い つ も 通 り


「中西!」
「何?騒がしい」

慌ただしく部屋に飛びこんできた三上に中西は顔をひそめた。今は不在とはいえここは王室だ。
中西がたしなめようとするのも遮って三上は靴音高らかに部屋に切り込んでくる。流石に中西も異常を察し声を落とした。

「どうした?」
「王が堀に落ちた」
「・・・三上が来るってことはいつものこと、じゃないのね」
「堀だぞ、あいつはひとりで近付かない」
「三上」
「・・・王は利発な方です、自ら危険に近付くような真似はなさりません」
「ちょっと大袈裟。怪我は?」
「腕と足に擦過傷」
「そう・・・取り敢えずそっちに行くよ」

中西は書きかけの書類を机の引き出しにしまって立ち上がった。
引きだしに鍵をかけて部屋を出るのに三上が続く。

先代の王が亡くなってから3年、今王位についているのは彼に王がつとまるのかと国中を不安がらせた人物だ。歩けばぶつかる池には落ちる判は逆さまに押す。
それでも彼が王位に着いてから少しずつ情勢が変わっているのはひとえに優秀なおつきがいるからに他ならない。
本来なら相手にもされないような王が狙われるようになったのも、彼―──中西が原因であろう。
他国は中西の功績を王が成したものだと思っている。そして他国が怯える急成長に刺客が送り込まれるのだ。

二人は王の個室へ足を進めた。緊急事態故ノックもせずそこを開ける。

「笠井は居る?」
「あっ・・・申し訳ありません自分の所為です!」
「いいんだ笠井は悪くないよ、いつまでも子どもみたいな王が悪い。彼は?」
「あ、濡れたのでお湯に」
「分かった。三上、怪しい奴を見かけたら教えて、話を聞くから死なれないように」
「は、」
「笠井も加わって、抜け道なら兵士より詳しいだろ。王は俺が見るから」
「はいッ」

中西は二人が部屋を出るのを見届けてから奥へ向かう。
王専用の浴場に控えていた女を全て下がらせて中へ。
王が壊してしまうので彫刻の類は一切ないが目を見張る値段の石が使われた浴室で王が鼻歌を歌っている。呑気なものだ。

「靖人様」
「あーゴメンねぇ、油断しちゃった」
「いいえ、命あってのこと。ご無事で何よりです」
「無事じゃないよー擦り傷風呂入るとしみるんだ」
「自業自得です」
「周りに人が多かったからとばっちり食らったら可哀想だから離れたけど」
「特徴なんかは」
「あー、見たことある紋章つけてたから2度目かな。騎士のマーク」
「・・・前の刺客がまだうちの地下にいますね」
「まだ居るんだ、ヘナチョコだったくせに凄い忠誠心」
「うまく使われてますね。それはさておき、」
「・・・・」

話を変えるということだ。
王は緊張し、湯の中で正座する。中西はにっこりと彼に笑いかけ、

「歯ぁ食い縛って下さいます?」
「い・・・嫌です・・・」
「・・・お願いだから、人のことより先に自分を守って。今回は軽傷で済んだけどいつ大怪我するかわからない」
「あ、堀に落ちたの俺の不注意」
「・・・・」
「あと、刺客の方も堀に叩き落としちゃった」
「ッ・・・それを早く言ってッそのままだったら溺死逃げられてたら恥!」
「だって笠井は謝るばっかで話聞かないし三上はそっち行っちゃうし他のは俺と口利かないし」
「〜〜〜〜・・・ちゃんと温まってから出ておいでよ!」

怒っていいやら嘆いていいやら分からず、中西は取り敢えず声を荒げて部屋を飛びだした。
控えていた女に王のことを頼むのは忘れない。

 

「三上どこか知らないッ!?」
「隊長なら地下の方へ」
「使えない!笠井一緒に掘まで来て。王と一緒に落ちたみたいだ」
「あっ、ハイッ」

言いながらどんどん先へ行ってしまう中西を笠井は慌てて追いかけた。
笠井は元々は送り込まれた刺客だった。しかし気の進まない仕事だった上失敗し、そのくせ人の良い王に気に入られ今は世話係になっている。
何処まで信用できるものか分かりかねるが、中西の直感では裏切らないと思っている。心配なのは他にいた。

