「渋沢〜!体温計貸してv」
「中西・・・お前あれは遊ぶものじゃないぞ」
「遊んでないよー、今回はマジv」


l o v e s i c k ?  2


「・・・中西・・・お前ウザい」
「え?」
「・・・・」

普段ウザいなどと言われようなら地獄見学ツアーをさせてくれる中西が、ニコリと猶予期間を与える。
何でもない、三上はすごすご引き下がった。
しかし三上とて理由なくウザい、なんて発言したわけではない。言わずにはいられなかったのだ。
中西を止められそうな笠井に視線で問うが、笠井もどうにか笑って首を振る。
根岸は自宅に帰っているし、もうひとり中西を止めることが出来るのは・・・取り敢えずのところ、原因であった。
よって今回は中西を止めることが出来るものは居ないということになる。毎回止められた試しはなかったが。

「・・・中西先輩、何か嬉しそうですね」
「えー分かるー?すっげー嬉しい!」
「・・・先輩可愛いなぁ」
「違ェだろ」

三上が八つ当りに笠井を殴った。
いったーい!そう痛くもない筈だが笠井は大袈裟に叫ぶ。

「中西先輩ッ、三上先輩がいじめる!」
「あーそー」
「・・・・」

三上が今度は逆に笠井の肩を叩いて慰める。
中西は今のところ、他のものはどうでもいいらしかった。本気で思っているから恐ろしい。

「よしっ、出来た!」

コンロの火を止めて中西は誇らしげに額の汗を拭う。

「・・・あのな、中西。さっきから聞きたかったんだけど」
「何?」
「そこに倒れてる渋沢は何だ?」
「あー、教えてもらってたんだけどウザいんだもん」
「・・・・」

料理に煩い我らがキャプテンは生徒が中西だということを失念していたんだろうか。
キリスト教ではないが分かりやすく十字を切ってやりたい。笠井は隣で手を合わせていた。

「じゃあ俺辰巳のトコ行ってくるーv」
「オイ、台所は」
「片しといてv」
「・・・・」

今反論すれば地獄見学ツアーだ。釜茹で体験も出来るかもしれない。
中西はご機嫌で台所を出ていく。

「・・・笠井」
「俺ヤですよー、死体とかあるし」
「イヤ、渋沢まだ死んでないから」

しかし銃撃戦でもあったような台所に、二人はどこから手を付けていいか分からなかった。

 

 

 

「たーつーみーv」
「・・・お前・・・人が風邪引いたってのにムカつく程にこやかだな・・・」
「えーだって嬉しいんだもーんv」

部屋に入ってきた中西は満面の笑みで、辰巳は頭が痛くなる。
本が好きなだけ読めるので藤代のように落ち着かないことはないが、何かと世話を焼きたがる中西がやっかいだった。

「お粥作ったのー、食べてv」
「・・・誰が作ったって?」
「オ・レv」
「・・・・」
「だーいじょうぶだって、渋沢にコーチしてもらったから」

演出だと思ったのに。
エプロンを睨み付けて辰巳はベッドに潜り込む。

「あっ、ひどーい。大丈夫だよー藤代に味見してもらったしー!」
「・・・・」

どうせ食べさせただけでどうなったか確認してないんだろ。
諦めて辰巳は体を起こす。
敢えてなのか何なのか、シンプルなエプロンは確かに少し濡れて料理したらしい痕跡が見られる。
血痕の意味は、よく分からない。考えたら負けだ。
辰巳が背筋が冷えるのを感じつつも中西が隣に座るのを待つ。

「・・・何、もしかして裸エプロンが良かった?」
「やめてくれ」
「お望みなら脱ぐよ?」
「結構です」
「つれないなぁ。 はいあーん」
「・・・・」

そう、しない筈がなかった。辰巳は諦めてそれを受ける。少し熱いが味は普通だ。
二口目が来る前に蓮華と盆を奪う。

「何でー、全部食べさせたげるのに」
「自分で食える」
「ちぇ」

つまらなさそうに中西は口を尖らせた。
じっと辰巳の手元を見てくるので食べにくい。

「・・・おいしいぐらい言えないの?」
「おいしい」
「気持ちがこもってなーい!」

悔しそうに中西がベッドを叩く。
もともと辰巳は味にそう煩い方ではない。
辛い、甘いなんて味覚は持ち合わせているが、おいしい、不味いとなるとよくわからなかった。
よっぽど不味いならまだしも、おいしいというのは難しい。

「・・・まいっか、嬉しいから許したげる」
「・・・何がそんなに嬉しいんだ」
「だって、辰巳がまだココにいるじゃない?」
「・・・・」

直球ストレートな返球できない。
少し頬が熱くなったのは風邪の所為にしたかった。

夏休み、部活も休みに入り、辰巳は今日帰宅する予定だった。
しかしどこからかもらってきた風邪で、昨日の夜から具合が悪いと思えば今朝になって発熱した。
この世の終わりを思わせた中西の不機嫌が払拭されたのはいいが、辰巳は何とも複雑だ。

「ずっと風邪引いてればイイのに」
「バカ言うな。明日には治るだろ」
「えー、つまんないー」
「あのな・・・」
「・・・分かってるよ、辰巳んち遠いもんね」

言いながら不貞腐れた中西に少しはバツが悪くなり、辰巳は黙々とお粥を口に運ぶ。

「・・・ご馳走様」
「どういたしまして」

手際よく中西が薬と水を辰巳に渡す。

「俺だって早く良くなればいいとは思ってるよ、辰巳の体が大事だもんね」
「中西・・・」

 

 

