あ た ま (辰中)


「中西起きろー」
「俺は中年男の声じゃ起きないー」
「中西・・・」

顔を上げた中西は再び机に伏せる。教師は溜息を吐いて机に近付いた。
今日は天気もよく、グランドからは気持ちのいい掛け声が聞こえてくる。教師はそれに合わせて教科書を丸めて後頭部にセットした。
それを今正に振り下ろそうとしたとき中西が勢い良く顔を上げて自爆する。

「うわっびっくりした」
「いった〜・・・角当たった・・・」
「自業自得。起きろよー」

教師はとりあえず目を覚ました中西に満足し教壇へ戻る。
中西はがしがしと頭を掻いて窓の外を見た。生憎廊下側の中西からはグランドは見えない。しかし立って外を覗きたいほどに引かれている。
辰巳の声だ。体育のランニングだろう、号令を掛けるのは体育委員だ、なぜ辰巳の声なのか知らないが辰巳の声は間違えない。

「・・・・」

見てぇ。
じっとしている中西に教師は何となく恐怖も感じた。

 

 

「・・・聞こえてたのか」
「何で辰巳がやってたの?」
「答える前におりろ」

中西を押し返そうとする手を振り払い、よいしょとばかりに辰巳の胸に伏せた。

「ん、やっぱここがいい」
「・・・・」
「何で号令なんか掛けてたの?」
「・・・体育委員が休みだったんだ」
「ふーん、聞きたかった。言ってみてー」
「今言えるか」
「ケチー」

ケチと言われてもあれは号令だからのことで、会話の中では口にしにくい。

「・・・よく分かったな」
「ん?」
「俺だって」
「わかるっしょ、俺は辰巳だったら間違えないよ。全身で辰巳のこと覚えてんだから、目でも耳でも、指先でも舌でもね」
「・・・・」
「まぁ結局は脳ってことになるのかな」

少し顔を上げて逃げられない辰巳の唇を舐めた。
嫌そうな顔を見上げて深くキスを落とす。逃げる舌を追ってからめとり。
中西はそのまま体を上げて辰巳の上に座り込んだ。こうなればもう辰巳に逆らう理由はない。
いい加減辰巳が中西を押し返し、やっと離れて辰巳は溜息を吐く。中西が全部分かった風致にやりと笑って見下ろしてきた。

「やる?」
「・・・その気なんだろ」
「辰巳から誘って欲しいんだけどね、まぁいいか」

「辰巳のことひとつでも多く覚えてあげる」
「全部?」
「全部ね」

好きよ、そう囁く声は男の声。自分の頭はきっとやられているのだ。再度触れた唇。

「・・・例えばあんたが電車にひき殺されて他の誰かと混ざってても全部判別できるぐらい?」
「・・・・」

気持ち悪い。辰巳の言葉に笑ってまた、キスを、繰り返す。
自分を互いで満たし合ってるなんて言葉にすると陳腐な恋愛のようなのに、もう少し言葉を加えるとこれは一方的な受動と能動。
頭の中がいっぱい、なんて。何処までが事実なのか是非見てみたいものだ。
頭の中を見せてやろうか、電車に殺されたときに見てみるといい。強制的な侵入者が我がもの顔で笑ってるから。
嘘みたいな関係は体重を証拠に辰巳に迫る。

 

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