城の周りを大きく囲う堀はとにかく深い。何故か鯉が泳いでいるのは王の趣味だ。
笠井は堀の向こうにそびえる塀を見上げ、王は相当運のいい人なのだろうと改めて実感せざるを得なかった。下が水だったとは言え、高い。
中西が兵士に堀をさらわせているが恐らく無駄だろう。中西も念のための行動だ。

「・・・中西さま、」
「駄目だね、死体でも出てくればよかったんだけど。あんなへなちょこを逃がしたなんて名折れだ・・・」
「へなちょこ・・・」

因みに笠井もへなちょこの一人なので複雑だ。
連絡をしたはずなのに三上がまだ現れない。中西は城門を見て考える。

「・・・やられたかな」
「中西さま?」
「笠井は念のため街の方に行ってくれるかな、・・・多分城の中にいるけど」
「えっ、しかし王は一緒に落ちたとおっしゃったのでしょう?この堀に落ちては自力で上がってくるのも大変じゃ・・・」
「初めっから落ちる気だったんじゃない? いざというときの為に一ヶ所だけ水中から中に入れる場所があるんだ」
「・・・じゃあ」
「中に共犯が居る。それでも推測でしかないから、笠井は街の方」
「・・・はい」

辺りの兵士に目立つ武装を解かせ、目立たないように笠井を街へ向かわせて中西は城の中へ駆け戻った。
デスクワークが基本なのに、とぼやく。目指すのは王のプライベートルームではなく、執務室。

「中西!」
「・・・三上遅い」
「どうした?」

地下から上がってきた三上と合流して階段を駆け上がる。騒がしさに使用人が異変を感じざわめいているが構っていられない。
中西が部屋に飛び込むとそこには荒らされた様子はない。

「・・・敵は王が狙いじゃないのか?ここには」
「そうでもないよ、ねえ三上?」
「・・・・」

大きく息を吐いて中西は振り返る。
何のことだか、なんて表情をしながら三上がドアを閉めた。・・・鍵を掛け、笑う。

「いつからばれてた?」
「結構前。初めの1年は気付かなかったけどね、大した演技力だよ。刺客じゃなくて劇団やれば?」
「金回りいい仕事なんでね、あっちからもこっちからも金入るんだぜ?」
「何がしたい?殺そうと思えばいつだってやれたんじゃない?」
「あぁ・・・でもアンタは全然気ィぬかねェだろ?」

ふん、
中西が笑う。

「やっぱり内側入ってこられると弱いなぁ」
「要強化だな」

すっと三上が抜くのはこの城の兵士だけが持つ、最高級の刀身の刀。
ぽっと出てきた兵士は素人には見えなかった。必然的にどんどん階段を上り護衛隊長の位置にいる。それからずっと傍にいた。
情も沸かなかったのか。中西は笑うことしかできない。

「アンタが居なくなれば王なんか能なしだもんな、前以上に国は衰える」
「だから外にはばれないようにね」
「中に入れば簡単なからくりなのにな」
「昼間の奴は何?」
「あぁ、そろそろやれっつーお願いだね。身ィ張ってご苦労様って感じ」

刀身が光って中西は目を細めた。
まいったなぁ、予想外。

(予想外に隙ないなぁ)

もう少し躊躇いを期待したが。それだけプロと言うことなのだろう。
情が移っていたのは自分の方か。つくづく甘いなぁと思う。

「・・・あー・・・あとちょっと、最後に靖人に会って良いかな?」
「靖人?・・・王?」
「そう。いいでしょ?どうせあいつがいても何も役に立たないんだから」
「・・・いや・・・その口調が嫌な感じする。お前のお願いってロクなことねェし」
「・・・やっかいだなぁ。性格読まれてるの。俺も信用しすぎたところがあるけどね」
「何だかんだ言ってお前甘いかんな、俺に取っちゃ有り難い」

