あ ん た だ れ ? (土山)


「山崎、お前何してんだこんなとこで」
「……知り合い?」
「いいや」

山崎の答えにギョッとして、土方は改めて男を見直した。屋台の前に設置された簡易な机で焼き鳥を食うこの間抜け面は、間違いなく山崎だ。この腹の立つ目だとかひねくれた髪だとか、何よりその腰に差したラケットだとか!
平素からふてくされた顔をした男は土方を胡散臭そうに見上げた。

「あんただれ?」
「なっ……」
「ナンパ?」
「違う! ……人違いだ」
「ああよかった。俺警察に知り合いなんていないもんね」

────そう、笑う顔も山崎のものなのだが。世の中に似た顔は3つあると言うが、事実なのだろうか。山崎のそっくりさんはそれきり土方から視線を外して友人と談笑を続ける。
山崎は最近姿を見せていない。というのも、私用で実家に帰っているからだ。少々長い休みだったが今取りかかっている大きな仕事はないし、山崎以外に監察がいないわけじゃない。大体が働きすぎであったから、近藤が申請されたよりも長く休暇を出している。勿論山崎しか知らない情報もあるから長いと言ってもたかが知れているが、実家でゆっくりするには十分だろう。

「なああんたお偉いさんだろ?」

あんたみたいな奴らもこんなところで飲むんだなぁ、山崎もどきの連れが絡んでくる。相当できあがっているようだ。俺だって飲みたいときぐらいあるんだよ、と追い払う素振りを見せたが更に絡んできた。すいませんねえ、山崎と同じ顔の男がそいつを引き剥がす。

「お巡りさんも大変でしょ、あんたみたいないい男だと余計に。顔覚えられて損しねえかい?」
「今みたいにな」
「ははっ、違いねえ。ま、お詫びに一杯」

片手で既に軽い瓶を向けてくるその動作は山崎のものとは違う。ここまで似た人間がいるものか知らないが、世の中案外そんなものなのかもしれない。元より人の顔を覚えるのは得意な方ではない。それらは全て山崎に任せてしまう。…それでも、流石に山崎の顔ぐらいはわかるだろうと思うのだが、なんだか自信がなくなってきた。
隣でわずかに難しい顔をした土方を見て、山崎はゆっくり酒を飲む。

(……「あんただれ」の一言でこんなに遊べるとは思わなかった……)

しかしこれはこれでかなり虚しい。酔っ払いの話に付き合ってやる土方を怒鳴りつけたくもなる。

「…そういやあ、俺生き別れの双子の兄がいるんだよ。もしかしたらあんたが知ってるのはそっちかもしれねえな」
「!」

目を輝かせた土方に笑いそうになるも、お前俺の履歴書見てるだろ!?とキレたくもなる。にわかに盛り上がる土方は子どものようだ。酒も入ったせいかふたりを合わす計画なんて立て始め、これはさっさと酔い潰すに限るとどんどん酒を送る。

(そういう素直なとこも、嫌いじゃないけどさあ)

このでくの坊ふたりをどうしよう。自分でまいた種ながら、興奮する土方を抑えて山崎は深く溜息を吐いた。

 

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