「・・・読みかけの本知らないか」
「さぁ」
「その不自然に角張った腹は何だ」
「身籠もった」
「・・・本返せ」


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「凄い話」
「・・・・・・」
「いいねそれ。貸して」
「・・・いいけど」

辰巳の手から本を抜き取って中西はページを戻し、その話の先頭を出す。
短編集のそれの、辰巳が読んでいた話が気になったらしい。
辰巳は少し迷い、立ち上がろうとすると中西が本を見たまま服の裾を捕まえる。

「・・・・・・」

諦めて腰を落とし、奪われた本の替わりに手近な文庫本を手に取った。
部屋でふたり並んで座り、本を読む。考えてみると初めてかもしれないと思い当たり、何となく中西を見た。

ひとりだけ談話室から取ってきたクッションに座り、立てた膝にハードカバーの本を預けるようにして読んでいる。
左手は本を支え、右手は辰巳の服を掴んだままだ。
溜息を吐いてその指を解く。中西は逆らうことなく、しかし自分では動かさなかった。
首を傾けているので髪で目が隠れているが、口元は笑っているように見える。

解かれた右手は無造作に床に落ちていた。そうかと思えば辰巳の膝にポンと置かれる。
椅子の肘掛けのような扱いだ。

「のどかわいた」
「・・・それで?」
「別にー」
「・・・・・・」

中西は相変わらず本から目を離さない。
少し待って、辰巳は文庫本を自分の体に隠して立ち上がる。そのまま部屋を出るが、後ろから声はなかった。
辰巳はドアを閉めて談話室へ向かう。

談話室では大森が太極拳の練習をしていた。
何を考えているのか分からない間宮が黙ってそれを見ている。
どうしようか、
辰巳はしばらくドアのところで悩んで、結局中に入った。ソファのひとつに腰掛け、本を開く。
確かに室内は静かではあった。静かではあるのだが。

ろくにページが進まないうちに藤代がバタバタと駆け込んできた。根岸が何かかちゃかちゃ落としながら一緒に過ぎていく。
顔を上げると、笠井がゲームのカセットやケースを拾いながらそれについて行った。
テレビの前が藤代と根岸のふたりだけで一気に騒がしくなる。
相変わらず、大森と間宮はマイペースだ。

「・・・・・・」

辰巳は本を閉じて立ち上がった。
面倒だが屋上まで上がってみる。そこは誰も居なくて静かだった。
風通しのいいところに腰を落ち着ける。風邪もそう強くなく、気持ちのいい天気だった。
本を読み始めるが、どことなく落ち着かない。文字を目で追うが、内容が頭に入らなかった。
一度読んだことのある本だからだ、と言い訳してみて辰巳は立ち上がった。

 

部屋に戻ると中西は本に顔を伏せていた。
台所から持ってきたグラスを側に置く。
本を抜き取ってやると少し身じろぐが顔を上げない。痕の付いてしまった本を閉じて、辰巳は中西を見て顔をしかめた。
絶対起きてから首が痛いと文句を言うんだろう。
かと言ってわざわざベッドに寝かせてやるというのは調子に乗るので遠慮したい。

中西はそのままで隣に座り、辰巳は中西から取り返した本を読み始めた。
思いの外順調にページが進む。
部屋が静かだからだ。
丁度本が読み終わる頃、中西が唸って目を覚ます。
首が痛い、と呟いてから辰巳を見た。

「・・・おかえり」

あくびをかみ殺し、またうつらうつらし始める。
側に置かれたグラスに気付いて持ち上げ、一口含んでみた。

「水だし。 うー・・・ねむい」

辰巳に寄りかかり、中西は目を閉じた。

「この本の虫は羽が生えてるから捕まえてないと」
「・・・・・・」

服の裾を言葉通りに捕まえて。

「おやすみー」
「・・・・・・」

きっと中西が起きた頃には肩が痛くなってるだろう。
辰巳は溜息を吐いて、また本に視線を落とした。

 

 


辰中の日なので。
辰→中ですよ!!(え!)

031107

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