昼ご飯にパンふたつと紙パック。
読みかけの本が1冊と

邪魔者がひとり。


策 士 策 に 溺 れ た り   1


(あ・・・)

「中西ー?」
「ごめんネギ、俺中庭で食う」
「はいよ。ほい昼飯」

根岸は何も言わずに、窓の外が気になる中西にパンを幾つかと紙パックを押しつける。
教室からはいつも一緒に昼食を取るクラスメイトに呼ばれた。

「金あとで返す」
「いーよ、前借りてたし」
「うん、じゃね」
「ちゃんと帰ってこいよー、5時間目いなくてもフォローしないからなー」
「朝帰りしたらごめんv」
「ばーかっ」

根岸は笑って中西を送り出した。
中西の後ろ姿を見ながら、腕を組んでうんうんと頷きながら教室に入る。

「青春だなー」
「・・・つか中西にバカとか言えるのお前ぐらいだよ・・・」

中西がいなくなっても場は余り変わらない。
2、3人で食べてるのも何だからと言う理由で集まってるような奴らだから同然だろう。普段は特に仲がいいと言う訳じゃない。

「・・・何かさー、中西って前すげー怖くなかった?」
「・・・そう?」

人差し指を頬に添えて、根岸は演技がかって首を傾げる。
クラスメイトの方はうん、と大きく首と縦に振った。

「俺の膝より上に顔上げんなって感じだったじゃん」
「大名かよ」
「それってお前が嫌われてただけじゃん?」
「・・・あー、違うよ。中西低血圧だからさ」

根岸が高級ジャムパンと書かれた袋を開ける。
100円でどの辺りが高級なのか分かりかねるが、食べてしまえば同じだ。

「でも朝練あるからちゃんと起きるけど。前は俺が無理矢理起こしてたからねー、最近は辰巳が起こすから」
「あぁ・・・確かに辰巳は中西の扱い巧いよな」
「つかあいつら密度高くね?」
「ネギ、辰巳に中西取られるぞ」
「あ、やっぱり思う?」

もう取られてるけどとは言わずに笑って誤魔化した。

 

 

「たっつみー!・・・あっ、何その顔!愛がな〜い!」

顔をしかめた原因はカフェオレではなく声の主であることは間違いないだろう。
穴場だった中庭は一瞬にして騒がしいスペースに変わる。
辰巳は本を閉じてパンの袋を開けた。

「へっへ、窓から見えたから走って来ちゃったー。一緒していい?てかするね」
「じゃあ聞くな」

溜息混じりの返事に満足そうに笑って、中西は辰巳の隣に座る。
木の陰になったベンチから見える範囲に、他に人影はない。

「変な奴」
「・・・お前が言うか」
「だって、こんな暑いのにわざわざ外出てさ」
「今日はまだ涼しいだろ。教室煩いんだ」
「本読んでたらそんなの聞こえない癖に」

中西は紙パックにストローを挿した。
何も思わずに飲んだ100%オレンジに不意をつかれて少し顔をしかめる。

「・・・それ長いね、昨日も読んでた」
「あぁ、これは下巻。昨日のは上巻」
「早ッ」
「ねむ」
「・・・本読まないで寝ればいいのに」
「分かってるよ」

辰巳は苦笑してパンを食べ始めた。
中西が辰巳の膝から本を奪って、パラパラとページをめくる。

「字ィちっさー分厚ー読む気しねー本の虫ー」
「ほっとけ。それよりお前ちゃんと食えよ、結局朝も殆ど食ってないんだから」
「・・・・・・はーい」

中西も本を返してパンを食べ始めた。
蝉の声が結構近くで聞こえる。
パンをくわえたまま辰巳が本を開く。だからパンか、中西が呆れて溜息を吐いた。
足を揺らすとベンチも少し軋む。
締め切っているはずなのに、後者からは騒がしい音が聞こえてきた。

(中 涼しいんだろうな)

教室はクーラーが効いている。ズボンも足に貼り付かないし、パンの袋も不快じゃないだろう。
廊下を通った笠井と藤代が中から手を振ってきた。中西も笑って返す。
ふたりは何かふざけあいながら、木の陰に消えていった。

(・・・あーあ)

気が進まないままパンを食べる。
他に誰も居ないようだった。静かにページをめくる音とパンの袋の音だけが、隣の男の存在している証拠だ。

「辰巳」

返事がないのは承知だ。
紙パックが結露して手が濡れる。何となく、ベンチに置かれた相手のカフェオレと自分のものを入れ替えてみた。

「辰巳」

手を拭いてから本を奪って閉じた。
辰巳が顔を上げる。

「152ページ。あのね辰巳」
「・・・何だ」
「俺 辰巳のこと好きなのやめる」
「・・・・・・」
「だって何か、違うんだよ。泣きたくなる」
「・・・中西」
「からかうだけのつもりだったのに、辰巳オチないんだもん。アンタみたいな奴嫌いだな」

蝉。うるさい。
中西は外音を立つ集中力は持ち合わせていない。

「さっさとオトしてさっさと振ってやろうと思ってたのに」
「・・・勝手だな」
「今更っしょ」

溜息は肯定だった。

 

 

「おっ勇者辰巳が帰ってきた」
「勇者?」
「このクソ暑いのにわざわざ外で飯を食った勇者」

クラスメイトが拍手して茶化す。

「ほらみろ汗かいてんじゃん!」
「いや・・・冷や汗・・・」
「は?」
「あらやだ、辰巳さんたらキスマークが!」
「やだっ辰巳さんたら!あたしというものがありながら!」
「うるさい!虫さされ!」
「うわ・・・何か荒れてんなお前・・・」
「・・・・・・」

辰巳は黙って自分の席に向かう。
いつもと違った様子にクラスメイトは顔を見合わせた。

「・・・あれ、辰巳お前誰かと一緒だったのか?」
「何で?」
「だって出てったときカフェオレだったろ」
「・・・・・・」

手に残る空箱。100%オレンジ。
辰巳はからなのを確認し、黙ったまま箱を潰す。

「・・・中西」
「中西?あいつも外なんか行ってたんだ」
「お前ら最近仲イイなー」
「・・・遊ばれてるだけだって。そのうち飽きるだろ」
「中西気まぐれだもんなー」
「・・・・・・」

違和感も感触も勿論かゆみも何もない首筋をさする。
残るのはいっそ不愉快な他人の気配だ。
勿論不愉快なのは暑さの所為だけであるけれど。

「何が最後に、だ」

 

 

 

「別れたんだって」

着替えながら笠井が言う。
声はシャツの中にこもっていたが、隣の藤代には十分聞こえた。

「誰と誰が?」
「中西先輩と辰巳先輩」
「・・・・・・は?」

シャツを脱ぐだけ脱いで藤代が固まる。
ついでに更衣室中の人間も固まっているのだが、笠井は淡々と着替えていた。

「・・・だって今日の昼休みふたりで仲つむまじく」
「むつまじく」
「一緒にパン食ってたじゃん」
「その時別れたんだって」
「・・・・・・」

藤代はしばらく考え込む。

「・・・・・・あのふたりってちゃんと付き合ってたんだね」
「うん、俺もそれ思った」

 

 

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別れ話(え)
広い意味でなれそめ。
ところで自分の辰中読み返してつくづくサザエさん現象って便利だと思いました。

根岸が好きだー!
不幸ネギより男前ネギの方が出没率が高いです。
なぜなら男前の方が書きやすいからです。
根岸が好きだー!!

030908

 

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