「三上起きろ」
「・・・・・・」
「笠井居ないからもう誰も起こさないぞ」
「・・・は?何で?」
「俺が知るか。お前が何かしたんじゃないのか?」
「してねーよ」

むくりと起き上がった三上に、渋沢はネクタイを締めながら次からはこの手で行こうと考える。
いつになくはっきりとした発音に笠井の強さを知った。

「真っ先に寮を出たらしいぞ」
「はぁっ!?もう居ねぇの!?」
「らしい」
「はぁぁ〜〜〜?意味わかんねー」

時間を見るために三上は携帯を覗き込んだ。
表示されてる日付は寝る前に見たのと同じもの。

「あぁそうだ、誕生日おめでとう」
「・・・・・・お前に言われると親父に言われた気分」

かすかな殺意の生まれた朝。


一 日 限 定 逃 亡 者


「三上センパイおはようございますっっ!!」
「・・・あー・・・ハヨ。何?俺急いでンだよ」

何、とは聞けど、その紙袋を見れば何となく分かる。
もっとも渋沢に言葉を貰わなければ気付かなかったかもしれないが。

朝イチバン。
寒いのに早くから校門で待ってたんだろうか、確かに他者を出し抜くには作戦勝ち。
だけど残念、彼の隣は予約済み。

「あ、あのっ、これっ・・・」
「ごめん貰えない」

質素簡潔。だけど隣が埋まる前よりは口調も柔らかい。
無意識に、だけど自分でもそれを自覚している。

「付き合ってる奴いるから、気持ちは嬉しいけど半端な気持ちじゃ受け取らない」
「・・・・」

受け取れない、じゃないことに、気付いて欲しい。

避けられているという結論にしか思い当たらなくて。
焦っていた。
嘘でも方便でもいい、こんなところに留まってる暇はなかった。
だけど嘘でも方便でもない。

「ありがとう」

校舎の中に逃げた。





「お、三上オハヨー!早ェじゃん」
「ちょっと急いでンだよ」
「あ、ヒデェ!ちゃんと誕生日覚えててやったのに」
「・・・あ、あー・・・」

冗談でプレゼントよこせと言ったのを覚えていたらしい。
もっとも目的はお返しであろうが。
やっぱり鞄持ったまま笠井の教室に寄ればよかった、と三上は少し後悔する。

「何?自分の誕生日忘れてた? ハーイプレゼント」
「サンキュウ、鞄入れといて」

殆ど空っぽの通学鞄をクラスメイトに投げておいて、三上は教室に入らずに走り出した。
3年の教室は1階であるため、その上、2階が2年の教室だ。
まだ登校してる生徒は殆ど居なかった。誰ともすれ違わず、電気のついてない教室の前を通り過ぎる。
笠井の教室は丁度真上・・・

「・・・いねぇしッ」

そこは空だった。
隣の教室同様電気もつかず、しかし薄暗い部屋のほぼ中央、笠井の席には鞄がおいてある。
もう探す気も失せて、でも腹の虫はおさまらない。
勝手に笠井の鞄を探り、ペンケースから油性ペンを取りだした。



「・・・行ったかな・・・」

隣の教室から笠井がこっそりと戻ってきた。
何かして行っただろうとは予想がついたので机に近づき、ペンケースから消しゴムを出してくる。

昼休みここに居ろ

表面がコーティングされた机の上にでかでかと、油性ペンでそれは書かれていた。
笠井は溜息をついてそれを消していく。

「これって昼休みここにいなきゃいいんだよね」






「藤代笠井はッ!?」
「パシリで購買行きましたよー」
「クソッ・・・」

力つきた三上がドアにぶつかるようにもたれかかる。
パンをかじりながら養護班藤代が茶化しに向かう。

「先輩頑張って下さいよ!俺の新500円玉のために!」
「・・・あ?」
「先輩がタク捕まえられるかどうか賭けたんスよ」
「知るか!お前あいつが何で逃げてるかしらねぇ?」
「・・・先輩が何かしたんじゃないんスか?」
「お前な・・・」
「えー?俺てっきり誕生日だからって先輩が何か強要したのかと・・・・・・あ、誕生日おめでとうございます」
「お前に言われてもな・・・」
「・・・チョコボールいります?」
「いらねぇ・・・」

三上は溜息をついて立ち上がる。

「購買行って来る。すれ違うかもしんねぇから引き留めとけ」
「あ、それは無理っス。賭けの参加者は手ェ出しちゃいけないんすよ」
「・・・お前だけじゃねぇのか・・・?」






結局捕まえられずに放課後まで至る。
部活で捕まえてやる、と意気込んだ三上だが、どうも今日の彼はついてないらしい。

「今日はポジション別の練習を行う」
「は?」
「───三上何か?」
「あ、や、何でもないっス」

監督のひと睨みを素早く避けた。
視線だけでも捕まえてやろうと視界の端に笠井と映そうとするが、捕まったらしい辰巳が盾代わりにされている。

「・・・笠井何かされたのか?」
「いいえ別に?誕生日なんだしいつもの違うのもいいじゃないですか」
「そりゃいつもと違うが・・・」

何を考えているのか知らないが、笠井は辰巳の陰で不適に笑う。
監督にまで手を回したんじゃないだろうかと思わせる表情だ。

「・・・あ、監督には何もしてませんからね?」
「・・・・。・・・三上見てるぞ」
「あ、ちゃんと盾になって下さいよ。見つかったら最後です」
「・・・何でだ?」
「誠二達と一口500円で賭けたんです」
「・・・・・・・・・」

