「・・・・」

溜息が出た。

「・・・キャプテン、油性ペン持ってません?」
「極太ならあるぞ」
「ベストです!」


油 性 ペ ン に 魔 力


「ん・・・」

起き上がって三上は腕時計を見た。
少しうたた寝していただけのつもりだが結構時間が経っている。既に夕食の時間だ。
急に圧迫感に気が付いてみれば、胸の上にネコ。気持ち良さそうに眠っている。

「・・・お前重い」

ネコの方は完璧無視だ。

「・・・・」

起きようかどうしようか迷った。
空腹感は余りないが、朝まで保つわけがない。

「三上せんぱーい、晩飯要らないっすかー?」
「お前勝手に入ってくんなよ!」
「いいじゃないですかー、キャプテンには許可貰ったんですから」

藤代が口を尖らせて部屋に入ってくる。
恐らく一番先に食べ終え、呼びにいくという名誉ある(?)仕事を任されたのだろう。

「あ、クローv」
「勝手に名前付けてんじゃねぇよ」
「先輩が名前付けてあげないからじゃないですか!」

三上が子猫を拾ってきてから数か月。
内緒で飼い始めたネコに、一応飼い主である三上はまだ名前を付けていない。

「じゃあお前捕まえたポケモン全部に名前付けろ」
「無茶言わないで下さいよ、俺ちゃんと全部揃えたんスから」
「中西にミュウ作ってもらってか?」
「あの人は裏技の宝庫です!」

三上は苦笑して藤代を流し、依然腹の上で機嫌良く眠っているネコを撫でた。

「ほらー、先輩飯・・・」

改めて三上を見た藤代が言葉を切る。
何となく嫌な予感がした。

「ッ・・・!」

藤代がその場に崩れ落ちる。
声を押し殺して、床の上に丸くなって小刻みに震えだした。

「・・・何だよ・・・」
「・・・アハハハッ!!」



   猫



ご丁寧に、鏡に映すとそう見えるように左右反転させて書いてある。
額に。
藤代を寄越した理由はコレだと三上は直感的に感じた。彼が一番リアクションがでかい。

「格好良いっスよ」
「笑いながら言ってんじゃねえよ!」

鏡を藤代に投げ付けて三上は立ち上がった。
まどろんでいたネコが慌てて三上から飛び降りる。

「誠二ー先輩起き・・・たみたいですね」
「タッ、タクッ、アレ何ッ!?」

部屋に入ってきた笠井に藤代が飛び付いた。
笠井は藤代の視線を追って三上、そして猫の文字を確認する。

「・・・左手で書いた割には上手くない?」
「お前か・・・」

三上の手が笠井を捕まえた。手の平が緩く首を絞める。
本気で絞めるわけがないと判っている笠井は大して表情を変えない。
肩越しに見えるネコは毛布を少し前足で踏みしめて、スペースを決めてベッドの上で丸くなっている。

「お早うございます先輩。もう晩飯の時間終わりますよ」
「コレで行けってか?」
「男前上がりましたよ」
「俺これ以上男前上がっても困るからぁ。お前にもやってやろうか?」
「丁重にお断わりします。俺の男前が上がっても先輩困るでしょ?」

にこりと笠井は三上をかわす。
若干三上の手に力がこもった。

「あとね先輩、先に言っときますけど腹は俺じゃないですから」
「・・・腹・・・?」

三上の片手が腹を押さえた。

まさか。

笠井の肩越しでは藤代がわくわくした表情で時を待っている。
既に笑う準備も万全だ。

「・・・お前何書いた」
「だから俺じゃないですってば。発案辰巳・筆渋沢・修正中西の豪華メンバー」

・・・タチ悪いとか言うレベルじゃない。
ぎゅっとトレーナーが引っ張られた。視線を落とすと、笠井の手が服の裾を掴んでいる。
今すがられても嬉しくない。

「万歳ッ」
「万歳じゃねえ!」

反射的に力を入れられず、笠井が勝ってトレーナーを捲り上げた。
空気に曝された肌は直ぐに三上によって隠される。
しかしその僅かな時間にしっかりと目撃した藤代が、笠井の後ろで悶えていた。

