夜 更 け
「ったー・・・クソッ」
俺が一体何をした!?
走りながら喋って舌を噛みそうになる。
ただ駅前にずらりと並べられたチャリ、規則的なようで不規則。
ずらーっと長く繋がるチャリ見てたら無性にチャリドミノがやりたくなっただけだ。
いや、俺は倒してない!「っ・・・アハハッきもちー!!」
「うっわ」バシンと背中を叩かれてつんのめった。
人は急に止まれません。微妙な体勢で数歩進んでやっと止まり、後ろを振り返ると暴行犯がしゃがみ込んで肩で息をしている。
暴行犯兼チャリドミノ犯。「すっごいね、あんな綺麗に倒れるもんなんだ」
「途中で引っかかりもしなかった・・・ってじゃねーよ、何で俺まで逃げてんだッ!?」
「あははそれは俺が引っ張ってきたから。お付き合いアリガトね」
「迷惑!そもそもあんた誰だよ」
「さぁ誰だろう。て言うか君誰よ」
「・・・・・・」ドッと脱力。
たまたま傍にあったバス停のベンチに腰を下ろす。
う、軋みが恐い。錆びすぎ。「・・・あ、いや何か見たことあるな。サッカーやってる?」
「・・・やってるけど、部活で」
「学校は?」
「明星」
「あー分かった気がする。明星ってあのでかいのが居るトコだよね。何だっけ」
「・・・鳴海?」
「あぁそんな感じ?わかんないや」笑いながら男は立ち上がる。
ズボンのポケットをぽんぽんと叩き、それから飴を出してきた。「あげる」
「・・・むっちゃ人肌だし」
「じゃあ今のうちに是非」
「食うかバカ」
「お前なんか可愛いなー三上みたいー」
「三上知ってんの?」
「もう身も心も許した仲よ」
「えっ嘘ッ!?待ってそれは有り得ない」
「何で?」
「え・・・それは」それは
それは俺がそうだから。「あぁ、いいよ分かった。これが三上の本命か」
・・・三上が言ったのかばれてるのか。
多分三上のことだから後者だろうけど。「まぁ身はともかく心ぐらいは許して貰えてる身分だと思うよ、俺は。一応チームメイトだからね」
「・・・チームメイト?じゃあお前武蔵森?」
「そう。知らない?中西って」
「・・・・・・あー・・・何か女子が中西がどうって騒いでた気はする」
「つまり殆ど記憶にないワケね」中西は別に気にした様子もなく笑った。
ポケットを探って、出てきた飴を少し見てからそれを食べる。「・・・禁煙中?」
「あらー分かる?もしかして経験者?」
「俺はやらない。姉さん」
「ふーん。ちょっとねー煙草吸う人は嫌いですって言い切られちゃって我慢してみようかなぁなんて」
「ふーん」
「・・・今日、暇?」
「別に、暇だけど」
「朝までお付き合いしてくんない?俺ひとりじゃ寂しくて死んじゃうから」
「死んどけバカ」
「冷たーい。三上にチクるよ」
「チャリドミノお前じゃん」
「じゃなくて、ポケットの」
「・・・・・・朝まで、何処で」
「うんなかなか賢いね、電池2本如きで三上にふられたらバカみたいだもんねー」くそ、こいつ。
会ったのは駅前じゃない?いつから?
中西の方を見るとにやりと笑うだけ。「・・・あ」
歩き出した中西が振り返った。
「名前は?」
「・・・設楽」
「タラちゃん」
「それやめろ、むかつく」又中西は笑う。
分かった。
こいつは笑う。ずっと笑う。
だから笑ってない。
「夏の夜は好きだな、涼しくて」
「・・・まぁね」鳴海のうちに泊まると電話を掛けてアリバイ作り。
中西が向かう先は多分松葉寮。「もーみんな実家帰っちゃっててさー、暇なんだよねー」
「もう門限過ぎてるんじゃないの?」
「やだなーそんなのが俺にあるわけないでしょ」
「・・・・・・」松葉寮の近くは人が少ない。
と言うか駅が遠いからというだけ何だけど。青少年の教育のためにもかどうかは知らないけどさ。
でも女子棟なんかは逆に変質者やら下着泥やらで大変らしい(と三上が言ってた)。「そういやこの間変質者出てさー」
「男子棟の方にも?」
「そう。1年のちっこいのが」
「ふーん、世紀末ー」
「俺等が言えた事じゃないでしょ」
「・・・ら?」
「男ばっかよ〜?」中西が振り返ってにやりと笑う。
男子校とか行かなくて良かったと何となく思った。麻痺しそう。
三上は好きだけど女の子は可愛い。「まぁ他の誰が居なくても良いんだけど、笠井帰っちゃったから寂しいんだよね」
「笠井?」
「分かる?」
