金 魚 の 池 (中西)


「・・・・」

ひらりと舞うように、赤い金魚は水の中へ落ちた。
ぽちゃんと小さな音を立てた後は音を立てずに水を切って泳ぎ出す。

「・・・これどうしたの?」
「昨日祭りがあっただろう」
「あぁ・・・うん。今年出店減ってた」
「・・・行ったのか?」
「ちゃんと外出許可もらったよ」
「門限は?」
「破ったけどね。先生が取ってきたの?」
「孫だよ」
「ふーん」
「これで少しは賑やかになるかな」
「・・・・・・」

校長室の前には以前から小さな池があった。昔は小降りの鯉が居たらしいが中西は見たことがない。
初老の男は中西に小さな箱を渡した。

「ひとつまみ落としておいてくれ」
「・・・・・・」

めだかのえさ、だ。
いいのだろうかと思いながらひとつまみそれを池に落とす。金魚は現れない。

「いいねお前は広いところで」
「羨ましい?」
「うん」
「寂しくはないかな」
「金魚だからね」
「君だったら?」
「寂しくないよ、俺だから」
「そうか。明日も餌をやってくれるかな」
「校長センセーは?」
「これでも忙しいんだよ」
「いいよ」
「それはよかった」
「・・・・・・」

水草の合間に一瞬赤が見えた気がした。

 

 

ぽんと餌の箱を放り投げて池へ向かう。
子どもひとり溺れることの出来ない小さな池。散った葉が何枚か浮いている。
ぽん、と 箱が手から落ちた。
池の周りを取り囲む、石の上に小さな赤。 昨日水をかいて泳いだひれ。

「・・・猫、かな」

ばかじゃん?
餌をひとつまみ池に降らす。
箱をひっくり返して中身を全て落とした。空になった箱を水面に叩きつける。水面に浮いた餌が大きく波打った水で寄った。

「は・・・」

近付いてこなかった癖に危険には寄っていったのか。
後ろに誰かの立つ気配。中西は振り返らない。

「猫に食われた」
「・・・そうか・・・猫が居るとは知らなかった」
「居るんだよ、後者の裏で教師に秘密で誰かが飼ってんだ」
「初耳だ」
「ばかじゃねぇの、ソッコー食われやがって」
「君みたいだね」

風が凪いだ。
それでも水面は波打つ。歪んだ中西の顔を映す。

「すぐに隠れてしまうのに、危険には近付いて行くんだね」
「・・・危険、って。大袈裟な」
「金魚もそのつもりだったのかもね」
「・・・・・・」
「謹慎だってね」
「・・・・・・」
「しっかり考えなさい」
「・・・・・・」

ばかやろう。
残ったひれを踏みつぶす。

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