ひ な た ぼ っ こ


見送りはしなかった。

事になっている。
だけど俺は屋上から、その背中を見ていた。

「・・・・・・」

寮母さんに別れを告げたその小さな背中を、屋上からずっと睨んでいた。
まるで温かく送り出すかのように空は晴天、日向ぼっこ日和。気持ちのいい風が屋上を抜けていく。
そんな些細なことすらも悔しい。

「・・・風祭のバカ」

後味が悪いのは自分のせいだ。それが分かっていても気分が悪かった。
寮の周りを一周するつもりらしく、背中は逆方向へ歩いていく。
隣に俺はいない。一瞬どうしようもない虚無感。 置いていかれた感じがした。

無意識に背中を追って屋上を回る。
もしあいつが振り返ったら、手を振ってやろう。
歩く背中に集中していたら足元がお留守になっていた。 何かにつまずいて転けかけて、かと思えば何かにぶつかった。

「・・・・・・」

顔を上げて、硬直。 死んだかも。

そこに立っていたのは中西先輩、片方の頬がうっすら赤い。
ついでにつますいたものは辰巳先輩の脚だった。壁にもたれかかって床に座って少し顔を上げてこっちを見ている。

「大丈夫?」
「あっ、はいっ、ごめんなさいっ!」
「そう、ならいい」

肩に添えられた中西先輩の手がゆっくり離れる。
それから少し風祭の方を見て、壁沿いにそこを離れていく。
・・・えーと、どうしよう。

「風祭か」
「あ・・・」

辰巳先輩の頬も少し赤い。
遠くに風祭を見た。俺が振り返ったときには大分遠くなっている。学校に行くつもりらしい。・・・あいつらしい。

「悪い、邪魔したか」
「え、いえ・・・・・・」

・・・もう振り返らないだろう。あいつは1度でも振り返っただろうか。

「天気が良くて良かったな、・・・雨より晴れの方がいいだろう」
「・・・・・・た・・・辰巳先輩達は、ここで何を・・・」
「・・・日向ぼっこ・・・かな」
「・・・・・・」
「嘘だよ、」

辰巳先輩が苦笑する。
この人の苦笑はよく見る。藤代のように笑うのを押さえたような表情で笑う。

「1発ずつ、平手」

また、苦笑する。
打たれたらしい頬を軽くさすって、投げ出していた(俺がつまずいた)脚を引き寄せてあぐらをかく。

「風祭が出ていったか」
「・・・・・・」

辰巳先輩が大きく溜息を吐いた。
ぽん、と軽く隣を叩いて俺の方を見る。少し首を傾げて、どっちでもいいと呟いた。
少し迷って隣に座る。流石に距離は置いた。

「山川も寂しくなるな」
「・・・あいつだけはやめないと思ったんです」
「・・・俺は・・・何となく、思ってたけど」
「・・・・・・」

「でもあいつはサッカーはやめない」
「え」
「やめないよ」
「・・・・・・」

くしゃりと髪を撫でられた。
辰巳先輩は足下に無造作に投げられた文庫本のカバーを直す。

「・・・あ、口の中噛んでる」
「え?」
「口内炎にならなきゃ良いけどなぁ」
「・・・あの・・・何で、中西先輩と・・・」
「・・・本」
「・・・・・・」

欠けたコンクリートの床に、辰巳先輩は本を立てる。
縦に立ててるような分厚い本だ。

「わかってる、人と話をしてるときに本を読むのは失礼だな」
「・・・読んでたんですか?」
「そう。しかも今回が初めてじゃない、中西にしてはよく保った方だ」
「・・・・・・」
「反射的に返したのは・・・やっぱり不味かっただろうな」

重い溜息。
この晴天の下で、仲が良い(と言うよりは寧ろ妖しい)ふたりの先輩は互いを叩き合ったというのか。
喧嘩、だ。 珍しいこともあるもんだ。中西先輩も辰巳先輩も、そんなに熱くなるタイプには見えない。

「風祭はサッカーをやめない」

辰巳先輩はもう一度繰り返す。

「だったら武蔵森じゃなくてサッカー部をやめればいい。わざわざ受験して、出て行くんだ」
「・・・・・・」



「・・・こうして呑気に日向ぼっこしててるのは日本人ぐらいらしいな」
「・・・そうなんですか」
「気持ちいいけどな」
「・・・そうですね」

ひなたぼっこ日和

 

 


辰トモ。
昨日たんじょびでしたが明らかに6月ではないネタなので
まぁいいか!!(自己完結)

030630

 

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