あ た り ま え で し ょ う (マダさち)


「あたりまえでしょ、あなたなんかに幸せが回ってくるほど、幸せの数は多くないのよ」
「……ハッキリ言うな〜…」

おじさん泣くよ。思わず嘆くと泣きたきゃ泣けば、と冷たい言葉。もう嫌だ。なんで昼間からこんな、しかも見目麗しい女性にボロクソ言われなくてはならないのか。

「…それにしても、あの長谷川さんが今は無職なんだから、何があるかわからないもんね。世の中無情だわ」
「とりあえず無情筆頭は君だよさっちゃん…」

今日も陽気な午後の公園、ベンチを一脚陣取って、しかも差し入れが缶ビールだったもんだから最低なおっさんになっている。眼鏡をかけたストレートヘアの美人が隣にいても、ここはキャバクラにはならない。好奇の視線集まる公園だが、幸か不幸かもう慣れた。自分の家よりもホームだ。

「世界に存在する幸せの数は決まってるのよ。きっと長谷川さんの幸せは私のところに来たんだわ」
「…さっちゃんのその、いい人?胡散臭いからかなり話半分に聞いてるんだけど」
「長谷川さんの方がよっぽど胡散臭いわ」
「言われなくても知ってるよ!」

胡散臭さに拍車をかけたのは彼女の差し入れ缶ビール。実にありがた迷惑だ。
────彼女に知り合ったのは、自分が絶好調だった頃。なんかこう、男として官僚として、つうか人間として?アレ、涙で曇って前が見えねぇ。さっちゃんが眼鏡を貸しましょうか、と見当外れなことを言ってくる。

「きっと長谷川さんは色んなものが足りないのよ。女を喜ばす冷たい言葉とか素っ気ない態度とか」
「それ持ってても職にはつけねぇよな」
「何?私はダメよ、もう決まった人がいるんだから」
「言ってねえ」

俺にだってハツがいる。はあぁ、と思わず溜息をついてしまう。さらば俺の少ない幸せ。

「私の彼なんか素敵よ」
「さっちゃんの彼氏さぁ、何してんの?おっちゃんに仕事回してくんない?」
「優秀な万事屋よ」
「────待って、おっちゃんすごく知ってる気がする」
「さっき会いに行ったけどいなかったのよね。きっと仕事中だわ、忙しい人だから」
(さっきパチンコにいるの見た、常に暇だからなあいつ…)

彼女と彼がどうして出会ったかは知らないが、これでさっちゃんの暴走だと言うことははっきりした。あれも自分と同じように、まともに会話してもらえないに決まってる。ここらで万事屋なんて酔狂なことをしてる奴を他に知らないから、まず間違いないだろう。

「────さっちゃんは幸せだねぇ」
「当たり前でしょう、何を寝ぼけたことを言ってるの。美人は報われるものなのよ」
「俺にも幸せ分けてよ」
「納豆なら分けてあげるわ」
「今度銀さんと飲めるようセッティングしてやるから」
「!」

 

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