「・・・ってな、俺は少し感動してたわけだ」
「あらそー、ありがとねぇ」
「なのにそれか?」
「これねぇ」

中西はにっこりと微笑む。
そうしても可笑しいことに変わりはないのだ、そのピンクのナース服。
エプロンが控えめだったのはこの為らしい。
桃色の天使は病人にのしかかり、からかうようにキスを落とした。

「何で?いいじゃん、スキでしょう」
「スキじゃないっ」
「キライじゃないでしょ?」

返事を待たなかったのは親切だ。
深く口付けた口腔は熱い。

「っ・・・寝たいんだけど」
「薬飲んだしね。大丈夫だって、眠気なんかぶっとんじゃうから。ついでに理性もぶっとばして?」
「バカ、どけって。うつるぞ」
「やぁよ。うつしたら治るってゆーじゃん?うつしてよ」
「やめろ」
「いいの、ちょーだい」

よくない、の言葉は中西に飲み込まれた。
連続するキスの合間にピンクがちらつく。曲線を感じさせない胸元は何とも思わないが、短いスカートから覗く腿は

(・・・って何考えてんだ俺!)

勿論抵抗も試みるが、如何せん体がだるい。自分の腕も重かった。
中西はいつものように綺麗に笑って、ゆっくりと服の釦に手を掛ける。耳にかけた髪がすぐに落ちた。
看護婦なら看護婦らしく病人を安静にさせて欲しいものだ。
晒された脇腹を手が滑る。髪が胸に落ちたかと思うと次は舌先が触れた。

「っつ・・・」
「座って?」
「・・・・」

もう追い出せない。頭が痛いのは中西の所為か風邪の所為かよく分からなかった。
辰巳が体を起こす間、中西も自分の胸元を緩める。

「何か、辰巳熱い」
「・・・そりゃな」
「変な感じ」

辰巳の両足の間に収まって、中西は体を屈めて辰巳の体にキスを続けて落とした。

 

 

 

情けないと思う。
だけどどうすることも出来なくて、辰巳はただシーツを握る。

「・・・ん」
「中西・・・っ」
「ぁ・・・やだよ、黙って。そんな声聞いたら俺の方が参っちゃう」
「ッ・・・」

その割には余裕に見えるが。
休憩と言わんばかりに中西が体を起こした。辰巳の脚にもたれて息を吐く。

「・・・何かいいなぁ」
「・・・何が」
「こんな辰巳、俺しか知らないっしょ?イイ顔」
「・・・・」
「その顔スキ」

中西は体を伸ばし、胸に手を突いて口付けた。
唇はすぐに離して視線を捕まえ、手は指先で下に降りて。

「・・・・」
「そーゆー我慢強いトコもね」
「・・・・」
「・・・続けよっか」

指先は体以上に熱を持った中心に降りる。
最後まで視線を残しながら中西はまた体を沈めた。それからはまたさっきのように。
時折中西から漏れる吐息のような声のようなものと、糸を引くような水音がするだけだ。
窓の外では車が走っているんだろうが、辰巳の耳には届かない。

「中・・・ッ」
「ン」

熱を持った自分の手も自分の物ではないような気がするが、他人の手はそれ以上に別物だ。
ただでさえ意志通りにならない上に、舌は非常にやっかいだ。
とは言え、それが中西限定なのかどうか辰巳は分からない。
熱の所為か辰巳あっけなく果てる。
不意をつかれた中西がむせながら離れた。しばらく続く咳に、急に恥ずかしくなってくる。

「・・・せめて一言ゆって」
「・・・・・・」

辰巳が薬を飲んだときの水を手にし、中西は一口嚥下する。
もう温くなってしまった水は、余り飲んだ気がしない。
コップを戻し、中西は辰巳の胸に手を当てた。

「早」
「・・・死んだらお前の所為だからな」
「腹上死?あ、この場合下かな」
「・・・っクソ」

中西を突き飛ばすとあっさりと後ろに倒れ込んだ。
辰巳が息を整えているのを、シャツの胸元を引っ張って引き寄せる。首に手を回し、中西は軽くキスをした。

「大丈夫?」
「ンなわけあるか」
「ん」

くすぐったさに中西が小さく声を立てる。手の平が腿を滑った。荒い呼吸は熱の所為かそれ以外か。
くしゃりと中西が笑った。

「俺が注射打たれてどうするんだろ」

がくり

力を失った辰巳の頭が胸に落ちてくる。
反応のない辰巳に、中西はその頭を抱きしめる。

「だって俺がナースじゃん?」
「・・・ナースコールもしてないのに来るな」
「来るよー、専属だもん」
「・・・・・・途中で吐いても知らないからな」
「辰巳のなら平気」
「撤回、前言撤回」

 

 

 

「フツーさぁー」

珍しくRPGをやりながら藤代が長く伸ばしながら言う。
笠井は隣で攻略本と画面を見比べながらそれを聞いた。

「中西先輩に風邪うつして治るって言うのがオチだよね」
「辰巳先輩悪化したもんねー」

クーラーを入れて締め切っているはずの部屋に三上の叫び声が聞こえてきた。藤代が少し音量を上げる。

「中西ッお前それ外に干すな!」
「えー、何でよ」
「たりめーだろうがッ寮の庭先にナース服干されてたまるか!」

「・・・あ、誠二今の部屋入った?」
「入ってなーい」
「ボスの部屋の鍵多分あそこだ」
「まじでー!?もうこのダンジョン2周ぐらいしたのに!」
「・・・やっぱ誠二向かないねRPG・・・」

 

一方三上の叫び声が聞こえた辰巳は風邪薬を飲むのを止め、胃薬を先に手にしたらしい。

 

 


夏休みネタで申し訳。ネタも痛い。ぷ。
ぶっと引きずってた癖に大したことない。

030930

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