教師だって生徒を好きになりますよ。ねぇわかる?デカい図体さらした辰巳くん。


夏 の せ い で


「…大丈夫?」
「大丈夫です」

すっと立ち上がった彼は無表情で手を払った。少し足首を回してみて、異常がないか確認している。にゅっと背が高い。俺より高い生徒なんて滅多に見ないのに。
いやぁ────見事な滑りでした。教師になって数年、階段から誰かが落ちると言うことなんかザラにあったけど、直接見るのは初めてだ。何段ぐらい滑って来たんだろう。残念ながら、見れたのは滑りの後半だけで。

「…怪我はない?」
「ないです」
「そう…」

本当なら俺が拾ってあげるのが筋なんだろうけど完全に転けっぷりに気を取られていて、彼が散らばった何冊かの本を拾うのを側で見ていた。それから失礼します、なんてきっちり挨拶をして残りの階段を降りていくので、思わず心配になって目で追った。

(…見覚えあるなぁ)

どの学年だろうか。人の顔を覚えるのが苦手だからはっきりわからないけど。彼が滑ってきた階段を見上げれば、さっと誰かが逃げていった。あぁ…思い出した。体育倉庫に閉じこめられたことがある彼だ。2年3組辰巳良平。英語の成績は、いまいち。

 

 

梅雨の時季の話だ。プール開きしていたがその日は水温が低く、体育が体育館でのバスケに変更されていた。その日の最後の授業で、終了時に教師が生徒に体育倉庫の鍵を閉めさせた。そこでベタに発生した行方不明者、じめっぽい体育倉庫にひとり閉じこめられていた辰巳くん。声も上げなかったらしい。

(……わぁ…英語スゴいや…)

成績を書き留めた閻魔帳をぱらぱらめくり、見つけた名前の数字は凄かった。あぁあいつ今日補習で来てたのか。夏休みに学校来てるなんて酔狂な奴だな、と思ったら。

「中西先生〜、コピー機見てくれません?」
「あ?ハァ」

冷房がかかっているから暇を潰していた職員室、気付けば残っているのはふたりだけ。今年入った国語教師、この子なんで来てんだろ。

「あ〜、紙詰まりか」

面倒なのに手を汚してガタガタと機械を手懐ける。さっさと帰ればよかった。ふと見れば彼女は側にいない。お茶どうですか〜って、コラ。

「…ちょっと見て」
「はい?」
「紙詰まりぐらい自分で直せるようにして。ひとりだったらどうするの。みんな暇じゃないときだってあるんだよ」
「あ…はい」
「はい終了!」
「あっ、ありがとうございます」
「お茶ありがと。……中嶋先生」
「はい?」
「俺は女性に興味ないんで諦めて下さいね」
「は────」

あぁビンゴ。ぽかんと口を開けた彼女に汚れた手を振って、洗ってきますと職員室を出た。
一番近いのは職員トイレ。何気なくぱーんと扉を開けたら辰巳くんがいた。

「……いい趣味ね」
「そう思いますか」
「流行るんじゃない?職員トイレで読書」

流し台に寄りかかっていた辰巳は俺が近づくと退いてくれた。温い水でインクをこする。

「辰巳くんさぁ、いじめられてるの?」
「……さぁ」
「ははっ、呑気だね。なんでこんなとこにいんの?」
「…帰りに会うと、鞄押しつけられるんで」
「ベタ〜!」

思わず笑うと彼もつられたように表情を緩めた。あらぁ可愛いじゃん、と思ったけど勿論口にしない。捕まるから。

「すっげぇ、何時代?」
「捨てて帰ったら怒るし」
「捨てたんだ!」

面白いねお前!残念ながら俺のコメントは喜ばれなかったようで黙殺された。
「…靴はなくなったりする?」
「たまに」
「あはっ…そんだけ立派な体で」
「……」

にやにや笑って見ていると訝しげに見られた。あ〜やばい、将来が凄く楽しみ。

「卒業するまで、それからも先生とお付き合いする気ない?」
「…何となく嫌です」
「そう言われても構っちゃうよ」

とりあえず今日は一緒に帰ろうか。嫌な顔をするのを引っ張ってトイレから出た。臭い仲ってのは案外続くもんよ、辰巳くん。

 

 


教師と生徒ってわりかし生徒→教師が多い気がするので逆らってみた。
中西オンリ用の没。もっとしっかり書き込めばよかったのかもしれないけど時間がなかった。

060611

 

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