土 砂 降 り (辰中)


『迎えに来てーvvv』
「バイト中」
『何時間だって待てるけど』
「俺も傘持ってないんだ」
『えー』

電波に乗ってきた不機嫌な声に顔をしかめて辰巳は壁の時計を見た。
もう休憩時間は終わりだ。立ち上がって窓の側へ寄る。
急に降り出した大粒の雨がやかましいほどに窓を叩く大演奏会。
風も窓を揺らすほどで、雨が斜めに走って遠くに何があるのかも見えなかった。携帯の向こうの中西の声も時折雑音で消えかかる。

「時間だから切るぞ」
『えー、俺どうすんのー。止むの駅で待てって?タクシー呼ぶほど金持ってないよ?』
「何時間でも待てるんだろ」
『辰巳が来てくれるならね』
「帰れたら迎えに来てくれ」
『なんでそうなるのかなー。ずるいよ辰巳』
「じゃあな」
『期待しないで待ってて』
「できれば車で」
『聞こえませーん』
「良平君、時間」
「あ、はい。今行きます」

締めくくりもせずに携帯を切って鞄に戻した。あとで文句はいくらでも聞こう。
バイト先の本屋では大雨で足止めを食らった人が手持ち無沙汰に本を手にしている。
漫画にはビニールがかけられているので雑誌コーナーは狭そうだ。小説を読んでいる人もいるが正解かもしれない、雨が止むまで待つ気なら簡単なものぐらい読みきれるだろう。

「電話大丈夫だったの?」
「大した用じゃないんで」
「ふーん。彼女?」
「違いますよ」

レジに入って同じくバイトの女の子と入れ替わる。
彼女は今日はこれで終わりだが、やはり帰れそうもなく親いるかなぁなんてぼやいていた。

「───こういう雨の日は本を読むのにいいんですけどね」

レジに立つ先輩が、暇そうに笑った。

「残念、俺らは我慢だ」
「分かってますよ」

帰ってからも読ませてもらえないだろうなと考えて、苦笑した自分に苦笑した。

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