「誠二見えた?」
「最っっっ高!ヒーッ、夢見そう!」
「俺も見せてよ、ちゃんと見てないんだよね」

笠井が再び服を捲った。
また顔を上げた藤代が一瞬真顔になってそれを見て、直ぐに床に突っ伏して笑いだす。
隠しても消えないと諦めた三上は、何が書かれているのかだけでも確認する。

「・・・・」


  暴 れ ん 棒 将 軍


どこかで見た事あるような修正をされた言葉が三上の腹の上で輝いていた。
達筆だ。

「・・・・」
「わー、すっごい。まんまですね」
「テメ・・・」
「キャプテン字巧いなぁ〜」
「暴れんぼ・・・・アハハハ!」
「藤代うっせぇ!てめぇにも書くぞ!?」
「ヒーッ、誰かに教えてこっ」
「あっ藤代!」

藤代が部屋を飛び出した。
勢いが良すぎて閉まらなかった部屋のドアを、笠井が三上の為に閉めてやる。

「あいつ・・・」
「中西先輩凄いなー。俺思いつきもしなかった」
「思いついて堪るかッ」

すっかり不貞腐れた三上はベッドに向き直り、ネコを移動させて再び布団に潜り込む。
殆ど熟睡していたネコは少し向きを変えただけでその場で丸くなった。

「・・・セーンパイ」
「知るか」
「先輩怒んないでよ」
「誰だって怒るっつの!」
「・・・だって先輩が悪いもん」
「は?」
「・・・俺行くってゆってたのに寝てるんだもん、ネコと」
「笠井・・・」

笠井がするりとベッドに上がってきた。三上の上を跨いで少しずつ上体を倒す。
唇が触れるか触れないかのところで、―──────吹き出した。

「っ・・・テメェでやってて笑ってんじゃねえよ!」
「だ、だってそれでシリアスされてもっ・・・!」

笑いを堪えようにも堪え切れず、笠井は三上の上でうずくまる。
胸から笑っている振動が伝わってきて、三上は腹立たしげにそれを引き剥がした。

「アハハ、ごめん先輩。怒んないで」
「・・・・」

笑いながら笠井が額(の「猫」)に軽くキスを落とす。
隣に入れてもらい、三上の頭を抱いた。

「みんな風呂終わったら一緒に行きましょうか、俺今日風呂点検ですから」
「誰かいる時間になんかぜってー行くか」
「晩飯はキャプテンに頼んできましたし」
「・・・・」

狭いとネコが訴え、三上の上に乗ってくる。
気付いた笠井が起き上がって、ネコを自分の方に抱き寄せる。

「────―先輩、俺とネコどっち好き?」
「・・・何馬鹿なこと言ってんだか。女王様は自分がネコより劣ってるつもりか?」
「・・・聞いただけですよ」
「可愛くねー」
「可愛いもーん」
「自分で言うな・・・」
「だって可愛いでしょ?」
「・・・まぁキスしたいぐらいには」
「・・・・・・プッ」
「だからやったのお前だろッ!」






「何だ、消えちゃったのか」
「たりめーだッ」

残念そうに中西が三上の腹を撫でた。
妙な手付きに三上がそれを振り払う。

「ところで笠井は?」
「遅刻!」
「・・・何でそんなに誇らしげなのさ」
「近藤先行くぞー」

練習着を着て、三上は先に部室を出ていく。
珍しく御機嫌に朝練に参加の三上を、根岸が少し怯えて見ていた。

「・・・なぁ中西」
「なーに、近藤」
「・・・何で三上なんだろうなぁ・・・」
「友達にしちゃ酷い発言ね」

のんびりと着替えながら、中西は笑う。

「愛されてるよねぇ」
「・・・でもアレぜってー気付いてねぇよな・・・」
「気付かなくていいんじゃない?」




背中に「売約済み」なんて書かれてちゃ、三上も怒っていいのか喜んでいいのか判んないし。

 

 


参万打記念でフリー。バンザーイ。
皆様どうもアリガトウ。

ちょっと猫が久しぶりな気がしたので書いてみました。
しっかしお前タイトル・・・!何アレ!

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