使 い 捨 て カ メ ラ


「お土産は?」
「・・・ありません」

何となく分かっていたことだった。
ひとり部屋の筈の部屋に、やっと帰り着けば侵入者。

「みんなで買った奴なら談話室で開けてますよ」
「えー、個人的にはぁ?」
「ありません」
「え〜つれな〜い。2泊3日も我慢したのに」
「何を」
「辰巳良平君を」

知るか。
疲れた体に追い打ちをかけられたような気になって、辰巳は乱暴に荷物を落とした。
修学旅行、2泊3日。
余り得意でない団体行動は寮生活で慣れたつもりだったが、しっかり組まれたタイムテーブルはそれなりに辛いものがあった。
みんな状況は同じだが、何だか人1倍疲れた気がする。
それはただ単に旅行疲れなのか、この出迎えの所為なのか。
ベッドの上に横になって、俯せの状態で辰巳を見て笑う。

「お疲れねェ」
「まぁ、遠かったし」
「沖縄遠いってかー。何?修学旅行でディズニーランドでも行く?」
「それは余計に疲れそう」
「ごもっとも」

中西は相変わらずくすくす笑ってベッドの上を転がった。
何でこの人がここに居るのか、と言うのは既に愚問だ。

「つれないなぁ、寂しかったのに」
「はいはい」
「いいなー、君ら明日午後からかぁ」
「朝練頑張って下さいねー」

殆ど棒読みで鞄を開ける。
溜め込んだ洗濯物を1カ所にまとめ、ゴミなんかを捨てたりする。
何となく手にしたパンフレットはベッドの上の中西に奪われた。

「沖縄ねー、行ったトコ俺らと一緒かな」
「多分。風呂まだ開いてますよね」
「うん。行ってらっしゃーい」
「ここで寝ないで下さいよ」
「おやすみ」

待ってましたとばかりに中西は布団を引っ張り上げて丸くなる。
辰巳は諦めて溜息ひとつ残して部屋を出ていった。
パタンとドアが閉まったのと同時に中西が顔を上げる。何となく目を向けた鞄の底に、カメラがあった。
修学旅行の必需品、使い捨てカメラ、だが。辰巳が持っていくとは少し意外だった。
残り枚数を見てみると、やはりまだ7、8枚残っていた。

何を見てきたんだろう。
行き先は自分と同じだ、回った場所も殆ど変わらないだろう。
それでもあの後輩は視界が違う。高さではなく、角度が違った。
この中に辰巳が見たものが入ってるんだろうかと考えると少し変な気がした。カメラを構える後輩の姿が思い浮かばない。

「・・・カッコ悪」

カメラをベッドの枕元に落とし、自分の頭もシーツに沈めた。






「・・・・・・」

寝息、だ。
ホントに寝ている。
珍しい光景に辰巳はじっとベッドを見下ろした。濡れた髪から滴が落ちそうになり、慌ててタオルでそれを拭う。
ベッドの上のカメラに気付き、それを取ろうとすると手を捕まれた。

「・・・なワケないですよね」
「何で?初めの方本気で寝てたよ」

お約束のくすくすという笑い声を聞きながら辰巳は眉を寄せた。
何処まで本気か分からない。

「さてさて、風呂も入ってスッキリでしょう」
「え?」
「まぁ疲れてるだろうから俺が頑張ってあげるよ」
「何・・・」

抗えるわけがないのはいつものことで、結局いつもと同じ展開になるのは少し特別な行事の後でも同じことだった。






くじはん、
辰巳は時計から目を離して隣を見る。
午前9時半だ。
今度こそ本格的に先輩は眠っており、少し揺さぶってみるが起きる気配はない。
修学旅行の次の日、登校は午後からだったが中西は普通に授業があるはずだ。

「・・・・・・」

三上辺りに文句を言われそうだった。胃が軋む。
まだ頭に残るだるさで安定感がない。俯せになって軽く伸びをする。
ふと手を伸ばした先にカメラがあるのに気が付いてそれを引き寄せた。
何となく持って行っただけのカメラだったが、その割には結構撮ったと思う。
丁度よく手に収まるサイズのカメラを構え、顔を向けたのは隣。
四角い視界に中西が収まる。

「・・・・・・」




「ん・・・おはよー・・・」
「・・・お早う御座います」

そのうち自然に目が覚めた中西は辰巳を見て笑う。
この、確信犯。

「何時?」
「・・・もうすぐ10時です」
「あら、まじで?」

別に焦った風もなく中西は笑って布団に伏せた。
時々ホントに年上なんだろうかと思う。
それは性格や思想からも思うが、ふっと見せる笑顔が幼い。

「先輩は」

時々先輩と呼ぶことすらはばかられる。
弟や、そう言う位置の人を相手にしている気分なのに(弟は居ないので気分だけだが)。

「いつも何がそんなに楽しいんですか」
「楽しそうかな」
「だって笑ってるから」

そういうとまた笑い出す。

「楽しいって言うか、嬉しいんだよ俺」
「は?」
「誰かひとりを独占する機会なんて今までそうそうなかったんだから」
「はぁ・・・・・・は?」

言葉の意味を考えて、疑問。
「誰かひとり」が自分だと分かるのに少し時間がかかった。
中西はその間も承知でにやりと笑う。

「今更学校行く気分でもないしね」

中西は半身を起こした。
起きるのかとかと思いきや辰巳の上にのしかかってくる。

「重、先輩見えるから」
「何を今更」

手の中のカメラが奪われる。
あ、と思うまもなく中西がカメラを見て、やっぱり笑う。

「何撮ったの?」
「・・・さぁ、寝てる間に触っちゃったんじゃないですか」
「ふぅん」

精一杯の意地を張る。
カメラを構え、きっと同じものを見ていないと思ったことは秘密だ。
この人とは視点が違う。
自信を持って中西を認めている部分はそこだ。

「ネガが楽しみだね」

しまったと思わず顔に出た表情を見て中西は笑ったに違いなかった。

 

 


とししたぜめ?(自称)
駄目だった。書けなかった。
違う、違うんだ・・・(何が)

030724

 

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