「俺の物だって自信持って言えればいいのにね」

中西の溜息に辰巳は応えなかった。


無 意 識 の 声


「はい、お土産」
「あ、ありがとうございます」

中西から受け取った小さな袋。かすかに鈴の音がするのでキーホルダーみたいな物だろう。あとこっち、もうひとつ同じ物を渡される。

「三上にも渡しといて」

チリリン、不規則に鈴が鳴り、笠井は手元を見たが中西は笠井の後ろを見た。寮でこっそり飼っている猫が、鈴を揺らして歩いてくる。

「あら、首輪新しくなったの」
「ええ、前のなくしてきて」
「ふーん。なかなかお似合いよ」

猫を撫でて抱き上げて、中西はその毛に顔を寄せる。最近三上が奮闘したのでシャンプーの匂いだ。

「これ、誰と行ったんですか?」
「…辰巳と」
「あ…」
「だから他には内緒」
「…」

みんな知ってはいるけれど、あまり真剣には話題にしない。だから気を使っているのだろう。それでも気持ちが押さえきれなかったに違いない。これはその、溢れた末路。 中西の手の中で鈴が鳴る。

 

 

 

大欠伸をしながら部屋へ向かう。昨日は妙に寝苦しく、いつにも増して寝不足だ。最近安眠してたのに、今夜もあの調子ならどうしようかと考えながら三上は裸足で廊下を歩いた。ぺたぺたと自分の足音に混じり、後ろから鈴の音がする。

「…あ、」

三上がそれを振り返れば、気付いていなかったらしい笠井がびくりとして顔を上げた。そのまま硬直していまった三上に笠井も戸惑うが、三上も予想外の展開に少し視線をさまよわせた末、やっと緊張を解く。笠井の携帯のストラップに鈴が付いているのだ。
すっかり解決したので三上はまた歩きだし、しばらく考えさせられた笠井は急にはたと気が付いた。早足で三上を追いかけ、振り向かない男の首に手をかける。

「ぐっ、かっ、何すんだよ!」
「猫じゃなくてごめんなさいねぇッさぞかしがっかりしたでしょうね!俺じゃ悪いかッ」
「いやっごめんなさい笠井様!ギブ!」
「うっさい死ね!」
「何荒れてんだよ!」
「────ッ」

手を離してその背中を蹴り飛ばす。バランスを崩した背中に更に持っていた物を投げつけた。さっき中西から預かった物だ。

「ってぇなッ、なんだよ!」
「中西先輩から!」
「はっ?そういうこと言ってんじゃっ…クソッ」

三上が捕まえる前に笠井は走って逃げている。仕方なく背中から落ちた物を拾って中を見た。

「…中西から、ね」

 

 

 

 

欠伸をかみ殺し、髪を拭きながら部屋へ向かう。今日は何だか疲れた。試合を控えて監督も気合いが入っているからだろう。明日は予習もいらないしさっさと寝よう。笠井は鼻歌を歌いながら廊下を歩いた。
ポケットに入れた携帯の、ストラップがこぼれて一歩ごとに鈴が鳴る。ふとその鈴の音が重なり、耳を澄ませて階段を見る。はっとして足を向け、ひょいと階段を覗いてみた。

「………」

とんとんと軽い足取りで階段を降りてくるのは、…猫だ。開いていた口を閉じる。

「何してんだ」
「うぎゃっ」

脇腹を鷲掴みにされて跳ね上がった。体を返して振り払えば、不満顔で三上が立っている。

「何考えてた?」
「……」
「おそろい?」
「…俺」
「つけれるかよ。他の奴等も持ってんならともかく」
「…うん」

ごめんなさい。笠井が小さく呟いて、三上は目を覆って溜息を吐く。そういうつもりではなかったのだとわかってはいたが、笠井は顔を上げられなかった。
名前を呼ばれ、それでもそのままでいると手を取られる。手首に猫にひっかかれた傷があった。

「寝るぞ」
「…」
「お前とが一番安眠出来る」
「…何それ」

誰と比べてんの。泣きそうな声に、猫と、なんてからかいも出来なかった。

 

 


…笠井乙女化進行中…。

051006

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