そりゃよく考えたらあんたのことなんか知らないけど。
でもお前は可も不可もない男だと思ってた。


目 を 閉 じ る


「良平!」

校門で三上と話をしていた辰巳は呼ばれてから振り返った。
ヒールの踵もものともせず、一直線に駆け込んできた女性はがしっとその両肩を掴む。

「・・・母さん久しぶり。迷わず来れた?」
「3年間よく我慢してくれたと思うけどついに何をやらかしたの?」
「・・・・」

同じく校門にいた中西たちが何事だと辰巳を見た。
───辰巳より背の高い女性はそういない。黒いスーツの女性は辰巳の肩を掴んでじっと見つめた。

「・・・母さん、俺三者面談って言ったよね」
「だからあなたがなにかやらかしたのかと」
「進路のための三者面談。仕事忙しいのは分かるけどちゃんとプリント読めって」
「そうなの?よかったー・・・また先生の車に傷つけたとか桜の枝折ったとかしたのかと思った」
「もう小学生じゃないんだからさ・・・」
「・・・こんにちは、辰巳のお母さん?正月はお世話になりました」
「・・・あぁ、えーっと」
「中西」
「そう、中西君ね。いつも良平がお世話になってます」

勇者中西に三上がガッツポーズをとった。行け、そして可笑しな会話を解析しろ!
ややこしく混乱させてくれそうな人物の登場に辰巳は溜息を吐く。

「・・・辰巳、車の傷とか何の話?」
「知らない?良平の武勇伝よ。小学生の時凄くやんちゃで」
(((やんちゃ・・・??)))

それは辰巳とは程遠い単語だ。中西が辰巳を見るとすーっと視線を逸らす。

「・・・まさか小学校に呼び出されるとは思ってなかったわ」
「呼び出し・・・?」
「そう。トイレつまらせて呼び出しだったかしら」
「違う。飾ってあった絵にボールぶつけて」
「あぁ、額縁壊したのよね」
「事故だったのになぁ」
「アレは、ね。正露丸を先生の給食に入れたり」
「・・・なんだ俺だってばれたんだろうな」
「あんなくだらないことをするのは貴方ぐらいだからよ。怒られても怒られても懲りないし」
「母さんホラ面談始まるから」

行こう、と辰巳は母親を引いて校舎に入っていく。

「・・・帰ってから楽しそうだな中西・・・」
「そうね・・・腕が鳴るわァ〜」

 

 

 

「何か辰巳先輩って面白かったらしーっスね」
「・・・もう広がってるのか・・・」

母さんのせいだ。洗濯機に服を押し込んで辰巳は溜息を吐いた。
ごうんごうん、BGMはやかましいが、それ以上に声はでかい。

「なんで今そんなつまんないスかー」
「成長したんだ」
「ふーん、俺も小学校で1年に1枚ガラス割ってたし」
「・・・卒業間際に3枚立て続けに割った」
「・・・リスペクト!」

ぐっと手を握り締めた藤代に洗濯籠を被せた。真似はするなよ、辰巳がたしなめても説得力はない。

「辰巳、ちょいと俺と茶でもしばき倒そう」
「いつから関西人になったんだ」
「いいからカモン」

中西に連衡されて行く辰巳を笠井は気をつけて、と見送る。洒落にならない。
廊下をいくとなにやら談話室の方が騒がしい。中西を見ると、合点が行ったようにあぁと頷いた。

「アレじゃない?渋沢に取材。こんなに大層だとはね」
「あぁ・・・寮まで来るとは思わなかった。今日なのか」
「練習中は桐原の許可がでなかったんじゃないの?見に行く?」
「いや、いい・・・」
「なんで?面白そうじゃん行こ」
「選択権がないなら聞くな・・・」

辰巳の手を引いて中西は談話室へ向かう。人だかりも中西を前に何故か割れた。
ソファに渋沢と向かい合って、記者らしき男。カメラマンがひとり。おぉ、写真つき。中西が感心した声を出す。
あとは女性がひとりいるだけで、あとはみんな野次馬だ。やりにくそうだな、辰巳が苦笑して渋沢を見て、ふと顔をしかめる。

「辰巳?」

何かと思い中西が辰巳の視線を追えば、女の人が手を振っていた。

 

 

「よかったー、会えないかなーって思ったからさ」
「・・・帰らなくていいんですか」
「ついてきただけだもん」
「・・・・」

女性との会話に辰巳が溜息をつく。もう記者の人達は帰ってしまったというのに。

「そっちは中西君の友達だよね」
「恋人でーす」
「中西ッ」
「あははーほんと?じゃああたしとキョウダイじゃん」
「は?」
「余計なこと言わないでくれ!」

考え込む中西を遠ざけて、辰巳は不満顔で女性と話をする。
中西がはっとして辰巳の背中を捕まえ、

「思い出した、正月にバスの中で会った人」
「そうそう、辰巳君が家に友達つれていくなんて珍しいなと思ったらカレシだったのね」
「ややこしくなるから黙っててくれ」
「じゃあこの人が辰己の初めてな人なわけでしょう?」
「・・・なんでそういうことを・・・」
「アレ?良平君初めてだったんだ」
「女の人に触ったのはアレが最初で最後」
「あーそうなの?てっきり」
「・・・・」

