あ な た の 記 憶 (三笠)


「誰?」

「っ・・・」

ぎゅ、と、誰かが心臓を掴んだ。
白い病室でベッドに横たわる、あんたはまるで知らない人のよう。
室内の電気は点いていなくて、窓から入る街頭の光が逆光で顔がよく見えないせいだと自分に言い聞かせる。

交通事故なんて言うから死んだと思った、生きてたけど、こんな結果になるなら死んで欲しい。
俺は生きててくれればなんて言うつもりはない。また事故ったら記憶戻るだろうか、とか考えてたら、あぁ、なんて声がする。

「竹巳か」
「・・・!?」

ふっと一瞬で体の力が抜けて椅子から落ちそうになる。
もう何だかよく分からなくて取り敢えずベッドにつっっこんだ。ぐえとか何とか呻いてたけど知らない、体の上に伏せる。

「・・・もしもし、竹巳?」
「・・・変なこと聞かないで下さいよ・・・焦った・・・」
「何か変なこと言ったか?」
「・・・いいです」

そこにいるのは誰か、と言うつもりで聞いたんだろう。
ぎっとベッドが軋み、体を起こした怪我人に頭を撫でられる。

「竹巳」
「・・・なにやってんですか、事故りやがって」
「・・・悪いのはあっちなんスけどねー・・・悪ィ、心配かけた。泣くなよ」
「誰が、泣くか」

優しく髪が梳かれた。途中引っ張られたのは手に貼られたテープが引っかかったらしい。
体をあげて、顔を見られないうちに抱きついた。何処を触っていいのかよくわからない。

「・・・俺何処怪我してんの?」
「・・・知らない」
「おい」
「聞いてない、死んだと思いこんでた」
「あのなぁ・・・」
「頭は怪我してるみたいですけど」
「だろうな、包帯巻いてあるし」
「・・・きっと傷治ってもそこだけはげてんですよ
「あ、やっぱし?傷でかい?」
「見てないし」

つか見たくないけど。
スッと背中に手が回って優しく叩かれる。ガキみてぇとか思ったけど離れられない。

「泣くなって」
「────泣きますよ」
「悪ィ」
「うるさい」

そうやってあんたが無茶ばかりするからあんたの中に慌てふためく無様な俺が増えていく。

 

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