テ レ ビ の 中 (中西)


「・・・元気だなぁ」
「ちょっと中西君、何堂々とサボッてるのよ」
「いいじゃんまだ開院してないしー」

先輩は溜息を吐き、中西がテレビを見ているので傍へ寄った。
病院の隣の薬局、病院自体が大きいのでここの待合室も広い。

「サッカー?今度のW杯はどうなりそう?」
「知らないよ俺最近見てないし。藤代ハットトリックって、また調子乗るじゃん」
「あたしもサッカーわかんないけど藤代ぐらいは知ってるな。CM結構でるよね」
「あいつあんなに爽やかじゃないけどねー」
「何その知り合いみたいな口振り」
「知り合いよ、あいつ後輩だもん」
「・・・・」

そうなの?
先輩の応えにがっくりくる。
そういえば前にひょっこり藤村が現われて騒ぎになりかけたときもこの人はひとり飄々としていたが、あれは平然としていたわけではなくどこかで見たな程度だったのかもしれない。

「てか中西君がサッカーって意外」
「そう?一応レギュラーまでつとめたんですけどね」
「へー、だって中西君青春とかウゼーって感じじゃん」
「先輩が俺のことどう思ってるか今の一言でよく分かった」
「違うの?」
「青春万歳よ、中学高校が一番楽しかったな」
「ふーん、サッカー選手は目指さなかったの?」
「・・・イジメ? 目指してたはずなんだけどね」

サッカー関連のニュースは終わり、今度は野球に変わっている。
相変わらずの後輩だがなんだか遠くへ行ってしまった気がする。

「・・・またみんなでバカやりたいなぁ」
「中西君て無茶しそうだなー」
「若かったからねェ」

流石に後悔する面もなきにしもあらずという感じだが、それを口にすると追求されるので黙っておく。
テレビの中の藤代は中学高校のあの頃と代わりがないように見えて、だから時々錯覚する。
何も変わってないんじゃないかと。

「・・・サッカーやりてー」

あんな疲労感から解放されたときに感じたのは焦燥だったと最近気付く。
思わず溜息を吐いたのを先輩が不思議そうに見た。

「・・・昔だったら仕事なんかさぼっちゃえーって感じだったんだけどな」
「今も結構適当じゃん?」
「先輩よりは真面目だと思うなー」

さて仕事しましょう、
立ち上がってテレビを消した。そっちは嘘の世界だから、信じないよ。

 

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