からからと女性が笑う反面、辰己はガクリと肩を落とす。中西はがっちりと辰己を捕まえて逃がさない。

「だって躊躇わないからさぁ」
「・・・だから好奇心で」
「本ばっか読んでるから耳年間っつーの?あ、耳じゃないね」
「・・・辰己ってそうなの・・・」
「・・・・」
「あ、でも殆どあたしが仕込んだのか」
「えー、だって辰己いつも自分から何もしないじゃん」
「・・・・・・あ、ほんとに恋人だった?」
「・・・・」

胃が。キリキリと不調を訴え始めた胃を押さえる。今回種をまいたのは過去の自分なのだが。

「ふーん、そうなの?良平君」
「・・・ありえないですから」
「えーと中西君?この子こう見えてムッツリだから」
「田口さん!」
「あたし白川になったのー」
「・・・白川さん、余計なこと言わなくていいから」
「先輩としてアドバイスじゃない。あのね、手加減してもらった方がいいから」
「ほら白川さんも早く帰ってください!新婚でしょう!」
「だって旦那今日遅いからー」
「とにかく帰って下さい。俺は洗濯物干すんで」
「相変わらず所帯じみてるのねー。中西君この子ぼっちゃまだから捕まえときなさい、将来金に困ったとき涙のひとつやふたつ零せばいざというとき借金ぐらい消してくれるから」
「そうしまーす」
「あのな・・・」

 

 

 

パンッ、干し竿を前に中西は不満顔でシーツを広げた。
1、2、3枚、うち1枚は辰己のものとして、他の2枚は誰のだろう。
いい天気だ、辰己は中西を無視して空を仰ぐ。腕に通したハンガーがなんとも、ほんとにやんちゃっ子だったのか疑わしい姿を中西はじっと睨んだ。

「・・・なんだ?」
「さっきのー、白川さんが言ったの全部ほんと?」
「言ったのって」
「しこまれた」
「・・・・・・相手が女の場合有効」
「むっつり・・・」
「しつこいな・・・」

風で飛びそうになったシーツを慌てて押さえ、辰巳が差し出した洗濯ばさみで止める。
濡れた布がまとわりつくのに中西は顔をしかめて一歩引いた。辰巳が洗濯籠からタオルを取った手を捕まえる。

「じゃあキスなら俺でも適用でしょ」
「・・・・」
「ほんっきでやって」
「・・・・」

辰巳は視線を巡らせた。辺りはシーツの海だ。
いい天気に部活が休みで洗濯日和だったのだろう。丁度人も途切れている。
中西が腕を引いて急かし、辰己はタオルを干し竿に引っ掛けた。
少し冷たい手が中西の頬に触れる。水分を含んで重たいタオルがばたばたと空気を叩いた。

「───」

食われた。中西は思う。
他人はただ熱いだけでなく力を持って征服する。力なく辰己を捕まえても効果は何もないようで、深い行為は中西を満たす。
もう何も聞こえない。

「・・・・」
「・・・あ、タオル」

急に辰巳が手を離し、中西は咄嗟にシーツを捕まえる。ふわんと洗剤の匂い。
辰巳が風に飛ばされたタオルを追いかけた。腕からハンガーが落ちる。

「・・・・・・お前最っ高に性格悪い」
「お前に言われたくない」
「ずるいよこんなん隠して」
「あ、こらシーツ汚すな」
「鼻かんでやる」
「お前も使って寝るんだろ」
「・・・・・・ばか。しね」
「・・・泣くならこっち」

辰巳が湿ったタオルを押し付けて、中西をシーツから離す。
すかさずタオルで辰己を殴りつけ、空の洗濯籠を蹴り飛ばしてそれは辰己に当たる。

「いっ、」
「辰巳が今までいかにやる気がなかったかよく分かった」
「やる気がなかったわけじゃなくて」
「じゃあ何」
「・・・・・・さぁ」
「何それ」

 

 

 

「・・・相変わらずみたい」
「・・・何が」

少し赤い辰己の頬を撫でて母親は笑う。
駅のホームで長身がふたり並ぶと目立つのだがふたりは特に気にしない。

「小学校の時もそれでふられてたでしょう」
「さぁ」
「少しは成長したかと思えば好きな子に対する態度は変わんないんだから」
「早く帰ってくれ・・・」

母親を電車に押し込んで、辰己は出発を待たずにホームを出て行く。わざわざ入場してまで見送りするんじゃなかった。
改札を抜けると待っているのは中西。

「何話してたの」
「ガラス割るなって」
「辰己の顔がそんな顔じゃなかった」
「・・・少しぐらい、反対してくれてもなぁ・・・」
「何?」
「何でも」
「また殴るよ?」
「今日一緒に寝るか」
「・・・辰己の誤魔化し方嫌い・・・録音するからもっぺん言って」
「二度と言うか」

 

 

 


大昔パソコンが使えなくなったときに日記でぷちぷち連載してた奴。
そのときは次の日中西が起きてこなかったというネタが最後についてました。
下書きが猫によってびりびりになってるのをどうにか復旧させた。ていうか調子に乗りすぎた。

041001

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