先 生 あ の ね 、 (三笠)


音楽室で笠井を待つ。

授業中に騒いで調子に乗って、減点を叫ばれてしまった。謝り倒して反省文で許してもらえることになったけど、今にも原稿用紙に好きです、と書いてしまいそうな自分がいる。 初めて見たのは入学式。グランドで先輩達とサッカーをしていて、ほとんど一目惚れだった。
その日のうちにサッカー部に入部届を出したはいいけど笠井は吹奏楽部顧問だった、というオチ。始めからサッカー部に入る予定だったから問題はなかったけど。笠井は時々サッカー部にも顔を出すし。学生時代はサッカー部だったんだ、と笑って。

なんで先生なんだよ。まるで雲の上だ。

「三上くんできた〜?」

あとで見に来るから、の言葉通り、笠井は音楽室に顔を出した。生徒に混ざっても違和感のない若い音楽教師、男女ともに人気のある男。

「3行でいい?」
「自分で反省文書くって言ったんじゃん。半分は書いてよ」
「無理無理、マジだるい」
「じゃあ三上くんの成績は1ってことで…」
「嘘嘘、マジ頑張っちゃう」
「ガンバッテ」

待っててあげるから。笠井は笑いながらピアノの蓋を開ける。
邪魔する気なのか先日のテストで音を外して恥をかいた曲を弾き出したから消しゴムを投げつけた。謝る気もなく笠井は笑って曲を変える。文化祭で隣のクラスが歌った曲で、笠井のお気に入りらしい。――――いや、彼女のお気に入り、か。
消しゴムを拾いにいって、笠井の真横に立つ。

「ん?飽きた?」
「……」
「無理して書かなくていいよ」
「…せんせー」
「何?」
「俺さぁ、好きな奴が馬鹿なんだけどどうしたらいい?」
「ば…鈍感ってこと?」

鍵盤の上で踊っていた指が止まる。くるんと回る目が俺を見て、お前だよこの馬鹿。

「んー、そういう相談なら俺の彼女に聞いた方がいいかも。俺しょっちゅう馬鹿とか鈍感とか言われてるしね。学校の人?」
「…ん」
「じゃあ卒業までに頑張りたいね」

────入学式の春から、気持ちを抱えて間もなく卒業。馬鹿は俺だ。3年間、この男を。

「…先生」
「何?」
「……卒業式に言う」
「なにそれ」

ははっと笑って笠井は俺の頭を撫でた。よっぽど深刻な顔をしてたんだろうか。
卒業式に言うから、今日みたいに笑いとばして。

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