黒 板


「それじゃあ学園祭実行委員委員長は中西に決定!」
「・・・・・・」

後からやってくる恐怖を今だけでも忘れようとして起こった盛大な拍手、それはドアを開けた瞬間のこと。
中西は黙って顔をしかめた。

「何の真似かな?生徒会長」
「正当な職権濫用だな」
「ほーう」

にこやかに笑う渋沢に対し、中西は絶対零度の表情で迎え撃つ。
笑顔すら、消えて。

「何考えてるのかな?」
「いつも行事ごとになると消えるみたいだからな」
「だから実行委員押しつけられてあげたんじゃない、何で委員長まで」
「信用がないんだろうな」
「言うね」

にこり。

「まぁいいか、引き受けてあげるけど」
「けど?」
「期待しないでねv」
「ああ期待しておくよ」



「ホントに大丈夫なんですか?」
「ん?」

会議室の窓を閉めながら、不安そうな役員の声に渋沢は笑った。

「中西のことか?」
「だって、あの中西先輩ですよ・・・ちゃんとやってくれるんですかね」
「それについては大丈夫だ、一石投じておいたから」
「はい?」




「クソ、あの年齢偽証・・・来週にテーマ回収で絞り込んで次の日に決定であと何だー?めんどくさ」

予定の書かれた藁半紙に目を通して、中西はうんざりして溜息を吐く。
学園祭実行委員にはなりゆきでなってしまっただけだった。もうひとりの委員に殆ど任せる気満々でいたというのに。

「なかにしせんぱい!」
「ん?」
「うわ」

中西が急に足を止め、その勢いで声の主がぶつかってきた。
ごめんなさい、と顔を上げたのは笠井。

「あら、部活は?」
「えー、ヒド。さっきまで一緒だったのに」
「え?」
「俺先輩が実行委員なんて全然知らなかった!一緒に仕事できるとか思ってなかったから凄い楽しみー!」
「・・・あれ、笠井実行委員なの?」
「そうですよ」
「・・・・・・はめられた・・・」
「はい?」
「何でも」

にっくきキャプテンの顔を思いながら、あの笑顔の裏の真相を知る。
言うだけでやって中西がやるとは勿論思ってなかったんだろう、思わぬ伏兵が潜んでいた。

「あのね先輩、俺書記やるんですよ」
「・・・・」
「じゃんけんで負けただけだったけど、良かったな。普通に委員やるより先輩と一緒に仕事できるもんね」
「・・・・」

へらっと笑う笠井に、中西はそれを思わず抱きしめる。
笠井が何か言ってくる前にすぐに放した。

「な、何ですか」
「笠井は学園祭楽しみ?」
「え?そりゃぁ。1年って模擬店とかも出来ないじゃないですか、2年からで。やっぱり去年つまんなかったし」
「ふーん、」
「・・・中西先輩一緒だから、もっと楽しみかも」

中西が軽く笠井の頬を叩いた。あいた、と反射的に笠井が声にする。

「な、何?」
「しょうがないから悔しいけど頑張ってあげることにする」

さっきまで考えていた色んな「考え」は取り敢えず保留と言うことになった。







「でもめんどくさい」
「はは・・・」

委員会の後の会議室で、中西は机に脚を乗せて反り返った。書記として残っている笠井が苦笑する。

「明日も頼むぞ実行委員長」
「明日生理痛で休む」
「・・・・・・」

中西と渋沢のやりとりを見ながら、笠井は素直に聞いてみた。

「中西先輩とキャプテンって仲良いんですか?」
「「・・・・・・」」

中西が露骨に嫌そうな顔をした。嫌そうと言うより思いっ切り嫌がっている。

「何処をどう見たらそう見えるの?」
「え、だって・・・」
「天地がひっくり返ってもこんな奴と仲良くする気はないよ」
「それはこっちのセリフだな」
「だって仲よさげじゃないですかー」
「敢えて言うなら俺は渋沢克朗を生んだ男?俺が居なきゃ渋沢はサッカーもキーパーもやってないしね」
「ていうかあれはイジメだっただろ」
「まっさかー」

中西は鼻で笑って脚を下ろした。渋沢を見上げる。

「遊んであげたんだよねvキーパーさせてあげたのも俺だしv」
「俺の方にボールが全く来ないか常にボールが向かって来るかのどっちかだったな」
「偶然でしょ」
「出来るようになるまでは帰るたびに親が引っ越しを考えてたけどな」
「簡単にキャッチしてたじゃない」
「そうならざるを得なかったというか」
「またまた、謙遜しちゃって」
「・・・・・・」

聞かなきゃ良かった。
笠井は後悔しながら黒板に書かれた決定事項をノートに急いで書き写した。
睨み合うふたりは飽きない。 ノートを写し終え、渋沢にそれを渡すとやっとふたりは治まった。

「じゃあ戸締まり頼む」
「はい」

笠井が会議室の鍵を渡された。
渋沢はもう一度中西をひと睨みし、何かを目で語って部屋を出ていく。

「中西先輩も戻って良いですよ、俺黒板消していきますから」
「んー、いいよ、待ってる。一緒帰ろ?」
「・・・う、うん」

少し頬を染めて笠井は頷き、中西に鍵を預けてブレザーを脱いだ。
笠井が黒板に向かい、手伝おうと思うが生憎黒板消しがひとつしかない。
渋沢も居ないので暇になった中西は何となく笠井の後ろ姿を見ていた。その視線を感じたのか、笠井が振り返って少し睨む。

