死 ん で も 死 に き れ な い (中笠)
中西先輩が死んだ。
目が合った。
向こうは不意をつかれたようで何度かまばたきを繰り返し、ゆっくりこっちに近付いてくる。
だけど視線を外せば諦めたように溜息を吐いた。それでも真っ直ぐ近付いてきて、正面に立って俺に手を伸ばす。
その手は俺を撫でようとするが、すいと宙をかいて俺の頭を抜けていった。「・・・触れたら死んでても生きてても同じじゃないですか」
小声で言ってやると目を丸くして俺を凝視し、それからいつものようににこりと笑う。
「笠井がお化け見えるってホントだったんだねェ」
「・・・お化けじゃなくて幽霊だと思いますけどね」生きててもあなたは化け物みたいな人だったけど。
中西先輩の幽霊は笑う。 少し辺りを見回して、中西先輩に目配せして静かな談話室を出て屋上に向かった。
嫌いだという人も多かったけどそれなりに面倒見のよかった人。寮の中は数日前から静かだ。「俺って一応惜しまれてるのかしら?」
「惜しい人をなくしましたって奴ですか?さぁ、単純に誰かが亡くなったからってだけの人もいると思いますけどね」
「あっそ。 ・・・頑張ってねー大会」
「・・・・・・」俺の分までとか言わないからさ。
中西先輩を通して夜空が見える。星の代わりに見えるのは、星が地面に落ちたような都心のイルミネーション。「・・・なんで居るんですか?」
「・・・何でだと思う?」一瞬風が吹き上げて風呂上がりの濡れた髪で顔を叩かれる。
痛みに顔をしかめて、咄嗟に瞑った目を開けた。その様子を笑う中西先輩。髪の一本も揺れない。「・・・何でですか?」
「やっぱり無理にでも笠井やっちゃえばよかったなって」
「・・・よくないですよ」
「本気で好きだったよ」
「・・・・・・ずるいよ、先輩」言わなかったけど。
今更言えないけど。俺だって好きだったよ。
「・・・普通に卒業すればそのうち忘れられたのに」
「ふふ、一生忘れられない?」
「絶対忘れてやる」
「・・・ありがと、」俺のために泣いてくれて。
あなたの静かな声は以前と変わらない。
俺それだけで十分だよ、なんて。「ずるいよ・・・」
触れもしない指先を俺に伸ばして、頬を撫でるようなふりをする。
それに遮られずに涙は首筋を伝ってきた。くすぐったくてその辺りをこする。「笠井もずるいよ」
「・・・・」
「そんな顔されたらさ、俺もここ離れられないじゃない」
「先輩のバカ・・・」
「・・・かーわいいなぁ」なんで俺死んじゃったんだろうね。大好きだよ。
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