語 ら な い 男


「あ」
「・・・・・・・・・」

どうしよう。
そんなありきたりな言葉が頭に浮かんだ。とは言えどうしようもない。
本を読むのにいい場所を探して寮中を歩き回っていたら屋上に辿り着いた。しかしそこには先約。

(名前何だっけ・・・)

確か同じクラスだったと思う、そう、藤代と同室の。
名前の出てこない誰かさんの手には火の点いた煙草。人が来るとは予想外だったらしい。

「・・・・・・アンタ、同じクラスだよね」
「・・・多分」

強い目の力。
指先の神経までピリピリしてそうな声。名前が出てこない。

「辰巳だっけ」
「あぁ、」
「チクる?」
「・・・別に」

答えてから煙草のことだと気付いた。別にどうでも良かった。
屋上は気持ちのいい日当たりで、もし煙草の煙に耐えれるなら、あの隣が一番気持ちが良さそうな。

「隣」
「え?」
「隣いいか?」
「・・・いいけど」

無機質な床は太陽で温められていた。夏の匂いがする。
黙って本を広げる。横目に煙草をくわえるのが見えた。
紙が反射して少し眩しい。

「辰巳」
「・・・・」
「お前、変」
「・・・名前」
「は?」
「名前、何だった?」

本から顔を上げず辰巳が聞く。
たっぷり煙を吐き出すだけの間を空けて、返事。

「・・・・・・かさいたくみ」
「漢字は?」
「たけかんむりに立つ、の笠に井戸の井、たくみは竹に、辰巳の巳」
「判った。美化委員だ」
「・・・そう」
「名前は覚えられるんだけど顔と一致しないな」
「ふーん・・・」

静かにページがめくられる。
本を読みながら話が出来る人を初めて見た気がする。
そう思って笠井はじっと辰巳を見た。座っているのに若干見上げる。
第一印象は格好いいなと思った。 先輩だと思っていたから。
教室で見かけたとき心底びっくりしたのを覚えている。藤代が普通だったのでそれがしゃくだった。

「変な奴」
「煙草自分で買うのか?」
「・・・買うよ、自販機あるし。たまに貰うけど」
「ふーん・・・何か、税金払うのイヤじゃないか?」
「は?」
「煙草税とか、酒税ってあるだろ。払わなくてもイイ年齢なのに払うのって少し腹立つ」
「・・・だからやんないの?」
「いや、別に」
「・・・・・・」

やっぱり暑いな、
辰巳が軽く溜息を吐く。

「変な奴」
「・・・しつこいな」
「て言うかさぁ、」
「何だ」
「幾つ?」
「・・・・・・」

「何で煙草やんないの?」
「やる理由がない」
「何読んでるの?」
「本」
「・・・・」

「何で煙草吸うんだ?」
「べっつに」
「何で質問を?」
「・・・・・・」

何でって。

灰皿代わりにしていた空き缶に煙草をねじ込んで溜息を吐く。

気になるから、だけど。
妙に腹が立ったのでだんまりを決め込むことにした。

「先輩って呼んでいい?」
「やめろ・・・」

 

 


気持ち笠辰。
同級同級、と思ったら笠井がこんな事になりました。

030709

 

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