心底三上が報われないと思った。





「もうヤメた」

「・・・・・・」
「もーアイツわけわかんねェ。今更どうしてこようが許さん」
「・・・・・・」

三上を哀れむように、同室の渋沢は溜息を吐く。しかしまぁ、三上にしてはよく保った方だろう。
言いながらしきりに携帯を気にする姿が哀れでならないが、チームメイトとしてルームメイトとしてそこは見なかったことにしておこう。

「・・・寝る」
「早いな」
「暇」
「・・・・」

いつもなら暇つぶしに開かれるノートパソコンも、今日は起きる予定がないらしい。
早速ベッドに潜り込んだ三上を見て、渋沢はまた溜息を吐いて部屋を出た。








「せんぱい」

「・・・・」
「三上先輩。せーんーぱーいーっ」
「んだよ・・・」

起こされた三上は、どうにか目を開けて硬直する。
今日一日三上を避け続けた笠井がベッドの傍に膝をついてこっちを覗き込んでいた。

「先輩おはよう」
「・・・何・・・だよ」
「ただいま1月22日12時54分」
「・・・・」
「誕生日おめでとうございます」
「・・・・・・何で?」

三上が上半身を起こした。
笠井を直視できずに、だけど体を動かして隣を空けてやる。暖房を切って大分経つであろう部屋は冷たいはずだ。

「・・・だって先輩色んな人に祝われるから」
「・・・・」

笠井が素直に隣へ上がった。
三上の隣に座って、笑う。

「だったら一番初めを狙うより一番最後を狙った方がいいかなと思いまして」
「・・・アホだろ」
「なっ!俺を捕まえられなかった先輩に言われたくありませんね!」
「だったら逃げンなよ!ったく・・・お前協力者多すぎ。昼休み購買行っても見つかんねぇし」
「人望です」
「嘘吐け」

少し三上の様子をうかがった。
はぁ、と溜息を吐いた三上にやりすぎたかと少し後悔する。

「それに先輩今日ずっと俺のこと気にしてたしね」
「・・・・」

確信犯のセリフに思わず顔をしかめる。
多少照れ隠しの意味を含むそれは、笠井の言葉が本当だったと思い立ったからだ。

「ね、先輩、誕生日おめでとう」
「・・・どーも」
「誕生日プレゼント何がいい?」
「・・・今聞くか?」
「思いつかなかったから」
「・・・笠井竹巳」
「それは無理です」
「何で」
「だってもう先輩のものじゃないですか」
「・・・・・・じゃあ何もいらねぇ」
「そうですか」

「寝よう」
「ん」

笠井がもごもごと三上の横に潜り込んだ。
引っ張った毛布と一緒に笠井を抱きしめる。

「敢えて言うなら」

毛布越しに三上が口を開く。

「もう一回22日欲しい」
「・・・じゃあ来年は一番に言いますね、校門で待ち伏せして」
「・・・見てた?」
「ていうか先輩全然気付かないんだもん、俺全部見てたのに」
「全・・・え?」
「どうせ今日一日の間に嫌でも告白されてるところ見るぐらいだったら全部見てやろうと思ってつけ回してたんですが」
「・・・知りません。どうりで見つかんねぇよ・・・」
「(あんま関係ない・・・) ・・・じゃあこうしましょう」

笠井がもごもごと手を伸ばす。
枕元に置いていた三上の携帯を手にとって。

「ちょっと借りますよー」
「おい」
「・・・ん、22日」

少しいじった携帯をぱくんと閉じて笠井が笑った。
思い出した様に自分のポケットからも携帯を出してきてカチカチとポタンを押していく。
ディスプレイから漏れる明かりが笠井の顔を照らした。

「22日」

くすくす笑いながら笠井が自分の携帯を三上に差し出す。
デスクトップに表示された日付は、22日になったばかり。

「俺と先輩だけの22日」
「23日は?」
「何もないしいらないや」

自分で言ってて照れたのか、笠井が毛布を引っ張った。
笠井の携帯も閉じて自分のと並べておくと、三上も毛布を引っ張り上げて毛布の中で笠井を捕まえる。

「キャプテンの日めくりカレンダーも戻ってくる前にテープか何かで張り付けちゃってさ、明日朝一番に学校行って教室中の教室に1月22日って書いてくるの」
「怖ッ」
「それからどっか行こう」
「ガッコは?」
「明日持久走あるからいい」
「何だそれ」

三上が吹き出したので笠井も笑う。
だけどヒットしたらしい三上はやたら笑い続け、止まる気配がないので軽くキスをして強引に止めてやった。

「飛葉中明日創立記念日で休みなんですよ。だから飛葉中って言っちゃえばいいし」
「うっわ大胆。映画でも見に行く?」
「ん」

「・・・じゃ寝るか、朝イチで起きねぇと」

 

 


バカッポォ。
・・・え・・・バカッポォ希望だったんですが・・・・・・。

いや・・・初めはこういう結果になる予定じゃなかったんですけどね・・・
邪道を目指してたんですが・・・(え)。・・・いいかおさまったし。

三上はぴばすでぃ。
祝ったつもり。

030122

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