「ハッ…ハ、あ…」
「ハイお疲れー」
「…イキイキしすぎ…」
「久しぶりだから」
「ウ、 ん」

背中にキスを落として、脱力した笠井の体から自身を抜いた。隣に寝て抱き寄せる。濡れていた髪は、まだ濡れているのか汗なのかわからない。まだ荒い呼吸を聞きながら、しばらく互いの体温を感じた。

「…よかった、先輩うちにいて。ここまで来てからいなかったらどうしようかと思って」
「携帯は?」
「忘れてきた。しばらく使ってなかったから」
「料金勿体ねー」
「ほんとに」

小さく笑って、笠井はそっと三上を見上げる。

「――――1年間、行って来ます」
「ハイ行ってらっしゃい」
「……」

抱きしめる力が強くなる。
1年間、三上が高校へ上がったときの1年とは異なるものだと互いに十分わかっている。

「…浮気したらむしりますよ」
「む…」
「…嘘。いいよ浮気ぐらい」
「…俺人形かなんか買おうかな…」
「…穴とか空いてる奴ですか」
「もっぺん、」
「う、俺、もう」
「1年分」
「死ぬ!!」
「大丈夫」
「何を根拠に……」

そろりと肌を這う手の平に息を呑む。顔を見なくても互いの表情はわかった。
――――来客を告げるチャイムが鳴る。三上が一瞬手を止めて、なおも続けようとしたのを笠井が押し返した。

「いいって」
「宅配だったらどうするんですか、またお隣に開けられても知らないよ」
「…めんどくせーな」

三上は舌打ちしてベッドから降り、とりあえず下半身だけは服を身に着ける。その間にもチャイムは鳴り、ハイハイ今出ます!と怒鳴って三上は玄関へ出た。
笠井はのんびり布団に潜りこみ、襲ってきた睡魔に従おうとする。何かぼそぼそと聞こえたと思いきや、三上が慌てて戻ってきて布団を引き剥がした。

「ちょっ、何?」
「着替えろ!今すぐ!」
「はい?」
「いーから!ダーッ、やっぱ出なきゃよかったッ」
「え、誰ですか?」
「お前の親父!」
「――――ッ…」

最悪だ。
笠井は呟くが、三上の心境はそれ以上だ。

「…俺風呂にでも隠れてます」
「は?」
「だから、黙って抜け出してきたんだって」
「逃げやがって…!」

笠井を浴室に押し込み、三上は玄関の戸を開ける。

「――――どうぞ」

相変わらずの真面目顔、笠井の父を中へ迎えた。

 

  *

 

「君の噂は色々聞いてね」
「…」
「大半は悪いものだった」
「…そうですか」

三上にも多少自覚はある、しかしそれは人道を無視したようなものではなく、子どもの悪戯のような類のものばかりだと思うのだが。
出したお茶を一口、表情が少し緩んだのに三上の緊張も少し解ける。

「――――どうして竹巳だったんだ」
「…ハァ、…俺も、こんなに好きになる気はなかったです」
「……」
「武蔵森のサッカー部って人数ばっかり多いから、笠井のことも初めは知らなかったんです。…どこまで話聞いてます?」
「?」
「…言っていいのかわかんないですけど、…いいか。笠井俺の前に他の奴と付き合ってたみたいで」
「!」
「まぁそっちはふざけ半分みたいな感じだったんですけどね、…まぁ、未だによくわかんないですけど。あの頃の話なんか殆どしないから」
「…」
「だからまぁ、奪ったみたいな形になってたんですけどね。――――理由は知らないけど、会った頃の笠井は笑うことも我慢してるような奴でした。本音は何も言わないし、しばらくは何しても怒らなかったし。正直適当に遊んで捨ててやろうと思ってました」
「…」
「…あいつの方も付き合い始めた理由がどうでもいいから、なんて言うから、可愛くないしむかつくし」
「…」
「――――でも、何のときか忘れたけど笑ったから」
「笑った、」
「…俺が初めて笑わせたとき、俺しかいなくて、あぁこれは俺だけのモンだと思って」

暑い室内。さっきまでの情事の余韻が三上を饒舌にしているのか、自分で思って、笑う。

「作った顔じゃなくて、我慢してる奴じゃなくて、ほんとに笑ったから、嬉しくなって。だけど俺が手の内見せていってもあいつは好きとも嫌いとも言わないから、だからムキになって惹かれていった感じです」
「……」
「…今回笠井さんのおかげでちょっとイイ目見れましたけどね」
「どういうことだ」
「あいつが好きだなんて表してくれること滅多にないから。口を開けば大嫌い、ですから。今はましかな、中学の頃の笠井はほんとに安定しなくて、照れ隠しでもなんでもなくてほんとに俺のこと少しの間に嫌いになったり好きになったり、妥協したりして」
「――――留学の話がまとまった。竹巳にも納得させる」
「…そうですか」
「私は…」
「不器用ですね、どっちも」
「…?」
「笠井さんも、息子の方も。俺は好きです」
「…」

