で て く る な よ


「・・・イジメか?」
「やだなー、誰も辰巳先輩なんかいじめませんよ、中西先輩が恐いから」
「・・・・」

ならこの状況は何だと言いたい。
いきなり部屋から出るなと言われ、監視役に置かれた藤代。理不尽さに溜息を吐く。

「理由ぐらい聞く権利あるんじゃないか?」
「中西先輩には通用しません」
「・・・・」

辰巳は諦めて文庫本を開いた。
藤代が一緒ということはそう長く閉じこめられているわけじゃないだろう。寧ろゆっくり本が読めていいかもしれない。

「クーラーつけていっスか?」
「あぁ・・・」

エアコンの電源を入れた藤代はドアの前であぐらをかいて、差し入れと称して笠井が置いていった漫画を開く。
しかし読んだことのあるやつなんだろう、すぐに飽きたようでそれを閉じた。本の向こうで、きょろきょろと部屋を見回しているのが見える。

「・・・辰巳先輩姿勢いいっスね」
「は?」
「俺椅子に座ってても癖であぐらかこうとしちゃうんスよねー」
「あぁ、飯の度に三上と言い合いしてるな」
「三上先輩もだけどタクも恐いんスよ」
「ふたりとも厳しく躾けられたみたいだからな」
「三上先輩は躾より節操というものを教えてもらうべきです」
「それもそうだ」
「いいなぁ辰巳先輩」
「・・・・」

止まれ。

自分を押し殺して意識を本に戻す。
いいなぁ、なんて。それはこっちのセリフだった。
羨ましい天賦の才。
それは言ってもどうしようもない。姿勢なんて後からどうにでも直せる。

でてくるなよ、頼むから。

「俺ももーちょっと背ェのびないかなーっ。辰巳先輩のヘディングまじカッケェの」
「藤代だって別にヘディング苦手じゃないだろう」
「や、でも高いトコから決まった方が格好いいじゃないっスか!」

いいなぁ
ごろんと床に寝転がって藤代が繰り返す。
悟られないように溜息を吐いた。
いいなぁ
自由で。

「・・・・・・あ」
「・・・今度は何だ」
「辰巳先輩にまだ言ってないっスよね!きーて下さいよーーッ俺今回の期末でスッゲー快挙を成し遂げたんです!」
「何をしたんだ?」
「英語平均点クリア!」

床に寝転んだまま藤代が万歳をする。
さっきまでの気持ちも払拭されて、辰巳はつられるように苦笑した。

「あーっ、そんなことかとか思ってますねー?」
「いや、頑張ったな」
「ホント頑張りましたよー。だって今回タクは平均ギリギリっスからね!俺の方が点高いんスよ!」
「え」
「・・・そんなリアクションされると俺流石にヘコみますよ?」
「わ、悪い、他意はないんだ」
「分かってますって、辰巳先輩ですから」

藤代はけらけら笑って起き上がる。

「まぁ英語しかやってないから他のは変わってないんスけどね」
「急にどうしたんだ?」
「きーてくれますーっ!?選抜に椎名って奴が居るんだけど、何とそいつイタリア語が読めるんですよ」
「・・・凄いな」
「でしょーっ?それで俺は気付いたわけです。サッカーやるならやっぱ海外行きたいじゃないですか」
「・・・・・・」
「そんで、取り敢えず英語かなぁと思ったわけです」
「・・・そうか・・・」

いつだったか聞いた笠井の言葉を思い出す。
あいつはやらないだけなんです。

「・・・・・・辰巳先輩」
「あ、何だ?」
「先輩の背中、最近でかいだけっスね」
「!」

意味 が 分からない

落ち着け、出てくるな
ホントは分かってる
動揺
羨ましいとかそんな言葉
言葉を探す





「コンコーン」
「あ、中西先輩」

ドアの開いた音で辰巳は少し身をすくめる。
廊下の中西は辰巳を見て、それから藤代を睨んだ。

「なに先輩イジメてんの」
「えー、俺虐めてませんってー!」
「うっさいなー、お前と話してるとイジメられてる気分になんの!」
「何ですかそれー!」
「まぁ、お前とは後で話をつけてやる。辰巳、おいでおいで」
「あ、終わったんスね!!」

藤代が笑って手を叩く。中西も笑い返して、相変わらず辰巳を手招きした。

「いいから、おいで」
「・・・・」

辰巳は立ち上がって中西の方へ向かう。
藤代が体を引いて道を開け、そっと廊下を覗いた。
・・・・・・・・・赤絨毯。

「・・・・・・」
「因みに談話室まで続いてます。なんでか分かる?」
「・・・何で、どこから」
「うちには数字を覚えることしか取り柄のない司令塔が居るんだよ」

中西がにやりと笑って辰巳の手を引き廊下に出る。
どこから運んできたのか知らないが赤絨毯、お嬢様が高級車から降りるときに敷かれるようなものだ。
ふたりの後ろを藤代がご機嫌でついていく。



「辰巳先輩誕生日おめでとう御座います」



「みんなでこれでもかってぐらいにサービスしたげるから自分の誕生日ぐらいもうちょっと笑いなさいね?」
「・・・寧ろ泣くかもしれないな」
「嬉し泣きかー」
「違・・・」

少し振り返れば藤代と目が合う。
この後輩は何を考えているか分からない。
何も分かってないのかもしれないし、辰巳の気持ちなんてもう知ってるのかもしれない。

「・・・あ」
「どうした?」
「・・・藤代、部屋のクーラー消してきてくれ」
「了解っスー」

藤代が敬礼をして進行方向を変えた。

「あ、辰巳先輩」
「・・・どうした?」
「俺、先輩が俺のことどう思ってるか知らないけど、俺は本気で辰巳先輩凄いと思ってますから」
「・・・・・・」

それだけ言い残して藤代は辰巳の部屋へと戻っていく。
隣で中西が苦笑した。

「思わぬ誕生日プレゼントを貰ったね」
「・・・ホントだな」
「告白みたいでちょっと妬けるわー」
「知るか」

 

 


祝えてない・・・・・・
藤っこ悪者にしたかったらしいです(え!!)
でもずっと書きたかったんだー。
誕生日話でやる意味は分かんないけどね☆

030712

 

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