g o   t o   o n e ' s   h e a d

酔 い が 回 る


─────何となく、気まずいのはどうしようもないことだ。
だってそうでしょう、喧嘩別れなんてベタなことをしてきたんだから。
もう年も変わった今日、寮を出てからもう数日。

「秀二?起きた?」
「・・・姉さん勝手に部屋入んないでくれる?」
「秀二ぼっちゃまが自慰行為にでも没頭なさってるなら遠慮するわ」
「うーんちょっと近かった」
「あらそう?もうすぐ初詣行くから起きてらっしゃい」
「うー・・・また行くのか・・・」
「毎年でしょ」
「ハイハイ、行きます。お年玉も回収しないといけないし」

きっちりと新しい服を着た少し年の離れた姉は、まるで母親のように倒れたゴミ箱を起こしてはゴミを捨て、部屋の窓を開けては空気を入れ換えと動き回る。

「寒い」
「どうせ外出るんだから」
「・・・あのさぁ、電話とか」
「ありません。何度聞くの?」
「かかってくるまで・・・」
「珍しいわね、秀二がそこまでご執着なのは。どんな上玉?」
「2号でも3号でも良いから傍にいたい」
「・・・相当ね」
「自分で掛けるの悔しいってのもあるけど。そんな男じゃないしね」
「ホントめずらしー」
「末期。あー駄目だ会いたい。つーか押し倒して色んなことしたい・・・」
「若いわねェ」

呆れたように姉さんは溜息を吐き、早く降りておいでよ!と残して部屋を出ていく。
窓から入る外気は冷気。取り敢えず一旦窓を閉め、着替えようとするが服が冷たい。
少し考えて電気毛布で暖まったベッドの中に服を押し込む。シャツに少しぐらいしわが寄ったってどうせジャケットで見えない。

「・・・あー・・・たつみーー」

姉さんと話をした所為で。
何で喧嘩したンだっけ?それはまた、例によって俺の所為だったと思うけど。
喧嘩の原因より喧嘩したという事実が問題。
しょうがないじゃないか好きなんだから。
俺は辰巳が思ってるほど大人じゃない(もしくは辰巳が思ってるほど子どもじゃないのかも知れないよ、辰巳が子どもなんだ)

殆ど毎年恒例行事、家族で向かう初詣。
別に親も家族水入らずも嫌いじゃないけど、一緒に年を開けたいとか思ってた俺は俺らしくない?
自分でも思うけどね。
・・・ハァ。どっしり溜息。
中途半端に温くなった服を着て、財布とジャケットを掴んで1階へ下りる。

「・・・あ、おはよう・・・おめでとう」
「お父さん明けましておめでとうございます。家にいらっしゃったんですね。お母さんは?」
「銀座」
「・・・お父さん、自分トコの愛人の挨拶ぐらい自分で行ったらどうですか」
「毎年自分で行くんだよ」
「お母さんも好きですねー」

まぁそれが母さんのやり方で、潔くて大好きだけど。
新しい着物でピシッと決めて、「ワタシが1番」を主張しに行く。浮気は文化だね。

「何か食べるか?」
「え、どうせ夜にまた宴会でしょ?」

毎年恒例その2。
初詣に行って、帰りに親戚知人を集めて夜に宴会をする。何が楽しいのか分からないが、いいものを食べられるのは確かだ。
ふと思い出して部屋に戻って携帯を探した。
枕元に置いたはずなのに見付からない。新年を迎えて横着した奴が年賀状代わりにメールで済ませているだろうと思ったけど。

「・・・まぁいっか」

どうせ辰巳は携帯を持ってないんだ。

 

 

 

「・・・・」

ここはどこだ。いつだ。頭が痛い。
外で鳥が鳴いてる。朝?傍にあった腕時計を除いてみると7時。なんて早起きな俺。
ここがベッドじゃなくて畳の上に敷かれた布団で、隣に明らかに未使用な布団が一組。床の間があって襖がある。
・・・誰の時計?高そうな嫌味な時計。見たことはある。
昨日どうしたんだっけ。
宴会して、酒飲まされて、酌もして、それから?

