天 体 観 測


くるくると表情が変わるのを見ていた。
それをずっと見ていたいだけだった、初めは。

・・・いつからか、俺に向けられる笑顔が無性に嬉しくて、嬉しくてそれで・・・・・・

 

 

もう空は夜の帳を下ろし、数えるほどの星が瞬いている。
三上が笠井につかみかかったのを、根岸は部屋の窓から何処か呆けた表情で見ていた。
3階の自室の真下、寮の裏。誰にも見られないと思ったのか。根岸もたまたま見てしまっただけだから、あながちその選択は間違ってるとは言えない。
ぼーっと、笠井が真剣に怒っているのを見ている。
喧嘩の多い二人ではあるが、今日はどうしたんだろう。いつにも増して、何というか、男らしい言い合いのようだ。

「ネギー、何見てんのー」
「あー、中西お帰りィー。犬も食わない喧嘩やってるよォ」
「えー?」

同室の中西が帰ってきた。
何処へ行っていたのかは聞かなくても表情から分かる。尤も、中西曰く分かるのは根岸ぐらいらしい。
少しだけ中西を見て、ちょいちょいと手招きしてやる。傍へ寄った中西が半開きだった窓をゆっくり開けて、外を見下ろした。根岸は反対に空を見上げる。

「あぁ・・・あれなら犬も食べ甲斐があるんじゃない?」
「そうかもー」

 

くるくると、よく表情が変わるなぁと思ったのは体育祭の時だ。
リレーの選手で、第一走者だった。真剣な表情でスタートして、ほぼ速度を変えないまま次の走者へ。
あとはじっと応援。声を出したりすることは少なかったけれど、悔しそうな顔は、ほっとした顔が、アンカーが1位でゴールしたときの顔が。
係りで走り終わった選手を並べていた自分と目が合うと、照れくさそうに少し笑って。

「・・・今回はどうしたんだろ」
「あー、三上がやっぱり原因らしいけどね。笠井またここに逃げて来るんじゃない?」
「んー・・・かもなぁ。俺また三上の八つ当たり食うのかなぁ、別に良いけどさ」
「ネギっちゃん?」

さっき見えていた星が消えた気がする。少し雲が出たんだろうか。
根岸は中西に応えず下を見る。
そろそろ下のふたりも寮内へ戻らなければならないだろう。だけどふたりは睨み合ったまま動く気配がない。

「───なんてゆーかさぁ」
「んー?」
「笠井凄いよね」
「まぁあの三上相手にしてるんだしねぇ」
「それは中西相手でもかわんねぇけど」
「ま、失礼な」

中西が笑いながら、依然としてふたりを見下ろす根岸の頭を軽く叩いた。
と、光る何かが落ちたのを視界の端に見る。

「・・・根岸?」
「・・・俺だったら泣かせない、とか思うんだけどね」
「お前」
「言っちゃだめ」

しぃ、と根岸が人差し指を唇につけた。
その横顔は微かに笑っていて、目が少し潤んでいる。そんな表情は何度も見るけど、いつもと違った。

「はっきり言葉にしたらホントになるから駄目」
「・・・根岸・・・」

中西が諦めたように溜息を吐き、いつもより小さく見える背中を叩く。

 

「俺 ネギっちゃん大好き」
「おう、アリガトよ」

広い夜空で確実に見つけた星のよう。
もう絶対、出来れば絶対見失いたくない。

 

 

色んな感情より、真っ先にコレをどうしようかと思った。
手元に残していった携帯。届けて下さい問わんばかりにでかい態度で置いてあるから、放置しているとまた何か煩そうだから、わざわざ持ってきたものだ。
飾り気も何もないそれをどうしてくれようか、考えた。戸の前に置いておけば根岸が蹴ること間違いない。
根岸、一瞬ざわつき掛けた心を抑え、辰巳は携帯を握りしめて部屋に戻る。

 

中西は割合誰に対してもそれを言う。
だからいつも話半分に聞いていた。いちいち反応しているとキリがないのでそうすることにした。
真剣なんだろうと判断されることはちゃんと聞くようにしていたが、自分へ向けられた感情に対しては半信半疑。

盗み聞きをするつもりは全くなかった。聞こえてしまっただけ、だ。
本気だと繰り返すが、信憑性があるとでも?

「・・・どうするんだコレ」

よっぽど必要にならない限り中西は携帯を取りに来ないだろう、とはいえ今中西と顔を合わすことが出来るだろうか。
あれを聞かせるために置いていったのかもしれないとふと思う。
・・・分かってる。自分の感情の意味は。認めたくない、子どもみたいにくだらない嫉妬。

あまりにも空は広すぎて、探しているものを見失ってしまう。
断片的に見えたと思ったのに瞬きをしているうちにどれだか分からなくなって。

急に高い音が響き、しばらく聞いて携帯だと気付いた。
中西の携帯。辰巳の知らない曲なのかどこで区切ればいいのか分からないせいか、それは何の曲か分からないまま流れている。
曲は止まらない。ディスプレイを見れば、辰巳の知らない男の名前。

「・・・・・・」

嫉妬?そんな可愛らしく甘いものではない。
窓の外を見れば、さっきまで見えていた星の姿は全くなかった。風が少しある。
星も答えも見付からない。

携帯が鳴り止み、辰巳の頭もスッと冷える。
本当に子どものよう。好きなフリをして嫉妬だけ。
ノックがあり、返事をすると中西が入ってきた。自分が思ったほど同様はない。

「今日こっちで寝て良い?」
「根岸ほっといて良いのか?」
「・・・やっぱり来てたんだ。ごめんだけどねぇ、辰巳より根岸が好きだよ、でも好きの種類が違うって言うか、もう、格?」

にやり、と悪びれもせず中西は笑う。
そう、そっちの方が。
無条件に好きだと言われるよりそっちの方がリアルに感じる。

「電話掛かってた」
「あらま。誰?」
「迫さん?」
「・・・またか。縁切ったのになぁ」

辰巳は黙って携帯を差し出した。

 

暗い暗い夜空に瞬く星のひとつひとつに名前があるように、この感情にも呼び方はあるだろうけど。
幾らか本を読んだけど、どういう名前をつけて良いのか分からなくて。
少し好きで少し憎い。
空に溺れてしまった所為で観測どころじゃないんだろう。

 

 


これは辰巳お題の筈です。がってんだ(?)
何だかよく分からない話に。
ほんで10:いっちゃえに続きます。こっちもよく分からない話に(ダメダメ)。

040430

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