0 5 : 5 分 前 に

後5分。
時間通りなら後5分だ。5分後に三上が部屋に来る。
笠井は時計を見て中西を緩く押し返す。防水加工のされたその時計がここに置かれるようになったのはそう最近のことではない。

「だめだって、せんぱい」
「もう時間?」
「うん、」
「つまんない・・・」
「だめだって」

諭すように中西の額に唇を落として笠井は脱衣所へ出た。
本当につまらなさそうに中西は顔をしかめ、しかし笠井が戻ってくる様子がないのを見て諦めてバスタブに張られたお湯に体を沈める。
まだ風呂には早い時間、小学生なら今から遊ぶ時間だ。それでも不規則な生活の中西には余り抵抗はない。
さっさと着替えてしまった笠井はもう断りもせずにドライヤーを借りて大雑把に髪を乾かす。

「先輩今何分?」
「にじゅうなな」
「出よ。じゃあ先輩」
「うん、三上帰ったらおいで」
「うん」

ドライヤーも片付けず笠井はそこを出ていった。
中西に特に挨拶もしない。
笠井は中西だって好きだ。しかし、

「お邪魔しました」

形式だけの声を掛けて、笠井が廊下に出れば目が合うのは三上。
ギリギリだ、
一瞬緊張した体をすぐに解いて笠井は笑う。

「せんぱい」
「笠井・・・中西んち?」
「あ、回覧板届けに」

隣のドア、笠井の部屋の前で待つ三上の元に向かい、笠井は微笑んで三上を見る。
三上が笑い返してきたので笠井はドアを開けた。鍵は掛けていなかった。取られるようなものは殆どない。

「お前髪濡れてない?」
「あ、すいませんさっきまで寝てて、昨日も帰ってからすぐ寝ちゃってたし、風呂に」
「ふーん、」

笠井に続いて中に入った三上がドアを閉める。
靴を脱ぐ間も待たずに三上は笠井を抱きしめた。湿った髪が頬に貼り付く。

「・・・三上先輩、中入って・・・」
「ん・・・」

靴を脱ぐのももどかしく、部屋に入るなりふたりでベッドに飛び込む。
三上は5分前に笠井が中西にそうされていたことを知らない。笠井は優しく三上を抱きしめて、ただ大人しく行為を受け入れる。
それは笠井の、ささやかな自己満足のための償い。
三上を騙しているという罪悪感が笠井にそうさせる。中西にも極力淡泊に接し、それでおあいこだと正当化させる。

多分声は隣に聞こえている。笠井はいつも知らずに緊張した。
笠井の部屋の隣にはかつての先輩の中西が住んでいる。三上はそれを偶然だと思っているし、ふたりも偶然だと言うことにしている。
だってばれてしまえば三上がどんなに辛いか。
笠井は時々切なくなって、そして三上にキスを落とす。
我が侭なのは自分だと分かっているが、でもこの生活がやめられないのは自分だけの所為ではない、とやはり自分を正当化して。
三上は時間に正確だった。何時に行くと笠井に伝え、そしてほぼ時間通りにくる。だからこんな関係も続いている。

中西は笠井が怖がっているのを知っている。
笠井はばれることを恐れている。
だから先輩と呼ぶことをやめない。ふたりとも先輩なのだからどっちを呼んだのか笠井にしか分からない。

────しかし秘め事はいつかばれるのだ。

「・・・・・・ぁ・・・」

笠井はぐったりとベッドに沈み込んだ。その背中にキスを落として中西は小さく笑う。
まだ中西をくわえ込んだままの笠井は中で動かれて呻く。

「かさい結構スタミナあるよね、大丈夫?」
「ん・・・三上先輩はあなたみたいに無茶しないんで」
「あら。優しいんだ?」
「あの人は優しいですよ」
「だろうね。で、俺は優しくないから」
「あ、」

中西が体を動かすと、まだ後を引く熱が反応して細い悲鳴が洩れた。
5分前が約束の時間。中西は笑っている。笑って笠井を啼かす。

隣の部屋に三上がいるはずだった。笠井はそれを知らない。
声は隣に聞こえている。中西はそれをよく知っていた。
昨日笠井が風呂にいる間に三上からメールが来た。
それに返事をしたのは中西。
今三上はどうしているだろう。笠井は部屋の鍵を閉めないから、三上は少し出ているぐらいに思ってきっと中にはいる。
だから、隣にいるはずだ。
笑いが込み上げる。

「せん、せんぱっ、!」

笠井も中西がいつもの調子ではないことに気付く。直接触れ合っているのだから余計だ。
しかしその理由分からない。

「・・・な、中西先輩」
「ん?」
「な、・・・何か可笑しくないですか・・・」
「ん?」

中西は笑う。
口を開こうとしたとき、玄関で物音がした。
笠井が中西を見る。

「どういうことっだよ・・・」

だって最近つまんないでしょう、
中西は三上を振り返る。

さて、何かが起きる5分前だ。


誰か続き書いて下さい。

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