フ ァ ー ス ト キ ス (辰中)
俺は生涯でその時期が一番憎い。
他にどんな大切なことがあってもその時期がなかったらと願うほどに。
「・・・俺に頼むってことはよっぽど説破つまってんの?」
「・・・・」
「・・・ふーん・・・まぁ辰巳なんかほっといたら声も掛けられずに終わりそうだけど」
「うるさいな・・・」フェンスの向こうに見える彼女が、ライバルだとは、知ってたけど。
まさか仲介を頼まれるとは思わなかった。
別にツテぐらい幾らだって持ってる。適当に女の子に声かけてそこからその子と仲が良さそうな子までルート辿って。
まぁ辰巳の好みなんて俺とは似通ってないから遠回りだろうけど。
高いよ?と笑ってやると、ほっとした表情をしやがって。
・・・しょうがないから、俺は携帯を手にする。辰巳から顔を背けて。
今日中には無理だからって部屋を追い出した。
泣きそうだ!立ち上がって窓の傍に立つ。番号を呼びだした携帯を閉じて握り、ストラップを持ってぶら下げてみる。
2階から落ちたぐらいじゃ壊れやしないだろうか。じゃあ道路に投げつけたら壊れるだろうか。
・・・そんで、壊してどうする?
「死ね」
「・・・お前の顔が死んでるぞ」
「殺してぇ」
「・・・辰巳を?」
「まさか」
「・・・彼女さん、とか」
「・・・まさか」三上とか?
笑ったつもりがひどい顔だったらしく、三上は笑い返してこなかった。
悪い噂を流してやることもできた。仲を取り持たないことだって出来た。適当に嘘だって吐けた。「・・・アホか」
「・・・死にたい」
「いつでも受け止めてやんぜ?」
「・・・そのうち妥協してあげる」
玄関にでかい体、いつも背中ばかり見てる。
「これからデート?」
「・・・中西」聞かなくても分かるけど。
あんたがひとりで出掛けるときはいつもでかい鞄を持ってる、図書館に行くから。
そんな身軽で出掛ける辰巳なんて見たことないよ。変な顔。・・・楽しそうな顔。「よかったねー、俺絶対ダメだと思って取り持ってたんだけどー」
「・・・ありがとう」
「・・・・」殴って、いいかな。
出ていこうとする辰巳を捕まえた。
不思議そうな顔をする。「・・・俺まだ貰うモン貰ってないんだよね」
「・・・本気か、」
「勿論」
最初で最後の。
好きだってゆってやったらどんな顔をするんだろう。
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