恋 に 生 き る (中西)


恋をしてはいけないと言われた。
そんなこと無理な話、今更言われたって遅いから。

保健室の窓からサッカー部のグランドが見える。
今見えるのは3軍の子達かリフティングをする姿。あーあ・・・ここから1軍見えないんだもんなぁ。

「センセー怪我人〜」

あ、誰かきちゃった・・・音をたてないようにそっとベッドに潜り込む。寝たふり。
先生はさっき出て行っちゃったから、下手するとあたしが手当しなきゃいけなくなる。

「あれー、先生いないの? ・・・・」

何部か知らないけど消毒ぐらい自分でさっさとやって帰りなさい!
静かになったと言うことは諦めて出ていったのかもしれない。スカートのしわが気になって体を動かす。
枕元に置いてたカメラが落ちた。派手な音に顔をしかめ、慌ててベッドを降りる。壊れてたらどうしよう!
辺りには見当たらなかったのでカーテンを引いてそこを出ようとし、・・・嘘・・・。

あたしのカメラを手にこっちを見ているのは、・・・中西先輩。
擦りむいた膝に血が滲んでいる。

「・・・先生知らない?」
「あ・・・さ、さっき呼び出されて」
「まじで?あ〜・・・消毒薬とか分かる?」
「あ・・・あたしやりましょうか、」
「いいの?よかった、俺不器用だからさ」
「・・・・」

・・・死にそう。
近づけるとは思ってなかった人がそこにいる。

「・・・な・・・中西先輩・・・」
「ん?」
「・・・すきです」
「・・・・」

ありがと。
顔をあげると中西先輩が笑ってあたしを見ている。い・・・勢いで何言ってんだあたし!
消毒液を手に怪我の治療をする。
・・・傷だらけのたくましい脚。地を蹴りボールを追う。あたしの隣は歩かない脚。
どきどきする。

「・・・ねぇ」

肩を叩かれて顔を上げる。
伸びてきた手が頬に触れ、何かが唇をかすめた。

「あ・・・」
「いやだった?」
「・・・どきどきする」
「・・・傷ありがと、じゃあね」
「・・・・」

背中が保健室を出ていった。
・・・死んでもいい。応えてくれた訳じゃないのは分かってる。でも嬉しい。
右手で胸を押さえる。動いてる。生きてる、あたしにだって恋はできた!

 

 

「センセー」
「・・・いらっしゃい中西くん。またサボり?」
「へっへ、ベッド借りまーす」
「もー・・・」

もぞもぞとベッドに潜り込んで思い出す。

「・・・センセー、こないだの金曜の保健委員って何年何組?」
「保健委員?保健室にちゃんと待機してる子なんていないわよ」
「えー、でもこないだいたよ、女の子」
「・・・あぁ、あの子か。保健委員じゃないわよ、殆どここに住み込んでたけどね」
「えー?」
「心臓弱い子だったからさ、金曜から入院してるよ。もう学校これないかもね」
「・・・え、」
「可哀相に、心臓に負担がかかるからって恋も禁止されてたんだって」
「な・・・なんで?」
「どきどきしちゃいけないんだってさ」
「・・・・」
「運動なんかできないし勿論セックスだって無理、それどころか怒ったり泣いたり、お腹が痛くなる間で笑ったりも出来なかった。誰に何を言われても」
「・・・・」
「・・・これあげるね」

差し出されたのは使い捨てカメラ。俺がこの間拾って手渡した。

「渡してって言われた。あの子があのまま死ぬんじゃないかと思ったぐらい興奮してたわ」
「・・・・」
「これでよかったのかは知らないけどね」

出ていってあげる、
保健医は黙って保健室を出ていった。俺を残して。

・・・知らないよ、名前も知らない女のことなんか。俺のせいで死んでても怨んで出たりすんなよ。
誰かが寝てたベッドに潜り込んだ。

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