狐 (辰+中)


「・・・祓うぞ」
「やれるもんならやってみなさい新米陰陽師」

ふふんと狐は笑って姿を消した。

────あの畜生、 辰巳は溜息を吐いて部屋の中をを見回した。
物音が聞こえたんだろう、パタパタと騒がしい足音がして部屋に誰かが駆け込んでくる。

「・・・あーっ!!また来たんですか狐ッ」
「きた・・・」
「あんなのさっさと祓っちゃって下さいよ!」
「・・・笠井は見えないからいいかもしれんがあれは俺が扱えるもんじゃない」
「そんなに高尚な化け物俺は許しません」
「化け物・・・」
「たかが狐じゃないですか、いつもみたいにパッと祓っちゃえばいいのに」
「そんなに簡単にいけばいいがな・・・」
「もーっどうにかして下さいよ!もしくは自分で部屋片付けて下さい!!」
「・・・・・・」

・・・その悲惨な部屋の現状に、辰巳は黙って笠井に手を合わせた。

「あーっもう・・・またに紙全滅!うちだってそんなに裕福じゃないんですよー!」
「・・・悪かったな安月給で」
「ここはひとつ辰巳さんも清明様の如く出世してもらわないと」
「無茶言うな」

机に零れた墨をを見て辰巳は溜息を吐いた。
溜息を吐きたいのはこっちですよー!と遠慮のない使用人から雑巾が飛んでくる。

「はーい、頑張ってんね」
「・・・中西!」
「え、きてんですか?」
「あぁ、後ろに・・・」

笠井は振り返るがそこには何もない。しかし辰巳には笠井の頭に手を載せて笑う長身が見えている。
だらしなく着物を着た男は笠井の元を離れ、足元に散らばった巻物を気にせずに踏みつけながら辰巳のところまで歩いてくる。

「大変そうね、手伝ってあげようか?」
「やったのはお前だ」

笠井が不思議そうな顔をしたので、ここ、と指を差してやる。それでも笠井には見えないので、笠井は諦めて部屋の片付けを開始した。
・・・部屋中の物という物が倒れ逆さになり右の物は左へ左の物は右への大移動をしている。それらは全て辰巳にしか見えていないこの男が原因だ。
いや、男というにも正しくない。性別という個体を持たない、そして生き物とも言えないもの。
狐とは称してあるが元狐とでもいうのか。狐も人型を取れるようになれば狐じゃない。

「・・・なぁ、なんでここに現れるんだ」
「手伝ってあげるー!」

ふいに男が手を挙げれば、部屋の中に風が舞い上がって巻物が飛ぶ。
それを拾おうとしていた笠井はびくりとして思わず尻餅をつく。疾風に目を閉じれば、その刹那にもう風は止んだ。
目を開けて笠井は硬直する。

「・・・辰巳さん?」
「・・・俺じゃない」

完膚無きまでに綺麗になった部屋がある。
散らかった巻物や本の類が整頓されただけではなく、埃なども一切ない。

「どーよっ素晴らしいでしょ俺!」
「ついでに屋敷中掃除してくれ」
「やぁよ」
「中西・・・どうして構うんだ」
「ん〜? あんたはさぁ、自分がそんなに才能ないって思ってるけど、俺のことが見える奴なんて早々いないよ?あんたの将来楽しみにしてんだよね〜」
「・・・・・・」
「一緒に天下取ったりしない?」
「・・・しません」
「絶対出来るからー、頑張って勉強してねv」
「・・・・・・」

さっさと成長して祓ってやる。
帰り際にまた部屋を散らかしていった狐に辰巳は胃痛を訴えた。

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