切 っ ち ゃ っ た (銀→←山)


「早く帰んなさいよ〜」

夕方の教室、並ぶふたりは絵になった。浮かぶシルエットに目を細める。

「────銀八」
「居残りは6時まで。君ら延長届け出してないでしょ」
「…だって。帰ろうぜ」
「う…うん、」
「────山崎くんは、ちょっと話あるから残ってもらっていい?」

山崎じゃない方が顔をしかめた。ともすれば崩れてしまいそうな表情、筋肉をひきつらせて耐える。

「…じゃあな、また明日」
「う、ウン。ばいばい」

その別れの挨拶はひどく場違いに思えた。帰る男はすれ違いざまに銀八を睨む。土方。お前はいいね、素直だ。

「…あの、話って」
「あー…あぁ、うん…」

何も考えてなかった。ふらりと教室に入り、壁際に積み上げられた小道具を拾う。もうすぐ文化祭で、Z組は大変銀八を嘆かせたが、お化け屋敷をするらしい。
手にしたものは妙にリアルな血糊のついた日本刀、昼間近藤が保健室に運ばれていたことを思い出す。まさかな…嫌な予感をかき消してそれを戻し、その隣に微妙なバランスで山積みされたスズランテープを取った。なんだこの大量なテープは。何に使う気だ。

「…ありがとうございます」
「ん?」
「さっき…」
「…あぁ」

本当は感謝してもらえるようなことはしていない。醜い嫉妬だ。

「…土方と何の話してたの?」
「…告白された」
「────」
「……先生」

白衣の裾を引かれて慌てて振り返る。振り払われた手の平が宙をさまようのを見た。手にしたスズランテープを落としてしまい、赤く伸びて転がっていく。
手に残ったテープを張って、精一杯、自分と山崎の間に境を作った。山崎は眉をひそめる。銀八は緊張している。

「…先生、俺、そんなにバカじゃないよ」
「いや…俺もね、バカだったらこんなことしてないよ」

意味わかってくれるだろ?
表情を変えず山崎は銀八から離れ、道具の山からはさみを持ってきた。またテープの前に立ち、ぱちんと切ってしまう。テープカット?祝うことは何もない。

「…俺が切る」
「……」
「先生が出来ないなら」
「…山崎」
「……」

はさみを捨てた音に飛び上がりそうになる。凶器を捨てた手が、白衣を掴んだ。

「…先生」
「……俺…自分の身が一番可愛いよ」
「うん」
「こういうのね、例え山崎が悪くても、俺が悪いんだ」
「俺は、先生を悪役にしても先生がいい」
「────子どもだな」
「子ども扱いするからだよ」
「…ハァ…」

困って頭をかき、白衣を掴む指を一本一本離していく。感じる体温にいくら心をかき乱されても、越えるわけにはいかない。

「…先生は赤い糸、信じる?」
「また明日」
「……」
「多分土方待ってるよ」
「…さよなら」
「さよなら」

銀八が触れた指を握り、山崎は荷物を取って教室を出た。走る足音。
無造作に捨てられたはさみを拾う。赤い糸?はさみを持って、小指の下の宙を切った。

「…よく耐えるなぁ、俺」

はさみを片付けて、窓の外を見た。土方と山崎が歩いている。山崎が見て、土方もつられたようにこっちを見上げてきた。逃げも隠れもしなかったら、土方は山崎の手を取って歩いていく。
さようなら、また明日。

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送