胃 腸 薬


「風邪薬か?」
「・・・いえ・・・あの・・・」

薬箱を抱えた辰巳の前で笠井は言葉を濁す。
誰も居ない談話室だが視線を一周させて笠井は口を開いた。

「・・・胃薬・・・」
「・・・大丈夫か?」
「もう無理です・・・やっぱり生徒会なんか入らなきゃよかった・・・」
「まぁそう言うな。幾つだっけ」
「14です」

辰巳が苦笑しながら薬を渡した。
対する笠井はしかめっ面でそれを受け取る。

「笑い事じゃないですよ。しかも俺がピアノ弾けるってバラしたの辰巳先輩でしょう」
「あ、誰に聞いた?」
「和田ちゃんが言ってました」

和田先生か、と生徒会の先生の名前に辰巳は苦笑する。
先日行なわれた生徒会選挙、定員に満たなかったため選挙後に個人的に交渉していた。
その結果、まんまと勧誘された書記が笠井。辰巳は去年から引き続き会計だった。

「あー、駄目だ・・・」
「笠井そんなに緊張するやつだったか?」
「だってクラス発表ならともかく校歌なんて誰も歌わないじゃないですか!」

明日は文化祭だった。
開会式に全校で校歌を合唱する。笠井はそのピアノ伴奏を押しつけられ・・・任されていた。
校歌なんてまともに覚えてる生徒はいないだろう、合唱になる筈がない。

「イヤだー、やっぱり断ればよかった・・・」
「大丈夫だって、頑張れよ」
「辰巳先輩絶対歌って下さいよ!俺の後ろで歌ってて下さい!」
「俺 司会進行」
「卑怯者!」

餞別に辰巳がペットボトルを渡し、笠井がそれで薬を飲む。

「・・・ああっ・・・ダメだー!」
「大丈夫だって」

なだめるように辰巳は笠井の頭を撫でてやる。

「ほら、とりあえず今日はもう寝ろ。また明日な」
「・・・はーい・・・・・・」

空になった薬の袋を辰巳がさり気なく受け取る。
ペットボトルを返そうとする笠井を制してそのまま預け、一緒に談話室を出る。

「おやすみ」
「おやすみなさ〜い・・・」







「無理・・・!」
「落ち着けって」
「だってロクに練習の時間もなかったんですよー!!」

舞台袖で笠井が頭を抱える。
辰巳も一緒に、別の意味で頭を抱えたい。

「ほら、次だ」
「い、胃が・・・・・・俺辰巳先輩の気持ちが分かりました」
「一言多い」

笠井の額を軽く叩いて背中を押す。
黙るように指で示して、プログラム進行のため舞台を降りようとする。

「待って、辰巳先輩」
「笠井、もう時間が」

辰巳が固まった。
硬直したのは辰巳だけじゃない、その場にいた生徒会役員も同様だ。
笠井が辰巳に抱きついた。

「・・・・・・」
「・・・よしっ!」
「・・・・・・」



『・・・校歌、斉唱』

生徒会会計の胃痛をこらえた響きだった。






「なー、タク、アレ何だったの?」
「何が?」
「舞台で辰巳先輩に抱きついてたじゃん。俺の辺りからバッチリ見えたよ」
「・・・・・・。 ・・・辰巳先輩って、母さんの匂いに似てるんだ」
「は?」
「多分洗濯物の匂いだと思うんだけど。俺ピアノの発表会とか、いっつも緊張してるの母さんに和らげてもらってたから」
「・・・・・・(辰巳先輩可哀想だなぁ・・・)」

 

 


辰巳氏が胃腸薬と言うことで。
文中にどうやって入れればいいか判らなくて断念。まとまんねー

030627

 

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