へっくしゅん!
離れて聞こえたくしゃみに、三上がしまったと顔を覆う。忘れてた。

「…誰かいたのか?」
「イヤ…あのですね」
「俺です」
「…」

着替えて出てきた笠井も流石に照れた表情で、向かい合って座る二人のどちら側に座ったものか迷って、結局壁にもたれて立った。

「…三上先輩父さん相手だと素直ですね、俺より相性いいんじゃないですか?」
「そうかもな」
「ハズカシー」
「…」
「…竹巳、お前」
「…ちゃんと自分で留学するって決めた。大学休学したらすぐにでも行くよ。家帰ってて、ちゃんと帰るから」
「…」
「…俺そこまで先輩に愛されてるとは思ってなかったなァ?どーぞ遊んで捨てて下さい?」

にやり、と笠井が笑うのに三上が顔をしかめた。どこか照れたその表情におかしくなる。

「誰が遊びでお前みたいなクソめんどくせー奴の相手なんかしてやるかよ」
「言いやがった」

 

  *

 

出発当日、空港には両親と三上が見送りとして来ていた。ドラマみたい、と笠井が笑う。

「何、俺に掻っ攫えって?引き止めてほしい?」
「まさか。実は俺言ったことなかったけど留学する気はあったんですよね」
「はぁ?」
「金もないからどうにか学校から援助でないかなーと思ってたんだけど父さんのコネ使えることになっちゃったじゃーん、ラッキー」
「……」
「…先輩のせいだったよ、決断出来なかったの。あ、謝ったら殴る。俺も同罪だから」

サッカーのことを言っているのだろう。気付かれていないと思っていた。
笑う笠井はそんな三上も見透かしているのだろう。ただ言葉をなくし、結局話を逸らす。

「…1年何するんだ?」
「とりあえず父さんの知り合いのところで下働き。俺もプロになろうってつもりじゃないから。――――先輩は?1年後」
「…教育実習、か?」
「進級出来てたらの話ですね」
「うっせー。…そろそろだな」
「そうですね、わざわざどうも」
「うん」
「……」

じっと互いを見つめる。笠井の両親は少し離れたところから様子を伺っていた。

「…待ってなくたっていいんですよ?」
「待たせて頂きますよ、お姫様」
「キモッ」
「……テメェ最後まで可愛くねェ…」
「…」
「じゃーな」

片手を上げて笠井を見送る。大きな荷物は預けてしまったので身軽な笠井は、何か言いかけて口を閉じた。
それからまた少し迷ってから、三上を向いて片手を上げて返す。

「機内で泣くことにする」

じゃあね、行ってきますと両親に声をかけて、笠井はそれきり振り返らずに行ってしまった。人の多い空港ではあっという間に見えなくなってしまう。
父親と目が合って、彼が近付いてきたので三上は少し構えた。

「――――三上君」
「はい」
「あれの母親は私の妹でね」
「…え?」
「聞いてないのか?」
「え、いや…冗談めかして言われたことはありますけど、」
「そうか。竹巳がどうして知ったのか知らないけど。――――父親はわからない」
「……」
「誰の子かわからないまま生んで、そのあと事故であっさり妹は死んだ」
「……」
「――――竹巳が私を嫌いなように、私も好きになれずにいたな」
「や…でも、」

そっくりですよ。
三上の言葉に彼は困った様子を見せた。

出発の正確な時刻を三上は知らなかった。
だからいくつか飛び去っていく飛行機を見送って、その空をしばらく仰いで歩き出した。ここまでは笠井の両親の車に便乗させてもらったが、帰りまでお世話になるのは気まずい。電車でゆっくり帰ろうと、ポケットの小銭を確認する。

(…まさか、俺は車内で泣くってわけにはいかねぇしなァ)

家までもつかな。
乗る気のないバス停で足を止めた。

あと少し。感情が落ち着くまでの間だけ。

(駄目だ、もう、会いたい)

 

 


…ほんとは書き出し部分に三上家へのカミングアウトとがっつりえろとあったんですが、恥ずかしすぎるのではしょり。
サイト解説当初から書き始め、受験の頃にラストスパート書き上げたので前半辺りが相当古い。
恐ろしいのは中西。やたらと出てくるくせに、始め書いてた頃は辰中なんかに手をつけていなかったので主要人物なんかじゃなかった。何故渋沢でなくて中西なのよ過去の私。

んで、まぁ。
三上家は緩くホモ容認しちゃうので、ンなわけねーじゃん世間は!ってことで笠井父だったんですが、笠井にウッカリ風祭の如くの設定をつけてしまったためどっちも所詮同人世界ってな感じになりました。なわけでとことん少女漫画。
わたしはこんなんやってるせいかもうホモとかレズとかどうでもいいと思ってます。好きなんやったらしゃーないやんけと思うので。
笠井はとにかくお父さんに反抗したかったために男と付き合ってたという腹積もりなので、三上のことを好きになってしまう予定はなかったみたいです。お父さんは妹がそんなんだったので色々体面の悪い噂でも流れたのかもしれません。
あと笠井にはお姉さんがおるという設定なのですが触れてません。何故なら書き始めはそんな設定なかったからです。三上家は固まってたのにね。多分その頃の愛の差です(今思えば恥ずかしい限りですが三上命だったんだよこの人)

そんで帰ってきて同居話へー、と繋がるらしいです。
それでは長々と、お粗末さまでした。わたしもすっきりした…

050915

 

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