い っ ち ゃ え


辰巳が携帯を差し出してくるのを、中西はやはり黙って受け取った。
俯いた辰巳は中西と目が合う。中西は顔を覗き込むようにじっと見つめる。

「・・・ひとことずつ、順番に自分のこと話そう」
「?」
「根岸とやったんだ、大昔に。仲良くなるならまずお互いを知らないと駄目なんだって」

そうだとしたらふたりは間を色々と飛び越えて今の関係だと言うことになる。
しかし良い機会だと思い、辰巳はその場に座った。中西も正面へ。
中西が携帯を開いてまた閉じる。特に意味のないその動作は癖だと言うことは気付いていた。

「じゃあお互いに知りたいこと聞いていこう。辰巳からどうぞ」

さりげなく相手に押しつけて自分の出方を決める。それも知ってる。
辰巳は迷わず口を開いた。

「迫さん」
「・・・そういう肝心なとこは後回しにするもんよ。・・・まぁ、敢えて言うなら仕事仲間というか」
「仕事?」
「中学上がった頃にちょっとだけおイタをね」
「・・・・」
「そこから先は次の質問ね、俺の番。辰巳君の初恋はいつですか」
「・・・それは」
「駄目、全部答えるの」
「・・・・・・初恋というか・・・好奇心なら・・・」
「ん?」
「・・・中1」
「いや好奇心って何よ」
「それは次の質問」

辰巳に言われて中西は苦笑する。
しかし辰巳が困った顔になり、

「・・・と言っても聞くことがない」
「そんなに俺に興味ない?」
「中西が自分で話したことと俺が見てて気付くことはで十分」
「・・・それは別れるときの伏線カナー?」
「さぁな」
「おイタは聞かないの?」
「今してないなら良い」
「してない」

中西がじっと辰巳を見る。
人の目を見て話す。十分だ。

「・・・じゃあ好奇心てなんですか」
「・・・・」
「辰巳さん」
「・・・・」

だんまりは反則、
辰巳に詰め寄ると少しずつ逃げられるが、そのまま壁に押しつけた。

「何?」
「・・・俺にだって人に言えないことのひとつやふたつ」
「何それ、怪しいんだー」
「お前よりはよっぽど健全だ」
「それは俺が判断します。何したの?」
「・・・・・・女の人と」
「・・・ちちくりあったとか言われたら俺どうしよう?」
「どうもするな」
「えー、ていうか何それ、マジで?例によって嘘じゃなく?お前が?」

なかなか失礼だ。
辰巳は特に気にせず、しかし止まらないだろうと思われる中西を見て溜息を吐く。

「・・・質問あと1回な」
「いつ誰と何回?」
「・・・・・・」
「どうやっては聞かないであげるから。ていうか聞きたくないけど」
「・・・夏休み父さんの部下と1回」
「・・・辰巳さんたら不潔・・・そんな何も知りませんって顔して・・・」
「・・・・・・」
「そんな子に育てた覚えはありませんよ!」
「育てられた覚えもないが」

辰巳が思っていた以上にショックを受けたらしい。
すっかり動かない中西に迫られたまま、辰巳は何度目かの溜息を吐いた。

「中西」
「辰巳は俺のこと好き?」
「・・・質問は終わり」
「質問じゃないよ、確認。確認を要する愛され方だから困るけどね」
「愛してると言った覚えもないが」

そんな歯の浮くようなセリフ。中西は口が達者。
衝動的に先を促したくなった辰巳は自分をたしなめた。調子に乗らせてはいけない。今日は自分のペースを崩させない。
・・・しかし。
辰巳は中西を見て顔をしかめる。

「・・・気の強いのばっかり」
「ん?」

嫌いとは言わない、
辰巳が言うと中西はにやりと笑う。

「その女よりも好き?」
「もう何とも思ってない。この間結婚したし」
「ふーん・・・」
「・・・中西会ったことあるぞ」
「は?」
「正月、うちに来る途中会っただろう」
「・・・・・・・・・」

あの女?
中西の声色が変わった。

しまった、辰巳が気付くときにはもう遅い。
言わなきゃよかった。辰巳はいつも後悔するのだ。

 

 


辰巳は捨て駒(エ!)
うちの森っ子に普通の子はあんまり居ませんよ。
とくに辰巳はいじる気ですよ。そんなのばっかり。
命の限り好き勝手(清丸さまの名言)

040430

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