ほ ん と は ね 。


ほんとはね、

優しい顔が困っていた。
分からない、なんと表現しようか。
躊躇っていた。
悩んでいた。

・・・ほんとは、知ってた






「ほんとに高等部へは進まないつもりか」
「はい」

辰巳は静かに答えた。
惜しいな、
桐原は珍しく感情を込めて言葉を吐き出す。それだけで今までの意味があった気がした。

「・・・しかし先へ進まないからと言って気を抜くな、お前は未だ1年間うちの選手だ」
「はい」
「引き止めて悪かった」
「失礼します」

一礼して辰巳は振り返って歩き出す。

後戻りはしない。
出来てもしない。

「辰巳おっせー」
「帰るぞー」
「悪い、監督に捕まった」

辰巳の姿を見るなり歩き出した三上と、追い付くまで待っている根岸。
性格の違いはあれど待っていてくれたことに変わりはなく、さっきあんな話をしていただけに何となく嬉しく思う。

「遅かったので俺の荷物持ちー」
「おい」
「ほらネギっちゃんの分も」

強引に二人分の荷物を押しつけて、根岸の手を引いて中西が歩いていく。

「あっ辰巳先輩俺のもー!」
「誠二やめなよ!」
「三上ー、辰巳が荷物持ってくれるってよー」
「持てるかっ!」

笑いながらメンバーが歩き出した。
笠井にたしなめられた藤代と目が合うと、こっちが戸惑うほどに笑いかけてくる。

「あ、でも俺の分は持ってね」
「中西・・・」
「俺はネギっちゃんの分持つから」
「何で」

ほんとに自分は恵まれていると思う。
こうして笑いあえる仲間がこんなにもありがたいとは入学した頃には考えたこともなかった。
3年間メンバーが増えたり減ったりしながらも、今がベストだと何となく思う。

ほんとに。

・・・ほんとは、






「ほんとはね、」

泣きそうな顔で母親は言った。優しい母だ。
少し笑い返すと困惑した表情を見せ、それから弱くではあるけど笑ってくれた。

「ほんとは知ってたんだ」

そう言うと母はまた表情を戻し、ゆっくりと俯く。
伏せた目から涙が落ちて彼女の手の甲を伝った。
昔母が読んでくれた本で人魚の涙は真珠になったが、母親は人間なので涙は落ちて弾けた。
あんなに優しい人を泣かせているのは自分だとしばらくしてから気が付いて、でも手を伸ばすことが出来なかった。

「・・・良平」
「謝らないで」
「・・・そう・・・そうね、じゃあ、ほんとのお父さんとお母さんに会う気はある?」
「・・・俺はどうして?」
「良平が生まれてすぐにお父さんが病気になったの。・・・あなたと一緒にいるには良平が小さすぎたから」
「・・・・・・」
「だから・・・、お父さんはもう、死んでしまったのだけど」

話しながらも涙は絶えない。
だけどもういいよ、が言えなくて、心はそこに立っているだけだった。

「あなたのほんとのお母さんがね、・・・あなたを武蔵森に通わせてくれると言ってるの」






「たつみっ」
「いたっ」
「何目ェ開けて寝てんだよっ」

頭を叩いてくれた張本人らしい近藤がそこで笑っている。

「・・・よく届いたな」
「あぁっ!?嫌味かそりゃ!」
「確かに、近藤三上に抜かされたもんな」
「始めから俺の方がでかかったっつの」
「ちげぇよ、入学した頃は三上の方が低かったって」
「今は今!」
「ッだー!」

「・・・辰巳どうした?」
「え?いや、何でも」

渋沢の言葉を受けて辰巳は軽く頭を振る。

ほんとは、

先を歩く彼らと距離の差が広がらないように気をつけて歩く。
少しだけ目を瞑って、足元から沸いてくる恐怖心に直ぐに目を開けた。少し眩しい。

ほんとは、だけど。
ふたりも母親が居るのに父親がふたりとも居ないと設定するなら、他のメンバーはどうするだろう。
育ててくれた父親の葬式で静かに涙を流す母親を見たときに感じた気持ちは、ほんとは、あれは微かな恋だったのかもしれないが、
・・・それでも息子として3年後には帰ると約束したから。
・・・別に帰ることが嫌な訳じゃない。

ほんとはね。

母親の声を今でも思い出せる。
ほんとはもう少し隠していてほしかった。

ほんとは、
ほんとはもう少し、ここに、

 

 


・・・ご、ゴメス
まるで主人公のような設定だなおい!(ポティに嫌味か
相も変わらず森と言ってる癖に大森やら高田やらが出てこない、間宮すらも。

030430

 

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