鈍 感


「付き合ったげてもいーよ」
「結構です」

咄嗟に返した返事を聞いて相手は固まってしまう。
変なことを言っただろうかと辰巳は不安になってきたが、変なことを言ってきたのは向こうの方だ。

「・・・そうきたか・・・」
「・・・・・・」

セリフの主・中西はパイプ椅子に腰掛けたまま脚を組んだ。足の先が上下に揺れる。
何やら悩み込んでいるようで、手を顎に添えて難しい顔をしていた。
1年早く生まれてきた中西を、辰巳は同じ生き物ではないと思っている。要は苦手と言うだけなのだが。

「・・・何かそれ、ムカつく返事だね」
「ハァ・・・すみません」
「いや謝らなくてもいいけどね。 うーん、どうしようか」
「・・・・・・」

それをそっくり返したい。
部室のドアの前にパイプ椅子、その上に中西。着替え終えた辰巳を出してくれるつもりはないらしい。

「・・・あの」
「何?」
「・・・帰らないんですか」
「帰りたい?」
「・・・・・・」

帰る帰らないと言うよりは、これ以上ここに居るのが耐え難かった。
もう部室にはふたりしか残っていない。殆ど話したことのない苦手な先輩(ジャージのまま)と口下手な自分(着替え完了)。
どうしろと言うのだ。先のセリフのことも気になる。

「・・・俺、悩む間もないほど魅力ない?」
「はい?」
「一応アピールはしてきたつもりなんだけど、早まった?」
「?」

疑問系で言われても。
今度こそはっきり帰りたいと思う。自分だけのひとり部屋でゆっくりしたい。

「あ、じゃあこれ聞いとこう。今好きな人いる?」
「・・・いえ」
「ふーん、ふーん、そっか。嘘言ってないよね?つか初恋もまだって感じか」
「さぁ」
「いけどね、俺は過去にはこだわらないし。 俺の服取ってくんない?」
「・・・・・・」

動く気がないのか。
逆らう理由も勇気もなく、辰巳は制服を渡してやる。どうも、と簡単に礼を言って中西は着替え始めた。

「あんねぇ、辰巳さ、前に裏庭で昼飯食ってたっしょ」
「・・・あそこ裏庭って言うんですか」
「あはは一応裏庭と言うんだよ」

辰巳が思い当たる場所は、ささやかな家庭菜園というレベルの場所だった。確かに校舎の裏に配置する。

「あの猫どうなったの?」
「・・・さぁ、来なくなりました」
「そう」

裏庭(らしい場所)には野良猫が数匹住み着いていた。母親と子どもという組み合わせだったんだろうと思う。
ちょこちょこと面倒を見に行ってたが、ある日ぴたりといなくなった。事故にあったのか、学校側が処分でもしたのか。それ以外を痛切に願うばかりだ。

「先輩も知ってたんですか」
「つか辰巳を尾けてたら見付けたって感じ?」
「・・・・・・」
「影で寝転がって寝てたでしょ。お前寝顔すっごい可愛くてびっくりした」
「・・・・・・」
「唯一中学生らしいというか」
「余計なお世話です」
「あら失礼。俺に気付かなかった?」
「全然・・・」
「ふーん・・・まぁ俺も隠れてたけど。寝てるの蹴ったの俺なんだよねー」
「・・・・・・」
「ごめんねー」
「・・・アレ痣になってるんですけど・・・」
「ホント?」

見せて、と。
中西は中途半端に着替えたまま立ち上がった。

「え、」
「脚だっけ」
「・・・手です」

辰巳は諦めて、中西に腕を突きだした。袖をまくって痣を見せる。

「いたそー」
「痛いですよ」
「はは、ごめんね。事故だったのよ、辰巳が可愛すぎるから」
「・・・・・・」
「・・・ホントに寝てたんだね」
「え?」
「俺がキスしたのも知らない?」
「・・・・・・」
「つか、さ。ふたりっきりだよ」
「はぁ・・・」
「・・・・・・むかつく」
「え」
「好きだって」
「・・・・・・・・・」

ダメだ。
辰巳は中西言語が理解できない。

「好きだよ。絶対的に。好きと言うよりは興味に近いかもしれないけど。ねェ、」
「・・・はい」
「俺と付き合わない?」

絶句、
と言う状態を初めて感じる。腕を捕まえられたままで辰巳は逃げられない。

「好きになっちゃったんだから、しゃーないのよ」
「・・・・・・」

中西が少し辰巳から離れ、シャツのボタンを全部留めた。ネクタイを取って首に回す。

「・・・あの、せんぱい」
「何?」
「ボタンずれてます」
「・・・・・・・・・」

ネクタイを微妙に回したまま、中西は黙ってボタンを直していく。
辰巳が思わず小さく笑った。

「も、もー、何で!」
「はは、先輩」
「何!」
「何か可愛い」
「・・・・・・そこで笑うの反則〜・・・・・・」

可愛いのはどっちだよ、中西が唇を尖らせる。
ツボにはまったらしい辰巳が、相変わらず笑い続けた。

「・・・なんで俺が、お前如きに緊張しなきゃなんないのよ」
「してたんですか」
「してました」

この鈍感め!

 

 


ぎゃ。
中西を可愛く書いてみよう計画。はは。
可愛くなりませんでした、というか変になりました。可愛くと言うか人間らしく?(笑)
こんなの中西じゃねーやい!と思いつつ自称中西。いえぁ。
辰巳氏も結構変。

031013

 

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