「いやほんとにね、俺が水野の父親になろうと思ってたんだよね」
「あーそりゃ水野も嫌がりますね」
「…お前ストレートに失礼すぎて怒る気にもなれないよ」


身 内 自 慢


「なぁなぁ、水野のおかーさまめっちゃ美人ってマジ?」
「……誰に聞いた」
「中西先輩」
「…」

あぁもう。高校に上がってもこの話題はつきまとうらしい。
水野は無視を決め込んで、明日の小テストの勉強を再開した。なーなー、と笠井のベッドの上で暴れる藤代を笠井が睨む。笠井に漫画を貸しに来たはずの藤代はさっきから部屋に入り浸り、正直言って勉強の邪魔だ。

「なー、おねーさんも美人ってマジ?紹介してー」
「…その話は間違ってる。俺は一人っ子、いるのは伯母」
「おばさん?え、うちにいんの?売れ残り?」
「誠二…」

包み隠すなんて知らない藤代に笠井が呆れた。水野も苦笑するしかない、それは事実だ。

「えー、でも水野から考えたらかなり美人じゃね〜の?」
「顔ばっかりじゃないだろ」
「あ、性格悪いんだ」
「…」

彼女らの味方をする気もないが、それではいくらなんでもあんまりだ。見かねた笠井が藤代にクッションを投げつける。

「あーあ、いいな〜。美人で優しいんだろ〜。いいな〜」
「…俺がここで肯定したらマザコンじゃねーか」
「あ、別にいいんじゃん?俺らマザコン野郎の扱いならわかってるし。ね?」
「まぁね…」

笠井が苦々しく返し、水野と同じく小テストの勉強などしていたのを放棄した。藤代を振り返ってクッションを返してもらう。

「あの人あの顔でマザコンだもんな〜、かなり笑える」
「俺は笑えない」
「まぁタクはね」
「…誰だ?」
「…」

笠井は眉をひそめた。
まさかな。水野が思ったところに、藤代が多分予想通り、と言った。

 

 

 

「あ?母親敬えないで息子なんかやってられっかよ」
「…」

どの面下げてそんなセリフを。親不孝に育ったのではないかと思わせる男は、夕食をとりながら顔をしかめた。マザコン〜、と中西が冷やかしたところでびくともしない。誉め言葉であるかのような態度だ。

「水野一人っ子だっけ?」
「…まぁ」
「いいよな〜一人っ子。うちなんか争奪戦だぜ」
「…何を争奪ですか」
「おかんの隣」
「…」
「ガキかお前らって感じじゃない?恥ずかしいよね〜こいつんち」
「仲がいいと言え」

味噌汁をすすって三上は眉をひそめた。────三上。まさかこの男が。水野は疑いを持ちながらも否定要素が見つからない。また部員総出でからかわれているのではないだろうか、なんて頭をよぎる。

「そういや『運動会』、お母様いらっしゃるの?」
「結局来る。実家寄る用もあったからついでにって」
「『あきちゃんの運動会見に行っていい?』でしょ、この息子にしてあの親ありだね。水野も見ればわかるよ」
「はぁ…」
「えっ、多実子さんくんのッ!?」

食器を戻しに行く途中の近藤が口を挟んだ。三上がうっとおしそうに顔をしかめ、足を止めた近藤のトレイに中西は黙って自分の食器を重ねていく。

「まじで〜?俺頑張っちゃうよ?」
「うぜぇよ、お前は張り切るな!俺の多実子にちょっかい出すな!近寄るな!」
「なんだよケチー、いいじゃん」
「よくねぇよ、お前みたいな害虫」
「がっ…」

三上の発言に絶句する。近藤は三上と特に仲がいいように思っていたが、冗談にしてもこれはない。

「なんで俺長男じゃなかったのかな〜、そしたら一生多実子の面倒見るのに」
「俺を捨てて?」
「あ…」

三上の背後に現れて、笠井はにっこりと笑顔を向けた。そのまま三上の前に自分の食器を重ねていく。

「…笠井さんの面倒も見ますよ?」
「誰がそんな状況甘んじて受け入れますか。食器宜しく〜」

最後のトレイまで重ねて、笠井は中西に手を振って部屋へ戻っていく。視線が三上に集中した。お菓子をもらっていたずらするぞ、ってな視線。

「…なんだよ」
「言っとくけどお前が悪いからね」
「わかってるっつの」

食事を続ける三上に溜息を吐き、中西は呆れた表情で立ち上がった。その空いた席に近藤が座って、自分の持った食器を重ねようとする。

「何してんだテメーは!」
「笠井はありで俺はなしかよ!」
「たりめーだッ甘えてんじゃねぇぞ害虫」
「お前な…」
「何を群がってるんだお前ら」

トレイを持った辰巳が通りがかり、近藤はナイスタイミング、と食器を押し付ける。

「お前…しかもふたり分か。────水野は?」
「えっ?」
「持っていくぞ」
「あ、や、いいです…」
「もうひとり分ぐらい一緒だ」
「遠慮するなって」

近藤が水野のトレイを引き寄せる。お前は遠慮しろと三上が口を挟んだ。

「つかお前は早く飯を食え」
「お前らが邪魔すんだろうがッ」
「笠井のフォローしに行かなくていいの〜?」
「うっせぇ!」

飲み込むように残りをかき込み、三上は近藤にトレイを押し付けて行ってしまった。近藤はすかさずそれを辰巳に渡して逃げ出してしまう。

「……」
「…手伝います」
「すまん…」

流石に6人分は不安定だ。三上が残したふたり分を持って水野は立ち上がる。

「三上のはなぁ、慣れるしかないな」
「ハァ…マザコンって言うか、親思いなんですよね」
「だろうな。中1のときも一番ホームシック酷かったのはあいつだし」
「…ホームシックですか」
「水野はないか?」
「俺はむしろ家を出れて嬉しいです」
「そうか…俺も似たようなもんだったな。ご馳走様」

皿を洗う寮母に声をかける。水野もそれに続いて、部屋に帰るかと聞かれて頷いた。

「…あぁ、そう言えば水野の母親ってことは監督の奥さんか」
「…元、です」
「文化祭とかくるのか?」
「…くるなとは言ったけど来そうです」
「そうか…まぁ、覚悟しとけ」
「え…」
「恒例みたいなもんだから」
「…」
「うちの母親はハーレムみたいって喜んでたけど」
「…つか…ホストクラブっスか…?」
「中西辺りが率先して。でも中西は知ってるんだろ?」
「あいつは昔俺の父親になる気でした」
「……」

今は大丈夫だとよっぽど言ってやろうかと思ったが、三上と笠井のことさえ最近知った水野は自分と中西のことは知らないだろう。説明がしにくいので黙っておく。

「────因みにな、ハーレムの目的は」
「?」
「恥ずかしい過去を聞き出すためのものだから気を付けろ」
「…!」

やはり進路を誤ったのかもしれない。中学時代に関わらなかったことをせめてもの救いに思いながら部屋に帰った水野だったが、ドアを開けることも出来ない状況を察知して泣きたくなった。

 

 


水野いじめ…。

051006

 

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