秒 針


カチリと動く秒針を睨んでみてもしょうがないとは分かっているけど一緒に居れる残り時間は刻一刻と確実に大気に融けていく




「・・・・」
「・・・何よその顔」
「何よその頭」
「決心の表れ」
「俺という男がいて失恋の筈ないものねぇ」
「頭の中身も相変わらずみたい」
「お互いね」

互いに効かない精神攻撃を試みても意味はない。
先に折れたのは中西で、傍へ寄って彼女の毛先に手を伸ばす。長く綺麗に伸びていた髪はばっさりと切られ、肩の辺りに揃えられた髪は鋏の軌道が見えそうなほど大雑把だ。

「誰がやったの」
「担任の先生。夕子ちゃん不器用だから」
「なんだ、有希が自分でやったんならまだ諦めついたのに。あの長いの切るの快感だっただろうなーやりたかったー」
「・・・・」
「揃えたげるから中入んな」

そこまで言われて有希はやっと思い出す。
ここは武蔵森サッカー部寮。愉快とは言えない興味津々の視線まで思い出してしまった。

「・・・いいの?」
「俺が許すからいいよ」
「・・・変わんないなぁ」
「性格なんて早々変わんないよ」
「そうね」

手を引くようにして中西は有希を中にいれた。

「汚いところですが」
「いえいえ」

有希は笑って中西に続く。
連れていかれたのは彼の部屋ではなく、個人の部屋より一回り広い談話室。

「待ってて」
「えっ、待ってよ」
「・・・ワンモア」
「・・・行ってきて下さい」
「ふふ、大丈夫だよ。周りの雑魚なんかが有希に話し掛けることすら出来る筈がないからねv」
「・・・・」

有希に椅子を差し出して中西はそこを出ていった。少しの間その背中を見送り、有希は椅子に腰掛ける。
やっぱり失敗だったのかもしれない、吐きたくない溜息が漏れた。
どんな場所で生活してるのか見てやろうなんて欲張らず、向こうから来てもらえばよかった。今更出てくる案は役に立たない。

思考が止まると秒針の音が聞こえた。
寮生達は有希に声を取られたかのように黙り込んでいるため、かすかなそれもよく聞こえる。
壁に掛かった時計はイメージとは違い新しい雰囲気のデザイン。
本当に針のように刺せそうな秒針が正確に時計盤を走る。

「お待たー」

タオルで我慢してね、と中西が手にしたそれを広げながら戻ってきた。
椅子に座った有希は背筋を伸ばし、中西が後に回ってタオルを首に回す。

「はい鏡ねー」
「はーい」

大きめの鏡を渡されて自分を映す。髪に触れる中西の手を鏡越しに見た。

「長さは変えない方がいい?」
「うん」
「短くすると小学生のときみたいだね、男の子に間違われたり」
「あ・・・あれはサッカーに混ざってる女子あたしだけだったからでしょ!」
「あらそうだっけ。有希しか見てなかったから他のメンバー覚えてないや」
「・・・・」
「切るね」

細身の鋏が鏡に見えた。毛先が落ちる。

「・・・すぐ調子いいこと言う」
「だって有希が一番巧かったからね」
「・・・・」

やられた。
鏡を睨むと中西が笑う。

「俺が抜けなかったの有希だけだったもん」
「そうだっけ?逆だった気がする〜。どっちにしろ今はもう無理」
「そりゃそうよ」
「・・・・」

その一言で思い知る差。この2年自分がしてきたことを思い返す。

「だって俺は有希を見てたいんだから、ボールなんて見てらんないし」
「・・・何それ」
「告白?」

中西が笑う。
操るように自分の髪を整える中西の表情は鏡に映らないので見えなかった。

「・・・巧くなった?」
「勿論」
「そうよね、もう3年だもんね」
「有希は?」
「あたしは・・・分かんない。でもこの間やっと進歩できた」
「そう」
「サッカー部の中に女子部を作るの。あたしがいる間はまともに試合が出来るようになるか分かんないけど 」
「楽しみだね」
「・・・うん」

それからあとは鋏の音と秒針の音。

 

 


中有希。ビバ。
幼なじみ設定で書いてみた。

031108

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送