「じゃあ俺チョキ出すから」
「えっ・・・」

ジャンケンと言う単純なもので突如として頭脳戦を強いられた藤代は、最初はグーの形で手を止めたまま考える。
チョキを出すなんて言ってこっちにグーを出させてパーを出すつもりだろうか。
そう見せ掛けて本気でチョキを出すかもしれない。

「じゃーんけーん」
「ちち、ちょっと待っ・・・」

勝者、中西


か け ひ き


「う〜・・・セコイっスよ中西先輩」
「何で?俺予告通り出したじゃん」
「くそーッ!」
「頑張れ」

中西が笑って、藤代の前に皿を積み上げた。

松葉寮食堂にて現在。
始めは中西と三上だけだったのがどんどん拡大して、ジャンケンで負けた人が勝った人の皿を持って行くという事が行なわれている。

「キャプテンキャプテン!ジャンケンしましょう!」
「俺は遠慮しとくよ・・・」
「誠二・・・それ以上増えたら2回に分けないと無理だよ」
「くそーっ」

観念して立ち上がった藤代に、中西が頑張ってねと手を振って見送った。
一緒に立ち上がった笠井は自分の食器だけを持っている。
どうも連敗が続いたので、勝負自体をやめてしまったのだ。

「つーか中西さっきので負けてたらダセェよな」
「藤代には負けないよ」

武蔵森7番、中西秀二。
ある意味最強の彼は魔王も避けて通るとか閻魔様の友人だとか、その噂が何よりも最強だ。

「最近ちょっと涼しくなって来たね」
「あぁ・・・もうすぐ中西と笠井の季節か」
「渋沢悪意ある?」

笠井と中西が寒がりだという事を言ってるんだろう。
なかなか部室から出ない二人を追い出すのに、去年一番苦労したのは渋沢だ。

「今年は笠井レンタルしねぇからな」
「えー・・・三上先輩より中西先輩の方が体温高くて温かいのに」
「今年はいーよぉ、丁度良いカイロ見付けたから」
「期間限定?」

三上が笑って、中西もさあねぇ?と曖昧に返した。





「・・・なぁ渋沢、そのうち台風来るかもしんねぇ」
「イヤ・・・・・・竜巻とか起こるんじゃないか?」

イン渋沢+三上の部屋。
即席会議、だ。

「絶対可笑しいですよ・・・目に見えて中西先輩の『出待ち』減りましたもん」
「しかも中西先輩煙草やめたんですよ?」
「「えっ!」」
「イヤ・・・まて、中西は煙草吸ってたのか?」
「あ・・・」

笠井の失言に渋沢はピクリと反応する。

「・・・イヤ今はそれどころじゃない」

何か言いたげな渋沢を三上が流して、本題へと戻る。
議題は中西の変化について。
彼女が替わろうが男と付き合っていようが外泊続きだろうが、自分自身は全く変わらない男が。
ここ数日、目に見えて『イイコ』になっている。

「・・・何があったんでしょうね・・・」
「まぁ・・・恋愛絡みと言うことはまず間違いないだろうけどな」
「じゃあお前等専門だな」
「あっキャプテン人に押しつけようとしないで下さいよ!」
「笠井達の得意分野じゃないか」
「アイツの恋愛事情と一緒にするな」

三上が溜息を吐いた。





カイロを使うには、どうも苦労を強いられるようだ。
中西は笑いの延長に溜息を吐く。

「・・・じゃあ道を歩いていたら金持ってそうなおじさんに声かけられた時」
「さっきのお姉さんよりタチ悪いじゃないか・・・」
「つまり惜しいけど丁重にお断わりしなさいってコトね」

楽しそうに笑う中西に辰巳が顔をしかめる。
辰巳のベッドに寝転んで、天井を見上げて中西が小さく唸った。

「やだワ辰巳さん注文が多くて」
「お前が突飛過ぎるんだ」
「あ、じゃあ黒服のお兄さんに後着けられたときは誘う?消す?」
「その足で警察行け」

どこまで本気か判らない質問に、辰巳が溜息を吐く。
常識ではありえないコトも、中西になら起こっても不思議じゃない。

「はぁい、じゃあ夜中にダァリンvの部屋に夜這いに来るなら何時頃がイイ?」
「来なくていい」
「え〜っ!」

中西は不満げに勉強机の辰巳を見る。
辰巳の方は本から目を離さずに溜息を吐いた。

「最近溜息増えたねェ」
「誰の所為だ」
「・・・あら?アタシィ?」

茶化す様な口調で中西はふざけて笑う。ゴロンと俯せになって、適当に布団を掻き寄せた。

「辰巳の匂いがする」
「何のヒロインだお前は」
「さぁね?えーっと復唱!知らないお姉さんとオジサンと黒服には声かけられてもついていかない。何か買ってくれてもいかない」
「その前に買ってもらうな」
「じゃあ俺の物欲は誰が満たしてくれるの」
「自分で満たせ」
「・・・イイよ。判った。あと何だっけ、喧嘩は売らない買わない」
「それと煙草禁止」
「・・・やんバレてた?」

