夢 の 世 界


「・・・・・・」
「・・・・・・」

部屋に来るな。
ぼそりと呟かれたそれは本気だ。







「・・・中西先輩?」
「う・・・あ、笠井・・・?」
「どうしたんですかこんなところで」
「うー・・・」

ソファから起き上がって中西は軽く首を振る。
中途半端にねじれた格好で寝ていた所為か、体に違和感を感じる。
顔を上げると笠井が困った顔でこっちを見下ろしていた。それもそうだろう、中西が談話室でうたた寝など今までになかった光景だ。

「んー・・・最近夢見悪くて、夜あんま寝てないからかなぁ」
「先輩夢見る人?」
「見る人ー。結構しょっちゅうね。今も変なの見たし」
「どんな?」
「根岸と手をつないだら根岸の腕が取れた」
「うっわ・・・」

この辺から、と中西が自分の肘の内側と叩いてみせる。
恐らくは最近読んだ漫画の所為だとは思うが、何だか色々なことが混ざっている気がした。

「強烈ですね・・・」
「ホントに。この間は三上が先生やっててさー、保健教えてんだよねー。あれは起きたとき現実と夢の区別が付かなくて」
「・・・・」
「あとうちのクラスにあややが転校してきたり、寮母さんが凄いボディビルなおっさんになってたり、あと桐原監督に賄賂として水野のブロマイドを渡してる夢は最悪だった」
「・・・それは嫌な夢ですね」
「渋沢が吸血鬼で、俺に襲いかかってきたんだけど何だ男かよ、とかいってどっかいっちゃったりー、部活行ったらボールがアフロだったりー、あ、笠井がネコ耳で迫ってきたのはなかなか良い夢でした」
「な、何ですかそれ!」
「あれは惜しかったなー、うん」
「惜しくないです!」
「あと藤代がシンクロやってたな。イルカと泳いでたらサメに襲われて食われかかったり、あとほうきに乗って空飛んでたらカラスに襲われた」
「・・・・」

あとー、とまだまだストックのあるらしい中西をもういいですと止める。

「それどの辺までが夢ですか?」
「それは俺が聞きたい。残念ながら全部夢なんだ」
「えー」
「俺何かに取り憑かれてんのかしら?」
「中西先輩になんて怖くて誰も近付けてませんよ」
「あっはっは言うねー、やっぱ俺だし?」
「中西先輩だし?」
「何馬鹿な会話してんだそこ」

三上が呆れ顔で口を挟んできた。
ただ歯ブラシをくわえているのは余りいただけない。歯を磨いている間じっとしていられない人種らしい。

「あー、三上が女装した夢も見たよ。セーラー服でテニスをしてたの」
「おい」
「三上と笠井がナニしてる夢も見たんだけど」
「待てコラ」
「なんと逆だったんだよね」
「「・・・・・・」」
「あー参ったなーこりゃ」

やれやれ、と他人事のように呟いて中西は立ち上がる。

「でも一番きつかったのはあれかな」
「何?」
「辰巳が死んだ夢。どんなんだったか全然覚えてないけどただ辰巳が死んだ夢だった」

俺も歯磨こう、と中西は談話室を出る。笠井と三上もそれと一緒に洗面所へ行った。
それは昨日の夢だ。 夢見が悪いとは言っても現実的にリアルな、悪夢と言えるのはそれしかない。

「夢になんか殆ど出てこないくせしてさ、こんなんだけ」
「・・・でも夢で死んだら長生きするって言いますよ?」
「・・・そうなの?」
「まぁ迷信でしょうけど。ホントだったら三上先輩相当長生きしますよー」
「・・・ちょっとまて、どういう意味だそれ!」
「唾飛んだ!」
「・・・・・・」

ふうむ、と中西は少し考え込む。
歯ブラシを手にしたまま、難しいことのようにじっくりと考えた。
笠井が逃げていったのを睨みながら三上は口を濯ぐ。

歯ブラシをくわえることなく、中西はシャーペンなどを回す要領でそれを回す。
それからふと気が付いて、歯を磨き始めた。殆ど無意識に磨いているので丁寧とは言い難い。

「・・・責任取って貰おうかな」






コンコンコンコン、と4回。
日本人らしかぬノックをして中西はドアの前で待つ。
プレートに掛かった名前は辰巳。ひとり部屋だ。

「はい?・・・・・・」

油断していたんだろう、ドアを開けた本人は一瞬しまったと言わんばかりの表情をした。
ここ数日訪れなかった部屋だ。

「や、辰巳。何か久しぶり」
「・・・何の用だ」
「俺この間お前が死んだ夢を見たよ」
「・・・・・・」
「夢見最悪なんだ」
「・・・それで?」
「他に面白可笑しい夢は沢山見るんだけどね、辰巳が出てきた夢はそれっきり」
「・・・それで」
「本人と一緒に寝たら辰巳の夢が見れるかなと思って」
「・・・・・・」
「一緒寝ていい?」

辰巳は片手に持っていた本を閉じた。
ちゃんと話をしてくれる姿勢にはなった。そのことだけでも十分だと中西は思う。

「まだ許してない」
「何で怒ってたんだっけ」
「・・・・・・」
「俺は何に怒ってたか忘れた。でもホントは辰巳が悪くなかったことは知ってる。だから謝る」
「・・・お前に謝られるのなんか怖いだけだ」

辰巳は溜息を吐いてドアを開けた。
顔を上げた中西と本で距離を作る。

「床」
「・・・・・・それいじめ?」
「狭いんだ。暑いし」
「・・・じゃあいいよ。布団持ってくるから。その代わり当分布団運ばないからね」
「・・・・・・」
「だって冬の布団重いじゃん」
「・・・お前謝る気ないだろう」
「好きだよ?」

くすくすと笑って見せて。
無理矢理部屋に押し入って、中西は静かにドアを閉めた。








「・・・なかにし!」
「・・・・・・うー・・・おやよー」
「舌回ってないぞ」

呆れて体を起こした辰巳が既に着替えているのを見て、中西は何となくにやりと笑う。
同室の根岸は自分が起きてからすぐに中西を起こす。

「・・・・・・夢見は?」
「・・・あー・・・うん、見なかった」
「熟睡すると夢見ないらしいぞ」
「・・・・・・ふぅん・・・」

中西は体を起こし、頭をかきながらベッドの上に座り込む。
鞄の中に習慣のように鞄の中に文庫本を入れていた。

「・・・今度から辰巳と寝よう」
「は?」
「俺お前とじゃないと熟睡できないっぽい」
「・・・・」
「あー俺服持ってきてないや。めんどくさ」

中西が後でねー、と言い残して部屋を出ていく。
寒い、とかなんとか文句が聞こえて。

「・・・・・・は?」

 

 


逃げてみた。
あー、何かね、パラレルで書こうと思ってた気がするんだけどね。

031112

 

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