洗 濯


ゴウン

初めての洗濯は小学校の家庭科の授業。靴下やらハンカチやらを手洗いで洗った気がする。というか俺自分でやってないけど。だって俺のこの繊細な手が荒れたら困るじゃない?誰だったか忘れたけど確か心優しい誰かがやってくれたんだったと思う、ぜんぜん覚えてないけど。

ゴウン

男子寮において掃除洗濯はかなり遠慮されるところだ。だってまだろくに親離れも出来てない男子中学生、自分で部屋の掃除ぐらいはともかく洗濯だって。しかも試合があった日なんかは最悪。その辺はまぁ3軍が頑張ってくれるんだけど。

ゴウン

だから洗濯機がおいてあるこの部屋に定期的に通っているのはこいつぐらいのものだと思う。探したら部屋か談話室かここにいるのだから単純というかなんと言うか。俺は楽でいいけど。

ゴウン

洗濯が得意な男子中学生なんてどうだろう。別に好きならいいけどさ、俺も将来楽そうだし。まえにその話題を出したとき基本的な家事一般は自力で出来るらしい。聞けば入学を希望した頃からみっちりと仕込まれたとか。家厳しいのかな、挨拶行くの怖いわー俺箱入り息子だから少しわがままなのよ、先方に気に入ってもらえるかしら。猫かぶるのは得意だけど。

ゴウン

それにしても珍しい。確かにここは静かで、洗濯機の回る音も旧式だから騒がしいけど慣れてしまえば平気なんだろうけど。がたがたと洗濯機が震えている。動いているのは1台。

ゴウン

個人的にはもう少しこのままでもいいかなと思う。洗濯室の中央に、コインランドリーの如く置かれたベンチに座って器用に寝てる。昨日遅くまで本読んでたんだろう、お前の寝不足の理由なんてそれしかない。

ゴウン

じっと、正面にしゃがみこんで顔を覗き込む。案外睫毛が長い。それにしても俺はもう少し面食いだったと思うのに。悪いとは言わないけど好みではなかったから始め存在すら知らなかった男。今じゃ俺の飽和量を超えようとしている、信じてくれないけど。

ゴウン

あーあ、起こさなきゃダメだよな。飯食いっぱぐれたら俺の所為になっちゃうし、何と言ってもベッドの中で腹鳴ったら色気ないからね。

ゴウン

「たつみ」

ゴウン

「たつみー」

ゴウン

膝をついて足の間に入り込む。腿に手を載せてぽんぽんと軽く叩いて。む、と少し唸って眉が寄った。組んでいた手が解けて目をこする。

ゴウン

目が一瞬俺を見た。でもまたすぐに閉じて、そうかと思えば服のしわの跡がついた手が俺を引き寄せた。ぐっと抱かれて心臓が一瞬飛び跳ねる。そのまま辰巳は動かない。俺を支えに少し前のめりになって、また夢の世界へ行ったらしい。

ゴウン

ぎゅっと黙って抱き返す。起こすからもうちょっと待って、あとちょっと。滅多にない機会だから。ちょっとだけ。

ゴウン

先に辰巳の方がばっと俺を引き剥がした。今度は表情もはっきりとして俺を見ている。しばらくそのまま見合って、辰巳は恐る恐る俺から手を離した。視線はそらした方の負け、じっと熱視線を送ってみると辰巳がやっぱり目をそらす。

ゴウン

「今の何?」
「・・・なんでも」
「何?」
「・・・・」
「寝ぼけてた?俺的には寝ぼけてたフリ希望」
「寝てた」
「ご飯よ」
「・・・ああ」

ゴウン

「辰巳の寝顔かわいー。また見たい」
「・・・じゃあたまには早く起きてみろ」
「じゃあ今日一緒に寝てね」

ゴウン

しまったとは言わせない。

 

 


なんとなく。

040410

 

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