体を起こして中西は笑う。ホントはもうそんな事言われるのは予想済みで、手元にあった奴は全部捨てた。
中西が辰巳の後ろに立って本を取り上げ、その目の前で本を閉じる。

「お前・・・」
「253ページ多分5行目。辰巳判ってる?俺がこれだけ言うこと聞いてあげようなんてかなり凄いよ?厳しすぎ」
「俺もお前が常識人なら何も言わない」
「失礼な」

中西が机に寄り掛かって、パラパラっとページを捲った。
つまらなさそうに数ページ読んで、閉じた本を机に置く。

「俺と二人の時本読まないでよ」
「・・・ハァ・・・」
「浮気とみなすからね」
「何でだよ。・・・もうすぐ消灯だぞ」
「恋人同士の時間はこれからでしょ?」
「・・・いつも言ってて飽きないか?」
「いつも人追い返しててよく言うよ」

中西は小さく息を吐いた。
殆ど無理に辰巳の顔を持ち上げて、なかなか愛を語らない唇にキスを落とす。

「いつになったら朝までこの部屋に居られるのかしら?」
「さぁな」

溜息の様に息を吐いた辰巳を見て、中西は笑って部屋を出た。






「好きな人?」
「ハイ・・・あの・・・居ますよね?」
「えぇ?俺は笠井好きだけど」
「じゃなくて、」
「・・・居るよー?」

中西はクスクス笑って笠井を見た。
部屋に戻ろうとした途中の、可愛い可愛い後輩からの誘いを中西が断るわけがない。
笠井は後輩以上、としても良いのだが。

寒いのは嫌いだけど、屋上が好きだ。只、夜の屋上は昼間以上に辛い。
手すりに寄りかかって空を見上げると、下の方から吹いてくる風で思いっ切り寒かった。
寒さのお陰で空気が澄んで、日を追うごとに空が綺麗になる。東京の空はとても綺麗とは言えないかもしれないが。
ちょいちょい、と笠井を手招きして、中西は笠井に抱きついた。

「もうどうしよー」
「ど、どうしたんですか?」
「ところで笠井じゃんけん負け?」
「う・・・」
「良いけどねぇ」

寒い、言いながらも中西は屋内に入る気配はない。

「中西先輩変わったー」
「そう?笠井の好みじゃない?」
「好きですよ」
「ありがとーv もう、ホントどうしようねぇ、俺今までにないぐらい好きで好きでしょうがないんだけど」
「アレ」

人間らしーい、
笠井が言うと中西は笑った。
確かに、その人のために変わろうと思ったこともない。
実際変わってしまったこと何て有り得ない。
今まで性格変わるほど人を好きになったことなんてない。

「寒い」
「中入る?」
「外が良いならココで良いです。先輩温かいし」
「そう」



「先輩」
「ん?」
「誰か聞いちゃってイイ?」
「んん、聞いてv」

俺言いたいの、
笠井の耳元で中西が囁くように言って笠井が吹き出した。

「小学生みたい」
「俺も思う」

ホントに本命が他の人なのか疑わしいほど仲睦まじく、2人は手すりに寄りかかって笑う。
もういい加減指先が微かに冷たくなってきてるけれど、何となくココが良い。

「先輩、誰?」

「11ばぁーん」



風が吹いた。
寒い。



「・・・・・・胃に穴が開きそうだって言われせん?」
「言われるねぇ」

中西は上機嫌だ。

「まぁ首尾は上々とは言えないけどね」
「辰巳先輩・・・ねぇ・・・」
「そのうちノロケ聞かせたげるねvまだちょっと無理なんだけど」
「辰巳先輩厳しそう・・・」
「嫌われてはないと思うんだけどさ」
「切ないっスねー」
「切ないなぁー」

慰めてね、と冗談交じりに中西が力を込めた。
笠井も親愛の気持ちで抱き返す。

「・・・と、笠井はこれを俺から聞きだしに来たんだよね」
「アハ?」
「どうする?みんなに言っちゃう?更に辰巳のガード高くなっちゃいそうだけど」
「う・・・・・・」
「・・・じゃあ俺パー出すから」

 

 

「た・・・ただいま・・・」
「聞けたかっ!!?」
「・・・・・・・・・じゃんけん負けました」
「笠井弱すぎ!!」

 

 


中 西 が 好 き だ ! !
もうこの際なので可愛らしい中西を極めるコトにした。
アタシの中で笠井ちんと中西は必要以上に中がよいのでそこ強調。
もう大好き。
例えアタシの虚像でもな!!

021021

 

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