負 傷 (沖神)
「どこか怪我したアルか?」
「・・・いや」
あぁなんで、この子はこんなにも鋭いのか。
失敗したと思う。でも、と彼女が続けるから、自分はよっぽどうまく表情が作れなかったんだろう。
「痛そうな顔してるアル」
「気のせいでさァ」
「でも」
「あんたに俺の何が分かるってんだ」
「・・・・・・」
「・・・すいません。ただの返り血でさァ」
胸に飛んだ、血。もう見慣れてしまった赤。
「じゃあなんでそんな顔してるアル」
「どんな顔ですかィ」
「怖い顔してるヨ」
「ひでェや」
「怖がってる顔アル」
「・・・・」
神なんてものは信じていない。
だけどこれは罪なのだろうか。死へ続く病ぐらいなら喜んで受け入れよう。
だけど
「俺に怖いものがあるとしたら」
あんたに
「───あんたがいなくなることでさァ」
あんたに会えなくなることだ。
悲しんでほしいとも思わない。同情も心配も、愛情すらもなくていいから。
「・・・どうしたアル。今日は可笑しいネ」
「・・・・」
実はさっき血を吐いたんでさァ。これがどうしてなかなか、奇妙なもんでしてね。
その血を見てからあんたのことしか考えられなくなって・・・・・・
「やっぱりどこか痛いアルか」
何処も心も痛くない。
「───お嬢さん」
負傷箇所は見えないところ。
「好きでさァ」
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