金 曜 日 (オリジ)
今日は金曜日。Friday。
アルファベットを覚えるより早く、あたしは金曜日がフライデーだと知っていた。
何故ならうちは定食屋で、毎週金曜はフライデーという嘘みたいなことをしてるからだ。
フライのメニューが若干安くなっておまけがつくという程度でフライデーとは舐めてんなという感じ。
それでも金曜は比較的客が多く、毎週金曜は必ず店の手伝いというのが暗黙の了解になっていた。
断っておくとうちはそう立派でもなければ隠れた名店でもなくてバカに安いわけでもない。普通のおっちゃんとおばちゃんが特別でない材料で飯を作って出してるだけだ。
なのに。
何故かあの男は毎週金曜日に店に現れる。「嬢ちゃん今日のお勧めは?」
「うちにそんな特別メニューないわー」
「じゃあ何食ってほしい?」
「一番高いの・・・あいてッ、何すんだクソジジィッ」
クソ、何でもかんでも投げてんじゃねーぞ。空のこしょう瓶を投げ返す。
男はげらげら笑ってメニューをさした。
「じゃあエビフライ定食で!」
「エビ定食一丁ー」
「ご飯大盛りでー」
「おっちゃん常に大盛りやからもうええわ」
「おー、そうか?」
はっは、とまた豪快に笑う。でけぇ口。
近所の大工さんだがそう偉い人でもない。コロッケみたいな大雑把なおっさんだ。
「おっちゃん、揚げ物ばっかやったら太るで。あ、十分太いけど。早死にするでほんま」
「お、手厳しい」
「どうせ早死にするんやったらもっとかっちょいいお店で別嬪さんに囲まれて酒に溺れて死ねばええやん。あいてッ、ッソ、ババァまで投げてくんなや!」
男はがははと大口を開けて笑う。山賊みたい。汚いひげ生やして。
「別嬪さんならおるやんけ」
「何処に」
「あんたが」
「・・・・」
別嬪て。おっちゃん別嬪の意味分かってんのか?
「おっちゃんがもーちょい若かったらなぁ」
おかんが良かったらこんな娘やけど嫁にもらったってー、行けそうにないからなぁとフライを揚げながら笑う。がははとおっさんも笑う。
「・・・おっちゃん冗談は顔だけにしときや」
アホらし。
喜んでしまうあたしがいっちゃんアホやけど。
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