好 き と い う 言 葉


「すき!」

「・・・・・・」

無視。
辰巳はひたすら無視を決め込む。その心情を分かっている中西はただ笑い、本を読んでいるフリをしている愛しい人のつむじを押してやった。
しかし辰巳の思いとは裏腹に、談話室で繰り広げられるその光景はバカップルが一組としか認識されない。

最近辰巳は談話室で本を読む。部屋に中西とふたりきりというのが耐えられなくなってきたらしい。
談話室では多数決(もしくは無言の圧迫)によりチャンネルの決まるテレビがついていて、少し離れたテーブルでは真面目な部員が勉強をしたりする。
特に用がなくとも何となく談話室に訪れる人は多く、よって中西の言動は不適切だし辰巳の行動も理解できなくはないのだが。
談話室に集まる彼らにしてみれば大人しく部屋でいちゃついていて欲しい。しかし辰巳にしてみれば深刻な問題なのだ。

「ねー辰巳」
「・・・うるさい」
「辰巳は?俺のこと好き?」
「・・・・・・」

あいつら消してくれたら何でもする。
三上の呟いた言葉は結構本気だろう。
間宮が聞いてたらどうする気なんだろうか、笠井が少し考えるがそれはそれで静かになってイイかもしれない。
間宮に情報を流しに行こうか。しかし三上はともかく彼らが消えてしまうのは望まない。

「なんか中西先輩前にも増してご機嫌ですね」
「一度は別れたとまで言ったのによ。短かったけど」
「仲直りの時によっぽどいいこと言われたんですかね」
「・・・辰巳が中西にかぁ?」

三上は改めてふたりを見た。
ソファに座り活字をひたすら辿る辰巳、の前に照明を遮らないように立っている中西。
付き合ってるとか付き合ってないとか、それぞれの主張が異なるふたりだ。笠井の場合は嫌味で言うが辰巳は本気でそれを言う。

「・・・笠井」
「何ですか?」
「俺のこと好き?」
「・・・はっ」
「鼻で笑うな」

誰かこいつら消してくれ。
バラエティを見ていた近藤は笑うところで笑えなかった。






「ねー辰巳、だから、もっかい言ってってゆってんだよ」
「・・・何の話だ」
「素直じゃないねー。ゆったじゃん」

にやりと中西は笑う。
またかよ、とうんざりするのは三上だけじゃない。もう慣れてきた笠井は三上の隣でふたりを見て微笑ましく思うばかりだ。

「あーもーあいつらウゼー」
「でも中西先輩の気持ちちょっと分かるかもなー」
「・・・何?お前何か聞いたの?」
「うん」
「何て?」
「さぁ。とりあえず告白っぽかったらしいですけど」
「告白・・・?」

生憎と三上の頭に浮かぶイメージは恥じらう乙女しか出てこない。
ふと思い立ち、三上は笠井を見る。

「お前俺のこと好き?」
「まぁそれはさておき」
「・・・・・・」
「中西先輩いいなー」
「・・・別に、笠井がお望みなら幾らだって言葉にしてやるけど?」
「三上先輩言われてもなー」
「・・・・・・」

そこのふたりも結構ウザイよ。
明日提出の課題を必死で写させて貰っている藤代はその時ばかりは心底思った。

 

好きという言葉は良くも悪くも最強の言葉だ。
その言葉は意志を持ち、好き勝手に暴れては甘えてきて全てを誤魔化してしまう。

好きという言葉は呪文に似ると思う。
強いからこそ好きなものがある人は強い。だからこそ好きなものがない人は怖い。
縛りつけ繋ぎ止めひとつも忘れないように。
好きというのはしょうがない。それは生きている言葉だ。

 

「辰巳先輩」
「・・・笠井」

談話室へ向かう途中、辰巳は声を掛けられ足を止める。

「ぶっちゃけていいですか」
「言いたいことは分かった。もう聞き飽きたから」
「そうですか。中西先輩と比例して三上先輩が機嫌悪くなるから困るんですよ」
「・・・・・・」

そろそろ我慢できなくなってきた奴らからブーイングがいったのだろう。
しかし辰巳にしか届いてないに違いない。わざわざ中西を不機嫌にさせるようなセリフを吐きに行く奴はいないからだ。

「でも分かってるならひとつ」
「何だ?」
「中西先輩は追われる恋より追う恋をしたい人なんですよ」

 

「辰巳、好きだよ」

また始まった・・・
談話室へやってくる人数が減り始めた今日この頃、残っている彼らは段々それに慣れてきた。
陳腐でワンパターンな恋愛ドラマを見ているとでも思えばいいのだ。慣れてくれば何となく面白くもなってくる(だろう)。

しかし今日は少し違う。
本のページをめくる手が止まり、辰巳が不意に本を閉じる。しかし顔は伏せたまま。

「・・・辰巳?」

中西の方も異変に気付き、少し不安そうに辰巳の顔を覗き込む。

「中西」
「何?」
「俺がお前のこと大っ好きだったらどうする?」
「・・・・・・・・・」




「た、た、辰巳!中西に何したのっ!?泣きながら帰ってきたんだけど!」
「何も言うな根岸、辰巳は今日勝ったんだ」
「何!?何があったの!?」

談話室にひとまず平和が戻る。
辰巳はひとつ賢くなった。

 

 


・・・もっとこう・・・しっとり・・・・・・
しっとりとやりたかったお題なんですがね。
・・・まぁいいか(いいんだ)気持ち的には「策士策に溺れたり」の後って感じで。
でもきっとこの数日後には中西は立ち直ってますよ。
今度は「キスして」とかで攻めて来るんですよ(辰巳は絶対勝てない・・・)

好きという言葉は強いと思うよ。強い憎悪や絶望を知らないからそう思うけどね。

031217

 

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