほっとする。
情けないヤツだ。
こんなのでも一応ネコのご主人であるから、ネコは好きだが。

「先輩、今日こそ花火しちゃいましょうよ。いい加減やらないと使えなくなっちゃいますよ」
「お前等勝手にやりゃいいだろ」
「えー!俺は先輩と花火したいのに!」
「・・・・・・俺が片付け係でか?」
「あっ効かなかった!」
「・・・・・・」
「カワイイコト言ってみれば使えると思ったのにな・・・」
「どうせならベッドで言って下さい」
「先輩しよ?」
「・・・花火じゃないことなら今すぐにでも」

あっわきわきしてる!
ご主人の手が!わきわき!

「・・・ネコ・・・この人もうダメだよ・・・。今日も一緒に俺の部屋で寝ようか」
「カサイ君ストップストップ」

相変わらずこんな話になるとご主人は行動が素早い。
カサイが振り返った瞬間にはもう服の裾を捕まえていた。

「・・・ネコ、今だネコパンチ」
「残念でしたー、ネコは賢いからご主人が誰か判ってるんだよー」

・・・やる気満々だったのだが。
ご主人が、ヘタするとカサイに触れるのよりも優しくネコを撫でた。
ちょっと気持ちよかったのでその手に額をこすりつける。

「・・・可哀相にネコ、この変態に汚染されちゃったんだね」
「それはカサイちゃんも一緒じゃねぇの?」
「さぁどうでしょう?」
「そんな事言って俺がいないと駄目な癖に?」
「逆でしょ?」
「・・・・・・」

あっご主人反論は!?
・・・ネコのご主人はヘタレだ。
不意をつかれると言葉をなくすらしい。

カサイがクスクス笑うとご主人は照れて頭を掻いた。



「ネコも大変なヒトご主人にしたね」



ふむ・・・・・・

しかしそれはカサイも同じじゃなかろうか。





何だか機嫌の良くなったカサイはご主人のベッドに座り込んでネコの頭を撫でてくれる。

「あーそうだ、フジシロがこの間オークションでゲームがどうのって言ってたじゃん」
「オークション?あ、ネットか。 言ってましたね、ミカミ先輩に頼んだとか」
「寝過ごしたっつっといて」
「えー!自分で言ってくださいよ!そんなの俺に文句言われるに決まってるじゃないですか!」
「半分はカサイの所為だしなぁ、受け持て」
「・・・・・・いつの話ですかそれ」
「昨日」
「・・・ダメだネコ、あの人夜更かししすぎで日付の感覚無くなってる。昨日は俺ネコと一緒に寝たもんねー?」

うむ。
カサイはフジシロと違い寝相がよいので一緒に寝るには丁度良いのだ。
何故かネコを黒と呼ぶ、フジシロと言うあの男は騒がしすぎてどうもいかん。
悪いヤツではないのだが、本能的に距離を取ってしまう。

「・・・あれ?」
「三上先輩と寝たのは一昨日です」
「・・・・・・・」

ダメだなご主人・・・。

ネコは今悟った。
カサイがご主人のご主人なのだ。

「薄情なヒトだね?」

だけど面白がってカサイは笑い、ネコの上半身を抱いて前足を浮かせる。どうも今日は機嫌がいいようだ。
何かあったのかと聞いてみる。カサイにはにゃあとしか聞こえない。
カサイは又クスクスと笑って、ネコの鼻先に口付けた。
ご主人が立ち上がった気配がしたかと思うと、既にネコの後ろに待機している。

「笠井さん何か御機嫌じゃない?」
「さぁ?そうですか?」
「どうせネコにすんなら俺にして欲しいんだけど?」

バカですか、と笠井は言ったが笑っていた。
これは珍しいことだ。


カサイの手がネコの目を覆う。
ネコの上にご主人の影がかかったのが判った。
すぐ傍でベッドが軋む。


ハァ・・・

また追い出されるのだろうか。
ナカニシに寝床を借りるとしよう。

 

 


ややややっちゃいました!!
ずっとやりたかったんすよコレ!!ネコ視点!!うへー!(?)
ていうか今回甘々ぽくないっ!? ・・・ぽくないですか?(オカモトとか誰だよ)

にゃんこの一人称と口調に困った。
始め一人称を「吾輩」にしようと思ってたので名残で口調がこんなです。
「吾輩は猫である/名前は未だない」て始めようかなぁなんて思ってたので。原作読んでないのでやめました(挫折した)。
それとマタムネ(マンキン)の影響が・・・

20020819

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