黙 秘 権 (土+山)


「山崎戻りました」
「入れ」
「失礼しまっす」

部屋に入ってきた山崎はまだ濡れ髪だ。夜に溶ける黒いスーツ姿で、珍しい格好に一瞬戸惑った。土方の反応に気付いた山崎がすいませんと謝る。

「まだ着替えてないんで」
「今回は何処行ってた」
「某・ホストクラブ」
「ブッ…」
「…似合わないのは承知ですよォ。でも監察の中じゃ年齢的に俺が行くのがましだったんです」
「そうかよ。報告は?」
「ふっふ、誉めて下さい」

山崎が胸ポケットから取り出したのは1枚のMD。目の前に上げて誇らしげに笑う。

「証拠いただきました」
「おぉ」
「狙い通りです。高崎屋の黒幕は旦那じゃなくて妻の方でした。あそこの旦那は婿養子です。妻の方が良子ってんですが、潜ってたのは良子の通うホストクラブです。良子と仲のいい奥さん捕まえてこの証言貰いました」
「ほー。あとで聞こう」
「……え、副長聞くんですか?」
「そりゃ聞くだろ」
「あ、いや、監察でやりますから」
「何でだよ」
「いや、あの、盗聴なんで、プライバシーに関わる部分はカットしようかと……」
「…待て、ホストっつったな」

正座したままの山崎の顔色が白くなっていくのが目に見えるようだ。さっきまでの表情は消えて作り笑顔になり、すすっとMDをポケットにしまう。土方が睨むと視線をそらした。

「抱いたろ」
「……わっ、悪いですか!」
「職権乱用だなぁ〜テメェは」
「じっ、じゃああんたが監察やったらいいじゃないですか!」
「それはテメェの仕事だろ」
「指示してるのはあんたですっ」
「女抱けとは言ってねぇよ。――――どんな女だ」
「……ご婦人ですよ」
「年増?色っぽいってんならそれもいいけどな」
「助平…」

山崎が顔をしかめたのを笑う。面白い男だ。
手招きすればしばらく渋って、MDの入った上着を脱いで障子の前に落としてから近付いてくる。土方はそこまで考えていなかったのだが、つくづく気のつく男だ。

「あぁ、風呂入ってきたな」
「…回収しなきゃなんないんで、彼女より先に帰れないから」
「大変だなお前も」

手を引いて膝の間に呼び、抱き寄せてシャツ越しの腹に唇を落とす。膝立ちの山崎が手を伸ばして、土方の顔を捕まえて覆いかぶさるようにキスをした。

「…うまく隠してるつもりだろうが、他の連中にばれてるぞ」
「面倒だから隠してませんよ」
「無駄に反感かってどうすんだよ」
「監察に使えそうな奴探してるだけです」
「お前女なんか抱けんの?」
「……ちょっと、今、傷ついた…」

緩く山崎の手が首を絞める。笑ってそれを払った。

「どんな女だ?好み?」
「黙秘!黙秘権ぐらい俺にもあります!」
「出し惜しみしてどーすんだ」
「…どっから情報漏れるかわかんないもんでぇ」
「信用されてねーの」
「じゃ、俺まだ仕事残ってるんで」
「は?」
「今度は本人落としてきます」
「…お前鏡見て来い」
「残念ながら、既に携帯は教えてもらってんですよね」

普段の俺と一緒にしないで下さいよ?
角度をつけて土方を見た山崎は、仕事用の顔だったのだろう。普段とはがらりと雰囲気を変えて、ぞっと一瞬背筋を走るものがある。
さっと立ち上がった上着を拾いに行った。とんでもない男なのかもしれない。

「副長こそ、なんでそんなに女のこと気になるんです?」
「……黙秘権」

子どもじみた嫉妬に気付いているくせに山崎は問う。仕事ならさっさと行きやがれ、山崎を追い出してからひとりで布団に入った。

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