すっと刃が喉元を差す。
流石隊長、中西がからかうと三上は眉をひそめた。余裕があるように見えたんだろう。

「・・・出来れば痛くない感じで、」
「あー・・・そうしとくか」

ガチン、
鈍い音がして三上が背後に気を取られた。
しかし中西は逃げる気配もない。思い扉が勢いよく開けられた。

「どっせーい!」
「なっ・・・王!?」
「あっ嘘ッ三上!?うわー予想より早いなー」
「・・・靖人・・・お前バスローブで・・・」
「えーだって危ないかなと急に思ったからさ」
「遅いっつの」
「ごめん」

開け放したドアのところで胸を張るのはバスローブ姿の王。
ありえねぇ。三上が呟く。

「えーっと久しぶりにやるから、中西避けといて」
「はいよ。三上、あっち先に倒してよ。倒せたら」
「・・・・」

彼なりのプライドが傷ついたのか、三上は不敵に笑って王を振り返る。
・・・しかし間抜けな姿。元から間抜けているというのにこれ以上どうするというのだ。
中西は足を引いて机の後ろに逃げた。

刀を構える三上に丸腰どころかバスローブ姿の王。
ましてや間抜けと名高いこの王に自分が負けるはずがない。さっさと終わらせてしまおう。
声もかけずに標的に突っ込んでいくが、間合いに入った瞬間に王が身を屈めた。
咄嗟に反応した三上の刃先に王が一瞬狼狽え、しかし刀を横から手刀で叩く。
ッン、
折れた音の代わりに刀身が絨毯に落ちる音。
すぐさま三上に飛び込んでいって押し倒した。弾みで飛ぶ刀。三上を俯せにして腕を背中に回し、上にどかりと腰を下ろす。
中西から気のない拍手。

「また刀折ってー、辰巳泣くよ」
「えぇ〜っ、怪我すんなとか刀折るなとか〜〜」
「なっ・・・」

三上は追うから離れようと足掻くが、そう重いはずのない王は全く動く気配がない。
それ以上の力で押さえ込まれている。血の気が一気に引いた。

「・・・お前・・・まさか・・・」
「うーん、まぁ三上だし教えてやろうか?」

にっこりと中西は笑い、どこからかロープを出してきて王に投げた。
それで素早く手を縛られ、放れた隙に逃げようとしてもすぐ足も縛られる。

「あのね、普通に考えてこんな間抜けな奴王にしないっしょ」
「うわヒデェ」
「まぁそいつもただの間抜けじゃないけどねェ、現にこうして俺を守ってくれるわけだし?」
「・・・何で・・・そんな素振り、全く」
「敵を欺くにはまず味方から。お前は一緒にいて気付かなかったのかな?幾ら王が能なしだっていっても許可なしに国営が出来ると思う?」
「・・・・」

「俺の方がどこからどう見ても王様じゃない」

その表情はあくまでもにこやか。しかし三上の背筋に何か冷たいものが走る。

「靖人ご苦労様。今度は怪我してないね?」
「うん。三上どうする?」
「あー・・・ばれちゃったからねェ・・・口封じたい所なんだけどー・・・三上はどうされたい?」
「・・・好きにしろ」
「それ一番困るんだよねー。靖人はどうするべきだと思う?」
「・・・あー、ホントだったら消さなきゃいけないけど」
「そうなんだけどねー、俺情移っちゃったからなー。三上、俺に飼われる?失敗したお前を殺すためにやってくる刺客なんてどうせへなちょこだし」
「・・・アリかそれ」
「だって事実上仕事失敗しちゃったし、三上はもう契約終了じゃない?」
「・・・お前・・・変ッわんねェ・・・」

王ですから。
空気で中西は語り、部屋の奥から根岸に服を出してくる。王のために仕立てた一級品だ。

「まぁ取り敢えず、今日はお前地下ね」

許したわけじゃないから。
そして王はいつも通りに笑うのだ。

 

 


・・・なんだろう。
なんや格好いいネギっちゃんが書きたくてですね。エエ。
闘うシーンなど書くものではないです。おもっきし逃げた。
辰巳さんは鍛冶屋です。なのでホントは剣強いです。ホントは兵士になりたいのです。本性を知らないので中西の傍へ行きたいのです。恋慕ではなく憧れです。ホントやって。

040222

 

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