背 中


シャワーのコックをひねるとさっき調節して丁度いい温さのお湯が降り注いだ。
昔からの癖でぎゅっとかたく目を瞑り泡を流していく。緩やかに背中を伝っていた泡にお湯が加わり早くなった。
泡も切れて、手の平に残った髪も流してシャワーを止める。
習慣的な動作でボトルを引き寄せ、笠井はポンプを叩いていた。

「・・・笠井」
「はい?」

笠井は隣が埋まっていたことにやっと気付いたような調子で顔を上げた。
呆れ顔でこっちを見ているのは水も滴るイイ男、もとい中西秀二。

「それ、シャンプー」
「・・・・」
「笠井今頭洗ったよね?」
「・・・あ」

手の平を見て笠井は呻く。
中西がそれを見て苦笑した。

「やっちゃったねー」
「だ、誰も見てないですよね」

笠井が辺りを見回すが、幸い周りには誰もいない。
寧ろ誰もいなくてふたりで並んでいるのが不自然だ。

「どうしようこれ」
「あ、俺の頭洗って」
「・・・俺が?」
「そう」
「・・・・」
「その代わり今の黙っててあげるからさ」
「・・・口封じにしちゃ高すぎませんか」
「何言ってんの、この俺を黙らせようってんだからこれぐらい安いもんよ」
「自分で言いますか」

笠井は観念して口封じさせてもらうことにした。
既に濡れていた中西の髪に、シャンプーを乗せた手を差し込む。

「うわ、人の頭洗うの緊張する、恥ずかしー」
「宜しくーv」

力加減が分からず笠井は悪戦苦闘する。
自分なら気にしないような泡も慎重に取って顔に流れなようにし、かつ爪を立てる癖が出ないように気をつけながらの行為だった。
ついでに近すぎる背中に触らないようにも気を付ける。
余り近寄りすぎるとなってはならない関係になってしまいそうだ(おまけに例え頭に泡がついてようと構わないだろうと思われた)。

「笠井、もちょっと下」
「あ、はい」
「ん、きもちー」
「誰かが聞いてたら面白いなと思って喋るのやめて下さいね」
「あらつまんないの」
「つまんなくていいの」

笠井の調子に中西が笑う。
少し上を向いた中西と目が合って、笠井は動揺を隠して唇を噛む。

「何かあった?」
「・・・何か俺、そのセリフ言われてばっかりだ」
「いいんじゃないのー?」
「・・・また、例によって大したことじゃないです」
「期末悪かったんだっけ」
「知ってるなら聞かないで下さいよ」
「ごめん」
「・・・・」

「・・・何か、部活も勉強も中途半端」
「てゆーか、笠井の場合は部活の調子が悪いから勉強もないがしろになってるんでしょう」
「う・・・」
「あんま気ィ張っちゃ駄目だよ」
「判ってますけど・・・泡流しますよ」
「はーい」

シャワーをとって軽く湯加減を見てから、慎重に泡を流していく。
笠井の腕を、水っぽい泡が伝って肘から床へ落ちた。中西はそれを横目に見る。
それから上の方を向いた中西は無意識的に目を瞑って、笠井は何となく緊張した。

「あのねー、笠井」
「な、なんですか」

目を瞑ったまま中西が喋る。
喉が反っている所為か、少し喋りにくそうだ。

「部活も勉強もだけど、中西先輩も最近ないがしろにされてません?」

「・・・しっ・・・してません、よ」
「えー、最近笠井冷たいもんー」
「だからー、あんまり調子よくないんですって」
「俺が慰めてあげるのに」
「遠慮します」

「・・・ていうか」

笠井がシャワーを止めて、水分を含んだ髪を中西は軽く絞る。
自分がやれと言った癖に、首が疲れたと文句を言った。

「中西先輩の所為で部活も勉強も手につかないんですけど」
「・・・そりゃ失敬。 髪も洗って貰ったことだし俺が笠井を洗ってあげようかな」
「もう髪洗いました」
「からだv」
「遠慮します」

背中を叩いてやると気持ちのいい音がした。

 

 


「背中」なんて渋沢で書きたいよ・・・
もしくは辰巳・・・(じゃあ辰中とかいっとけよ)

030724

 

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