「・・・あ」

恐る恐る布団をめくってみた。
誰か。ついでに裸な俺。

「・・・久しぶりに酔った・・・」

しかも最悪の展開。酔いすぎだ。
一晩の音もが起きたらしく、こっちを見つけて巻き付いてきた。一瞬鳥肌。

「おはよー〜・・・」
「・・・あ、迫さんか」
「誰だと思った?」
「人だとは思った」

姉さんのご学友だ。ついでに昔は一緒に悪いことをしていた人でもある。
すっぱり縁切ったつもりだったのに、なんで姉さんこいつ宴会に呼ぶかな。

「ひどいなー一緒にいたのに」
「つーか俺相当酔ってなかった?なんも覚えてない」
「何それ、勿体ねー。思い出させてやろうか?」
「やだ」

あーもー最悪。
バレたら一生許して貰えないかも知れない。そうでなくても一方通行なのに。
ヤダというのに布団の中で手が体を這って、無理矢理そいつを布団から押し出す。
サッカー少年の脚力を舐めないで欲しい。ベッドじゃなかったのが残念だ。

「何すっ、」
「ねぇここどこ?」
「・・・かまくら」
「は?」
「鎌倉!」

いいくにつくろうの鎌倉?

「・・・何で」
「秀二くんが行きたいって言ったんじゃん!過ぎてるけど誕生日プレゼントにって!」
「・・・俺鎌倉って言った?」
「言った!」
「・・・迫さん」
「何だよ」
「お年玉ちょーだい?」

愛想笑いで喜んでくれる他人が大好きだよ。
辰巳は俺が笑っても喜んでくれはしないけどね。

 

 

覚えてる住所に出来るだけ近い駅まで行って(年賀状を書いた俺万歳)、電話帳で見つけた電話番号に掛けてみて(お父様の名前を知ってた俺万歳)。
正月なのに休みなしの電車に少し同情しながら待つ。
服が臭い。これ迫さんのコロンか?最悪だ。
着物のお姉さんを見つけた。綺麗。いいなぁお代官様ごっことか。辰巳相手じゃするのもされるのも嫌かも。

正月というのは区切りなんだろう。
気持ちを入れ替える時期だ。だけど俺は気持ちを入れ替えたって変わらない。
でも辰巳には区切られるかも知れない。今度こそ突き放されるかもしれない。
遠くに待ち人の姿を見つけて、人混みを横切って近付く。

「・・・あっ、なかに」
「たつみーーッ!!」
「いたっ」

嫌そうな顔ソウル人を無視して辰巳に抱きついた。
人混みで足を止めてしまうことは避けようと、辰巳は俺を引きずるように壁際に寄る。

「お前、何でいきなり」
「ごめん」
「は?」
「俺絶対辰巳がいい」
「・・・・・・」

あ、困ってる。
駄目だよ、来たお前が悪い。嫌ならこなけりゃいいんだから。

「・・・どうしたんだ」
「大好きって言いに来たの! じゃあね」
「あっ、待てって」

逃げようとしたら捕まえられて、何だか照れる。
うわぁ、すごい。辰巳が俺を捕まえてる、物理的に。

「・・・初詣でも行くか?」
「行くッ!!」

やばい。
姉さん今年は恐怖の大魔王が降ってきても可笑しくないよ、本気でヤバイよ俺。

「・・・お前、携帯は?」
「ん?」

一緒に歩きだしてから、辰巳は俺を見ないで口を開いた。
心持ち見上げるようにして辰巳を見る。

「知らない、どっか行った」
「・・・もしかしてメール見た?」
「ううん・・・メールって何!?何か送ったの!?」
「さっ探すな!帰っても携帯探すなよ!?」
「嘘っ、絶対探すし!何送ったの!?」
「何でもない!」
「ええ〜っ・・・辰巳携帯買ったの?」
「・・・親の」
「えー、辰巳も買おうよ」
「要らない」

うわー。
携帯気になってきた。。何処行ったんだろう、ベッドの下にも落ちてるのか。
頼むからデータだけはぶっ飛んでませんように!
年賀状にアドレス書いた俺万歳。

「・・・何の匂い?」
「え」

やば。
やっぱするかな。

「・・・・・・さぁ、何か匂う?」
「何か・・・」
「電車結構混んでたからね、誰かのコロンじゃない?」
「そんな感じだな」

・・・やばいなぁ。
なんかもうちょっと、疑ってくれれば言いやすいのに。そりゃ素直に言わない俺も悪いけど。

「そういや」
「ん?」
「おめでとう」
「・・・明けましておめでとうございます。今年も宜しくね?」
「したくない・・・」
「もう遅い」

手遅れよ。
今年はきっと良い年になる。
根拠もない確信をして、2度目の初詣に行った。

 

 

 


・・・・・・だめかな。
辰巳が鎌倉は個人的にいいかなとおもうんですが(鎌倉が関東だとつい最近知った)
中西はアウトですか・・・。因みに中西んちは東京。新年に旦那の愛人に挨拶回りをするお母さんは笑う大天使のパクりだったり。
タイトルには「夢中になる」なんて意味も。

 

 

 

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