「何ですか、」
「可愛いなあと思って」
「・・・・・・」

すぐそう言うことゆう、
何故か拗ねられてしまったので、中西は笑いながら立ち上がって笠井の後ろに立った。

「かーさい」
「・・・何ですか」
「いかがわしいことしていい?」
「いやです・・・」
「残念」

だけど中西の声はそう思ってないことがよく分かった。
鍵をポケットに落とし、笠井を黒板に寄せて逃げ道を塞いだ。腰に手を滑らせ、撫でるように体を引き寄せる。

「・・・せん、」

耳たぶの裏にキスが落ちる。しー、と無声音が続いて。

「何もしないから、ちょっとだけこうさせて」
「・・・・・・」

えーと。
中西の髪が首に掛かるのを感じながら、笠井は手が伸びる範囲だけ黒板を消した。
黒のセーターにチョークの粉が落ちる。ふと見ると中西のブレザーの袖もチョークで汚れていたのでそれを払った。

「あーもーめんどくさいな学園祭ー」
「先輩学園祭イヤですか?」
「んー、てゆーか笠井が目立つのがやだな」
「え?」
「実行委員の中だけでも2,3人は居るなー。笠井気を付けるんだよ、いつ拉致られるかわかんないからね」
「はぁ・・・?」

中西が手を緩めたのを感じて笠井は抜けだし、黒板を全部消してしまう。
それでも黒板消しが綺麗ではなかったため白い軌道残り、笠井はクリーナーに向かった。

「・・・笠井のクラス何やるか考えてる?」
「まだ分かんないですけど、やっぱり模擬店って言ってる人結構居ますよ。こんな機会でもないと女の子こないしとかって」

特定の誰かだったんだろう、笠井はくすくす笑いながら再び黒板を消し始めた。
やっぱりその後ろ姿を見ながら中西は待つ。

(女の子ねー・・・)

そう、きっとこの閉鎖的な状況が悪いのだ。
近くに女の子が居るのに会えないと言うもどかしさが男共を焦らせる。
・・・それで、可愛く見える。

(居るんだよなー、勘違い恋愛しちゃってるアホ共が・・・)

中西は笠井の隣に立ってチョークを手に取った。
赤いチョークで、慎重にハートを描いてみる。

「あっ折角消したのに!」
「あのさー知ってる?濡れたチョークで描くとどうなるか」
「・・・知りませんけど」
「消えないんだよー。消えないって言うか、消えにくいって言うのかな」
「ふーん・・・」
「小5の時かなー、教室のチョーク全部水につけてやったんだよねー。渋沢にチクられてばれたけど」
「・・・・・・」

笠井は黙って中西の描いたハートを消した。そのまま無言で袖の粉を払い、ブレザーを着る。
チョークを白に持ち直し、中西は今度は丸を描く。それは綺麗に円を描いた。

「俺さマル描くのすごい練習したんだよね」
「何でですか?」
「んー、やっぱり小学校の時にね。フリーハンドでマルが綺麗に描ける人は頭がいい、とかいう話があったから。これが渋沢がまた上手いんだよね」
「・・・すぐキャプテンの話する」
「・・・何?妬いてんの?」

にやりと笑い、中西は笠井に近付いた。
別に、と俯くその顔は拗ねているようにしか見えない。

「かーわいい」
「可愛くない」
「俺は渋沢なんかにキスとかしないよ、生まれ変わったってごめんだね」
「・・・・・・」
「今何考えたか言ってみなさい」
「ごめんなさい許して下さい」
「だめー、こっちおいで」

ふざけた口調で中西は笠井の手を引いた。
笠井を黒板の傍に立たせて、腕をチョーク受けについて捕まえる。

「・・・先輩」
「学園祭楽しみ?」
「・・・どういう、意味ですか」
「笠井の頑張り次第って意味かな」

そうして学園祭実行委員長はにっこりと笑うのだ。





「あっ・・・先輩、」
「ん?」
「こ、黒板ひっかいた・・・」
「ああ・・・」

我慢我慢。
中西の声に笠井は心底怯えた。

「笠井はこの音駄目な人?」
「だ、駄目・・・」
「俺は平気なんだけどなぁ」

中西が黒板に爪を立て、その手をゆっくり下ろす。
耳を塞いで笠井がそこから離れた。ついでに乱れた服も直してみる。

「あー」
「あーじゃないっ、帰りますよ!」
「つまんないの」
「つまんなくないの!」
「ハイハイ。部屋帰ってから続きね?」
「・・・夜になったら」
「ハイハイ」

ポケットから鍵を出しながら中西は廊下に出て、笠井が出るのを待って鍵を閉める。
笠井は持っていたが中西は荷物が教室にあるのを思い出し、笠井に鍵を預けて昇降口で待ち合わせた。

「・・・さて」

会議室の隣の教室、そこは3年のあるクラスの教室だ。よって鍵は掛かっていない。
そこのドアを開けて、目が合う。

「そう言うことなので以後宜しく」

帰った筈の実行委員に中西は微笑んだ。



黒板に手形を残したことに、笠井は次の日まで気付かなかった。

 

 


ていうかぶっちゃけ中笠と言うよりも中西+渋沢が書きたかっただけでしたー。
三笠の渋沢なんかどうでもいい人なので中笠にしてみた。
幼なじみとか。一応親友というポジション的に考えて。
きもい!

例によって今回もテーマが強引だということがよく分かる。
黒板の音は平気だった友達が居た。心底理解できませんでしたが。

031206

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送