asleep

 

「…遠いよね」
「は?」
「俺と辰巳」
「…俺を笠井を見てから言え」
「バカ言わないで下さーい、俺と辰巳は相思相愛なの、お前と笠井は先輩後輩なの」
「…」

例によっていつもの被服室前で昼食を食べながら。三上は顔をしかめて空にした紙パックを投げつける。
中身出た!すかさず蹴りを食らわせると三上が呻ita。

「…つってもさぁ、お前と辰巳がいちゃついてるとか見たくねぇよ」
「見せねーよ。そりゃばれるわけにはいかないから普段は近付かないようにしてるけどさ」
「ふうん」
「ほんとは見かけるたびにその場ででも押し倒したいんだけどー」
「…絶対するな」
「しねぇって」

パンの袋をくしゃっと丸めて三上に投げつける。立てた膝に額を当てて俯いた。
座った床と触れた所からぞくりと寒気が這い上がる。もうそろそろここでの昼食も寒いと思いながらも、教室は落ち着かないので三上とここへ来てしまう。

「あーーーーぎゅってされたい…」
「…」
「…されたことないけど」
「…あのさぁ、」
「なんですか」
「何で辰巳?」
「なんで笠井?」
「…」

顔を上げて三上を睨んでやると、今度はそっちが顔を伏せた。相当挫折気味のようだ。

「ま、頑張って」
「…」

 

*

 

「…あ」
「辰巳?」
「…いや、なんでもない」
「あーもー風呂遅く入ると濁ってるからヤダなぁ」

笠井は不機嫌な表情で、タオルを振り回しながら廊下を行く。
文化祭の委員会になったとかで、さっき藤代と帰ってきたところだ。

「…笠井、忘れ物したから取ってくる」
「あ、うん」

笠井と別れて廊下を戻った。さっき一瞬見えたのは、多分中西先輩だった。
目ぼしい番組も終わり、他には人気配のない談話室。その一番新しい、殆ど中西先輩の専用みたいになっているソファ。…ほら、やっぱりそこに。
回り込んでみると軽く俯き目を伏せていて、その前で手を振ってみても反応はない。
軽く肩を叩く。少し顔をしかめて、それからゆっくり目を開けた。しかめっ面で瞬きを繰り返し、ふっと俺を見上げて表情を緩める。

「辰巳」
「風邪ひきますよ」
「うん、ありがと。このまま朝までいるとこだった」
「それはないでしょうけど」
「辰巳は?もう部屋帰るの?」
「いえ、風呂に」
「今から?遅いね」
「先輩は風邪ひく前に部屋帰って暖かくしてて下さいよ、まだ秋でも寒いですから」
「うん…ちょっと、手ェ貸して」
「はい?」

真っ直ぐ見上げてくる先輩にとりあえず手を差し出す。ぎゅ、と冷たい手が握り返してきた。握手の意味じゃないだろう。
こんなところにいるから、こんなに手が冷たくなってる。

「先輩?」
「辰巳、」
「はい」
「好きだよ」
「…」

もう、何度も聞いた。

「…辰巳は、」
「…」
「おーッ、中西何してんの〜?辰巳と手なんかつないで、あやし〜」
「あら、だって辰巳暖かいんだよ。代わりに近藤君があっためてくれる?あ、そう?ほんじゃ遠慮なく〜v」
「うぎゃッ、お前何その手!冷たッ!」

ソファを飛び越えて、中西先輩は廊下に出て近藤先輩を捕まえる。その服をまくって背中に直接手を突っ込み、近藤先輩が悲鳴を上げた。

「…」

風呂行こう。いつものことだ。
…感じるのは違和感。

 

*

 

「…辰巳もこんなとこで寝るんだねぇ」

図書室の隅の席、本を手にしたまま首を傾けて。
これは多分寝てるんだろう、軽く肩を叩いてみたら、返ってきたのはかすかな声とも言いがたいもの。隣の席に座ってじっと眺める。
他にもちらほら人の姿はあるけど、みんな本に集中しているようだ。昼休みにまで図書室きて本読むか。
まぁ、いると思ったから俺は来たんだけど。

「…」

何考えてるのかな、普段。聞きたくて聞けないのは、お前の気持ち。
お前、頭悪いだろ。俺は好きだって言ってんだよ、だったらお前も返すんだよ。
人を好きになったのは初めてじゃないし、その中であんたが特に特別だ何て言わない。だけど男だって意味ならお前は特別だ、初めてだよ。別格なんだよ。

「…何か言え」

いっつもひとりでひとりで何かしてて、俺には何も関わらない。
でも少なくとも俺のこと好きだろ?だったらキスしても平気な顔なんてしないだろ?

「…辰巳」

呼びながら肩を叩く。ぴくりと少しだけ反応。
立ち上がって椅子を戻し、肩に手を掛けて耳元で名前を読んだ。びくっと肩が跳ね上がり、慌てて振り返った辰巳とぶつかりかける。

「あ…、先輩」
「おはよう」

 

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