「・・・・・・あの挙動不審の」
「それは根岸。ちょっと設楽系の奴」
「あ、分かった」
「人の顔覚える気ないでしょ」
「基本的に」もう「夕方」は通り過ぎていた。
街頭が道に影を落とす。星は見えるけど遠すぎてよく分からない。「・・・笠井かぁ」
「可愛いよ〜?」
「・・・あ、思い出してきた。三上が何か言ってたような」
「おいで」松葉寮の門から堂々と入り、中西は棟の横へ回っていく。
明かりの点いている窓があった。中西はそこをノックする。「ハロゥ?」
「・・・どちら様でしょう」窓を開けてからそれもない。
中から顔を覗かせたのは辰巳だ(流石にポジション同じだから覚えてる)。「入れて」
「お前の部屋窓の鍵開けてある」
「マジで〜?まぁ盗まれるモンなんかないけどさ」
「歯ブラシ見付かったのか?」
「あぁ、あれ何処行ったんだろうね。恐いよね〜。まぁいいや、設楽行こう」
「あ、うん」辰巳は俺に全く視線を送らず窓を閉める。
更に進み、てるてる坊主の掛けられた窓の下。中西が手を掛けると窓は簡単に開く。「・・・てるてる坊主・・・」
「俺じゃないよ、同室の奴の作品」どっこいしょと中西が窓をよじ登る。
中で靴を脱いだようで、しばらくしてから部屋の電気が点いた。「はいいらっしゃい」
中西にならって手を借りながら中に入る。
俺も部屋1階なら良かった。今度2階から降りるルートないか探してみよう。「さーて・・・って言ってもすることないんだけどねー」
「おい」
「・・・・・・あ、凄いの見せたげよう。三上の女装写真」
「えっ何それ!?」
「文化祭でねー、1年の時だけど」
「み、見るッ」道理で三上が文化祭の話をしないわけだ。
ちょっと今夜は、楽しくなるかもしれない。
「設楽ッ」
「中西先輩ッ!」強引に覚醒させられて何が起こったのか分からない。
やっとの事で焦点を合わせると何やら必死な顔をした三上がいた。「おいお前ッ、中西なんかと何やってんだよッ」
「ち、ちょっと待って三上、説明」「いい加減にして下さいよ中西先輩ッ」
「・・・お早う笠井」
「中西先輩のバカッ」
「え、あれ、お帰り??」
「起きて下さい」
「うん、ごめんちょっと待って・・・・・・は?何で笠井が」
「今は俺じゃなくて何で設楽がここに居るかって事です!ふたりで何やってたんですか!」
「何でバレて・・・・・・あっ辰巳!」
「まだ話は終わってませんッ」「・・・・・・ちょっと、こっち」
「うん」三上に連れられて廊下に出る。
合掌。
俺もう一生笠井を忘れないと思う。すげぇ、姉ちゃんが喧嘩してるときの電話みたい。「・・・お前何やってんの?」
「・・・何だろう」三上の溜息が聞こえた。
中西の部屋からは笠井の声が廊下にまで飛んでくる。マイクでも使ってんじゃないの?
ふと三上の方を見て昨日の写真を思い出した。「・・・ぷ」
「は?お前何笑って」
「な、何でもない」
「んなワケねェだろ、お前中西に何・・・あっ!?おい中西ッ」中西の方に行きかけた三上を掴まえる。
「あのね」
「・・・何」
「俺 三上のこと何も知らないんだね」
「・・・・・・」中西のノロケと三上の話。
それだけで夜更けを知らずに夜が明けた。「中西が知らなくて俺が知ってる事ってある?」
「・・・した「中西先輩ッ」中西が廊下を飛び出して走っていく。
かと思えばある部屋のドアを蹴破ってそこへ飛び込んだ。「ちょっとっ中西先輩!」
「笠井待ってよ先に辰巳と話し付けるから!」
「辰巳先輩!」
「ちょっ、辰巳、ちょっと待ってよー辰巳なんか笠井に弱み握られてる?卑怯だって、ちょっとっ!」「「・・・・・・」」
何となくあほらしくなってほうけてる三上の手を握った。
ハッと気付いた三上と目が合う。「ちょっと夜まで話しようか」
「話だけ?」
「それはどうだか」窓から逃走したらしい中西が三上の部屋に来るまでに話し合う間もなかったけど。
・・・・・・?
何か、普通に中設書こうとしてたんだけど、あれ?
ちょっと全体的に性格を変えてみた。笠井を書くのが楽しかったです(笑)
中西は笠井のことちゃんと好きだよ、逃げちゃうのは照れですv
ていうかテーマ無視しすぎだよ!(今気付いた)030724
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